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第313話:現状 2

「そう言えば姉さん。スズを世界樹から連れ出したとき、一緒にいなかったんですか?」


 枢機卿が来客を迎えている間、冬は疑問に思っていたことを姉である雪に聞いた。


「なかなかの激戦だったから、私もうろ覚えなんだけど。どこかでスズちゃんを見失っちゃってね。戦いが終わる直前まで必死に探したけど、向こうに捕まった形跡もないし、裏世界からもいなくなったみたいでね。そこから私も言い方悪いけども悪用されないように保護しようと探してたのよねー」

「は~、そりゃ仕方ないって話やんな」

「冬のそばにいてくれてほんとよかったわよ」


 雪の言ったことに違和感を覚える冬であったが、本人だけでなく他の誰も気にしていない様子であったので忘れることにした。

 冬は以前、雪に『幻惑テンコー』をかけられて記憶を改竄されていた。記憶ということについては、樹と共に過去の自分が記憶を捧げてやり直しの型式『未知の先(フォールダウン)』を作り出していることもある。他にも、やり直しを経験したことで記憶がごっちゃ混ぜになっていることもあった。そのためか、自身の経験した記憶というものが曖昧になるという後遺症が一時的にあり、蘇生術として、信用できる相手が言っていることはある程度鵜呑みにすることにしていた。


「まあ、見つかったものは仕方がない。と言うより、ほぼ同時期に見つけておきながら、俺達より先に動かれてしまって後手に回ったのが致命的であったということだな。互いに、表立っての活動ではなかったが。準備の差だな」

「……僕が、許可証を取ることにしたから、ですか」

「いや、違うな。取ったからここまでなんとかできたが正しいな。取らなければ今頃はこんなことできていなかっただろう。……逆だ。お前が取ったから、ここまでなんとか挽回できた、だ」


 冬の許可証取得。


 そこから彼等の計画全てが、始まった。

 冬の傍に、自分が探し求めていた、キーパーツとも言える、成功体『苗床』がいることを知った。

 だけども、すぐに表立って動くことができない。

 理由は、冬が許可証を取得したから。『縛の主』にとって敵対した<許可証協会>に属されてしまえば、簡単に手を出すことができなくなったからだ。


 少なからず、いつかは見つかっていた。

 ただ、それが早かったか遅かったかの違いであり、もし冬が許可証を得ていなければ、その時点で、スズは裏世界へと連れて行かれて、世界樹で『世界樹の尖兵』を生み出す道具として扱われ、その力を持って世界樹と『縛の主』が世界を支配していたのだろう。


 冬の許可証取得は、遅くもなく早くもなく、奇跡のタイミングであったといわざるを得ない。


「あら、なに? もう始まってたかしら」


 そんな声がして玄関前の通路を見ると、香月店長がそこにいた。背後にはずらずらとファミレス勢――白紋綸子しろもん りんこ白羽二重しらばね ふたえ正絹梅まさぎぬ うめ雛菊牡丹ひなぎく ぼたんがいて、リビングにいる一同に手を振ったり思い思いの挨拶を交わしている。

 元々ファミレス『ミドルラビット』は、彼女達含めて十名の女性従業員がいる。香月店長や、冬、冬の恋人達を加えれば、総勢十六名程の従業員で成り立っていた。いずれもファミレス、ではなく、情報屋『ミドルラビット』として裏世界に関わっていて、今日は他の六名はお留守番のようだ。いや、今日「は」、ではなく、今日「も」、である。


