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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第八章:新生

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第310話:新居

「ただいまです」

「ただいまー」

「ただいまかえりました」


 人が二、三人同時に作業が出来そうな土間玄関で靴を脱いで床へと上がり、これまた複数人がすれ違える程度の広さの真新しいフローリングの通路を歩いてリビングへと向かうと三者三様の帰宅の挨拶をした。


「あ、三人ともおかえりなさい」


 広々とした天井吹き抜けの空間――何十人とでパーティができそうな冬ご自慢の自宅のリビングで寛ぐ女性が三人に声をかける。

 この家の女主人。冬の恋人、水無月スズである。


「和美さんも未保ちゃんも、お疲れ様、お風呂沸いてるよ」

「スズちゃんは今日どうだったー?」

「ぅ~ん? あまりいいことなかったですよ」

「スズ先輩、家で旦那を待ってる専業主婦ってイメージついてません?」

「ついてるなら私の勝ち」

「えー、じゃあ私も明日から家で待ちます」

「待つのも大変なんだけど? っていうか未保ちゃん、ここの家の管理って大変なんだけど?」


 いそいそと上着を脱いで脱衣場に向かった和美から「あー、広すぎるからねー。私ならやらない」と心底嫌だという思いの籠った声が聞こえて、スズと未保が笑いあう。


 そんな二人を見てソファーに座ってはぁっとため息をついた冬に、


「あ、冬ちゃん、一緒にはいるー?」

「いえ、なんでですか」

「なんでって、そりゃあ……今日の夜の前準備?」


 突然のお誘いに、和美が「な~んて」と笑うと、冬もまた慣れた様子で「ほどほどにしてください」と笑い返す。そんな二人に呆れるように渇いた笑いをする未保とスズを見て、和美はにひひと笑ってそそくさと風呂場へと消えていく。


『和美さん、着替え持ってきましたよ』

「あー、すーちゃん、たすかるー。いつもありがとー」


 とすでに湯船に使ってのんびりしていそうな、くぐもってリビングに聞こえた和美の声と、脱衣場から姿を現したのは、


『冬も未保さんもおかえりなさい。お二人も後で入りますか?』


 鮮やかな緑の髪を、ギブソンタックに整えた女性。

 濃緑を基調としたエプロンドレスに、フリルの着いた純白のエプロンをつけ、頭にはその姿――メイドの象徴、ホワイトブリムをつけた、クラシカルタイプのメイド。


 許可証協会

   許可証所持者専用ネットワークシステム


         『枢機卿カーディナル


 その分体ともなる、冬の専用ネットワークから自身の体を得た、冬の姉を豪語する、通称『すう姉』だ。


 人と見紛うほどに、いや、人よりも滑らかな姿をしているかのようなその機械兵器ギアは、冬を見て嬉しそうに笑顔を向ける。

 以前どこか硬い表情であったそれも、今では自然な表情と変わった彼女は、ソファーに座った冬の前に、温かな湯のみとお茶を前もって準備していたのかソファーの前の机に置きながら質問する。


「はい、すう姉。後で――」

「後で先輩と二人で入ります!」

「え、あの、さっき和美さんと一緒に入るかと聞かれて断ったのですが」

「和美先輩は冗談でしたけど、私は本気です!」

「いや、あの……えー……?」


 元気よく枢機卿に挙手して言う未保に、


『自身の意見を言うのは素晴らしいことですよ。あなたももう少しはっきり言ったほうがいいのでは? 冬』


 と、枢機卿がなぜか説教されてしまう。



 冬は今にして、思う。


 僕の家なのに、自分の意見が通らない、ということと、女子率が、高い、と。



 こうなってしまったのは仕方がないと思いつつ、でもこうなるべきでって後悔しているわけでもない冬としては、今更な思いでもある。


 ここに更に――


「――だぁ! もうつっかれたわぁ!」

「疲れる旦那様も素敵よ~」


 と、リビングに、冬達が入ってきた入口とは別の場所から扉を開けて入ってくる二人組みが。


「つーか、なんやねん、冬」


 すぐさまリビングに現れては冬の対面のソファーにどかっと荒々しく座り、不機嫌そうに冬を見つめるそばかすの男。

 どこの方言か分からない言葉使いと横暴にも見えかねないその態度、そして少し吊り目がよりそばかすと相まって「やんちゃ」という言葉を脳裏に浮かべさせる彼。


「おかえりなさい――と同時に何かありました? 松君」


 B級殺人許可証所持者

 コードネーム:『そばかす』

 立花松。


 冬の同期の友人である。

 主に『焔』の型式を使えるようになり、元々昇格候補であったこともあって、無事B級へと昇格していた。


「そそくさと帰るとかまぢありえんで。こちとら仕事終わったからかる~く飯でも食いにいこうとか誘ってるっちゅうねん」

「あれ~? 旦那様。今日は皆で集まる日だからたらふく食べてやるっていってなかった~?」

「いやほら、別腹っちゅうやつやで」

「デザートじゃないんですから」


 松の隣に座って、「旦那様はいつだって可愛い」とすりすりと頬と頬を擦り合わせている白衣姿の彼女――松の恋人で同級の『戦乙女ヴァルキリー』桐花雫が、「旦那様がお腹はち切れても縫合したりして治してあげるね~」と不気味な笑みと共に言うと、想像したのか松が青い顔をした。


「怖いこというなや。ほんで? わいが一番乗りかいな」

「ええ、一番乗りですね」

「ほー。なんや、めずらし~く店長はんとこ遅いねんな」


 松は「相変わらずでかいリビングやな」ときょろきょろと家内部を物色し、その隣にふわりとさりげなく雫が座る。

 そんな二人の前に、ことりと机の上にスズが湯のみを差し出しゆっくりと温かなお茶を急須から注いでいく。


「あ~、ありがと~スズさ~ん」

「いえいえ、お疲れ様です桐花さん」

「ね~ね~、スズさんにちょっと聞きたいことがあるんだけど~」


 ずずっと、まだ熱いであろうお茶を一口啜って机に置くと、雫はいつものほわっとした笑顔からきりっと真剣な、まるでこれから仕事をするかのような表情を浮かべた。


「スズさんは~……」

「……はい」


 珍しく真剣な表情を浮かべる雫に、スズも冬の隣に座って雫を対面から見つめる。

 ソファーにだらしなくふてぶてしく座る松が疑わしげに雫を見つめて興味なさそうなテイでお茶を飲み、冬もなにかあったのかと、スズが用意してくれた自分のお茶に手をつける。


 ずずっと、冬が一口二口、含んだところで――


「――コスプレ、したことある~?」




 ぶっはーっ!



 それはそれは。

 盛大な、噴水であった。

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