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――彼女が進む道―― 3

本話で閑話は終わります。


「あ~、まあ…その、なんだ。殺人許可証所持者の永遠名とわなカヤだ。そこんとこよろしく」


 歓迎会が食堂で行われ、カヤの最初の自己紹介の言葉がそれだった。


「とわな? どう書くの?」

「終わることのないという意味の永遠に、名前の名、だ」

「珍しい名前。……カヤちゃんって呼ぶね」

「あのな……」

「カヤってどう書くの?」

「何才なの?」


 群がる少女達に聞かれ、一人一人に言葉を返す暇もない。


「そもそも! 許可証に驚けお前等! 言った俺が馬鹿みたいだろ!」

「わ、おじさんが怒った♪」

「誰がおじさんだ!」


 その言葉だけには反論できた。

 いろんな少女達の言葉の中で聞こえた言葉に言い返せた自分が、誇らしかった。


「これだけは、譲れないな」


 微笑を浮かべながら、自分を「おじさん」呼ばわりした少女を見る。


「じゃあ、管理人さん♪ メイの知り合いなんだってね。嬉しそうに教えてくれたよ♪」

「変なこと聞いてないだろうな、茜」

「わっ! 何で名前知ってるのっ!」


 驚く顔が面白くて、思わず笑う。


「名簿見ればわかる。そんなことより誰でもいいから、頼むから驚いてくれ……そんな役をお前に任せる」

「聞いて驚いて♪ 私の彼氏が許可証所持者だからです♪」

「うお、所持者の彼女が一般の子なんて聞いたことねぇ。……って俺を驚かしてどうする」

「へへ~♪ 凄いでしょ。だからこの女子寮のみんなは許可証においては免疫がすでにあるの♪」

「いや、それはそれでどうかと思うんだが……」


 人を殺しても咎められない。

 表世界でも一般的に公開されているものではあるが、そんな表世界では非常識な許可証が、今この一般的でもある表世界の、それも女子寮の中で免疫あるということがとてつもなくおかしいと思う。


「それにね♪ 今日ここに呼んでるからもうすぐ来ると思うよ♪」

「……俺の知り合いじゃないだろうな」

「会ってからのお楽しみ♪」


 聞いて損した。

 そんなことは数秒で忘れてしまえと、カヤは煙草の吸えない状況下で溢れ出す煙草を吸いたい欲求をどう発散しようか考える。


「いた! おっさん! ちょっとこっちきなよ!」


 荒い言葉使いをする少女が、少女と少女の間から手招きしているのが見えた。


 赤阪望。先ほど管理人室を訪れた少女だと気づくのに時間はかからなかった。


「それだけじゃなくてね、望も許可証所持者だよ♪」


 茜の言葉にカヤの動きがぴしっと止まった。


「……は?」

「だから別に珍しくもないよ♪」


 許可証所持者のオンパレード。

 そんなに安売りしてるのかと思うほど許可証所持者という言葉が出てくる。


「……ありえねぇ……」


 そう呟きながら望を探す。

 望は周りを自分より低学年であろう少女達に囲まれながら笑いあっている。やはり低学年の女の子に人気があるらしい。


「あ~……もしかして前の管理人を追い出したのも望か?」

「あ、前の管理人のこと聞いたの?」

「さっき望が言ってた」

「そうだよ、おかげで安心安心♪」

「俺も追い出されないようにしないとな」


 その前に報復とか考えてなさそうだが、アフターケアはちゃんとしたのだろうか。

 ……いや、今は考えるのはよそう。

 一瞬仕事モードな考えがよぎった自分を戒める。 


「おじさんも仕掛ける気満々なの!?」

「誰がおじさんだっ! って言うか仕掛ける気なんぞあるかっ!」


 ぱこんっと茜の頭を殴るといい音が響いた。

 その音に気づいて望がカヤに手を振る。


「おっさ~ん」

「あ~、今行く」


 とりあえず少女達の囲いから逃げるため望のほうへと避難しよう。

 あそこなら周りは望に向かうだろう。


「おっさんならいいの?」


 移動しようとするカヤの後についてきた茜が、叩かれた後頭部を擦りながら聞いてくる。

 後ろを振り向けばぞろぞろと少女達がついてきていた。


「……お前に言われると、なんか殴りたくなる」

「不公平! それ、絶対に不公平!」

「不公平もくそもあるか!」

「お兄ちゃん!」


 そんな声とともに、がしっと急に背後から抱きつかれた。


「あのなぁ~。なぜ抱きつく……」


 脱力しながら周りを見渡すと、大勢の少女達が楽しそうに話している。

 50人もいれば流石に騒がしい。


 抱きついてきた少女を軽く持ち上げて背中から離す。

 香月美冬。カヤが螺旋状の階段を登っていた時に出会った少女だった。


「ここ、落ち着くんだもん!」

「茜に抱きつけ」


 横にいる茜を指差すと、茜も自分を指差して驚く。


「茜ちゃんは悪戯するから、だめ~」

「他に抱きつけ」

「いつも抱きついてる~」

「……そうなのか?」

「抱きつかれてるね」


 また再度周りを囲む少女達に聞くと揃った答えが返ってきた。

 いや、囲まれると歩きにくいのだが……。


「つまり、お兄ちゃんに抱きつくのだよ」


 そう言うと、また美冬は背中に抱きついてくる。

 何を言っても無駄な気配が漂っていて素直に諦めた。

 ため息をつきながら、持っていたジュースの入ったカップを落ちないように口に挟むと美冬を背負い歩き出す。






















 お兄ちゃんがダメなら。

 お兄ちゃんの血を引いた、お兄ちゃんなら、いいよね?




 ほんとはね。

 いやなの。



 だって、お兄ちゃんと美菜からお兄ちゃんを奪ったあの女との子供なんだから。

 半分お兄ちゃんじゃないんだって思うと、ちょっとばらばらにしたくなっちゃう。

 でもお兄ちゃんは強くなりすぎたの。

 だから、力が弱まった今を待ったの。


 強いけど、私に気づけない程度に、弱まった、今。

 ……あ、違うね。

 強いままに。だけど弱まったのではなくて、美菜を警戒しなくなった、今。




 半分だけお兄ちゃんじゃないのなら。


 その半分の血を、残りのお兄ちゃんの血を入れなおしてあげたら、

 お兄ちゃんになるからいいの。







 私は新しいお兄ちゃんの背中に抱きつきながら思う。




 お兄ちゃん。

 もうすぐだよ。

 もうすぐ、私と、私の中に今もいるあにぃで。



 愛でて、あげるからね――












 ――彼女が進む道――


 雪が止む頃に

 永遠名カヤの物語での異物より


 完

なろう様側では一旦中途半端なところにはなりますが完結となります。(2024/07/20)

長い作品ではありますが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


カクヨム側がメインとはなりますので、あちらに近づいたからとはなりますが、またあちらのストックが溜まればこちらも更新してまいりますので今後ともどうぞ本作をよろしくお願いいたしまする〜m(_ _)m


なお、続きが気になる方は、カクヨム側で100話以上話が進んでおりますのでよかったらそちらをご覧いただきつつ、なろう様、カクヨム両サイトでよければ評価、お星さまを左から右へ色塗りいただけますと励みになります(≧∀≦)


どうぞよろしくお願いいたします!

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