「いや、擦り合わせ中だ。……まあ、なんにせよ。お前が元凶って話でもない」

「それならいいのですが……」

「とはいえ、それが分かっていて、結局向こうのほうにしてやられた、ということではあるんだが」


 春が、自分のせいだと思い込んでいる冬にため息をついた。


「盛り返すことは出来た。それは冬と大樹のおかげでもある」

「俺達がやり直したからだな」

「それがいまだに信じられないんだけどね~……信じるしかないけども~」


 ううっと苦悩する表情を浮かべてなよっと隣の彼氏に身を寄せる雫に、松もほんの少し気まずそうな表情を浮かべる。


「そりゃまあ……一周分、こいつらが知っている情報があるってことだからな」

「私と旦那様が姉弟とか、もっと早くに教えてほしかったけども~?」

「まあ、それがわかってようがなかろうが今こうやって一緒にいるんは」

「「愛の為せる技なんだけど」」


 息ぴったりの二人の意味のわからない理由と二人から出る何かしらのオーラに、全員が固まる。

 近くに椅子と机などを持ってきては座ろうとしていたファミレス勢も動きを止めるほどであった。


「……凄いわね」

「え、ここの女子率ですか?」

「それもあるけど。……あの具現化するほどに飛び交うピンク色というか、あの二人の間だけにあるあのオーラよ」


 香月店長が、二人を見て思うことがあったのか、呆けるように二人を見て「あれも型式なのかしら」と言い出した。


「店長……橋本さんとうまくいってないんですか?」

「失礼ねっ! うまくいってるわよっ!っていうか、あんたたちみたいに甘い空気出せるような歳でもないのよっ。ああ、本当にああいう風に普通にできるあなた達が羨ましい」


 『裏はいたっちゃー』の橋本と香月店長がうまくいってるから統合話があるのであって、もし二人の仲が悪くなったりしたらビジネスライクの付き合いになるのだろうかと不安になる冬である。


「てんちょー、それ私たちにもくるからいわないでー」

「裏世界で情報収集したりしてると、ほんっとうに出会いないんだから」

「なんで私こんな仕事選んだんだろう……かずちゃん達が羨ましい」

「型式という点については、なるほど……確かにあれを型式でなら出せそうですね」

「冬ちゃん? あれはどう見ても型式じゃないからね?」

「先輩、多分私達と仲良くしてるときもあれでてますよきっと」

「出てないと困るかな、私は……」


 何気なく呟いた言葉に、和美、未保、スズがそれぞれツッコミを入れてくる。否定するようなことでもないので、「出てるならいいですね」と答えると、当たり前という返答が三人から返ってきた。


「……まあ、それは今後店長が頑張ってもらうとして、だ。話を戻すぞ。とにかく、今の現状としては、冬が許可証剥奪後に、俺の許可証に塗り替えることでラムダからシグマの許可証を持って今仕事をしているわけだが……まあ、そこは、枢機卿、どうなんだ?」

『もうすぐ、ラムダの許可証も戻せるようになりますのでご心配なく』


 一年間、シグマとして、シグマの業績に押しつぶされそうになりながら仕事をしてきた冬としては、枢機卿のラムダが戻ってくるという一言に嬉しくなった。元は自分が取得した許可証であるから尚更である。


「ま、新生した<許可証協会>としては、やっぱそこらへんもしっかりしないとな」

『当たり前です。まずは虚偽を払い、正しくを為すですから』


 この一年で起きた何より大きな出来事。



「この一年で、旧体制を駆逐できたのは、本当に奇跡に近いもんだ」



 冬達が所属していた、<許可証協会>


 スズを奪還するために世界樹から殺し屋組織を動かして侵攻してきた『縛の主』と、『疾の主』に化けた殺し屋に言いように扱われていた許可証協会は、今はなく。



 新生<許可証協会>として生まれ変わっていた。



 そして、その長に……


「……問題は、俺が長となっていることについて、なんだがな」


 元<殺し屋組合>所属

 『別天津ことあまつ』の『天之常立あめのとこたち』を裏の名とした、元A級許可証所持者『シグマ』


「そうですね、お・義・兄・さ・ん……」

「義弟よ。まぁだ義兄って親しみこめて呼べないのか」

「いえ、十分親しみこめて呼んでいると思いますよ、お義兄さん」

「仲のいい義兄弟って、いいわねー」


 冬の義兄となった、常立春が、長となって、<許可証協会>を管理運営していた。

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