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第307話:壊れ壊れて生まれ変わる 20

「……あ。そう言えば、エレベータを使わずに地上に上がれるんですよね?」


 冬は、やり直し前の逃亡時に、姫が言っていた歩いて表世界へ上がれると聞いたことを思いだす。


「……冬君。それ、どれだけ距離あるか知ってるかい?」

「……あ」


 瑠璃がいつもの笑顔だが呆れたような声を出した。

 ここにいる許可証所持者達は問題なくその手段が使えるだろう。

 だけども、結局は、彼女達が一緒についてこられるのかと言われれば、否となる。逃亡中に追いつかれてしまえば、チヨが言ったように死んでしまう可能性も高い。


「……乗り物」


 チヨが、おとがいに手を添えて考えるようにぼそっと呟いた。


「どこか心当たりが……なさそうだね?」

「気にするな。思いついたことは言葉にするタイプだ、こいつは」

「あるんやったら使うわな。つか、裏世界から車とかそういうんで移動するって聞いたことないで」

「う……皆辛辣じゃないかな、かな!?」


 チヨがみんなに執拗に責められている間、冬はチヨが言った『乗り物』という言葉に引っかかりを覚える。


「……表世界の物資を、裏世界へ」

「んあ?」

「両方の世界での物資の取り扱いがあるはずですよね」

「……なるほどね」


 裏世界というものは、広いようで狭い。

 世界としては広いが、世界樹が侵食してきていることからも、人類の居住区域が狭いという意味で、狭い。

 ちっぽけなその世界で、彼等は生活をしている。

 食料や衣類などの生活必需品といった、衣食住のうち衣と食を賄うのはどうしているのか。裏世界産もあるだろうが、賄えるわけがない。

 そう考えると行き着くのは――


「――裏世界のどこかから、という事じゃない限りは、表世界から、輸入している、だね」


 流石にその狭い世界だけで、裏世界に住む全員を養える程のものが揃っているわけではない。

 冬は以前、仮免許証の時に、当時の審査員シグマこと常立春に最終試験と言われて表世界を探しまわったことがある。

 タクシーの運転手と意気投合して暴走行為に近いことをして裏世界に関係していそうな場所を探していたことがあったが、その時に裏世界関係者と思われる彼等は明らかに裏世界と交流している風であった。

 輸入、または輸出である。


「運び屋がいるってことかいな」

「あまりいい話じゃないけど、表世界から拉致してくる『運送屋プレゼンター』の場合もそれでやってるのかもしれないね」


 その道を使って、大量の物資を、輸送しているはずである。

 輸送しているということであれば、乗り物を使っている可能性が高いということに行き着いたのだ。

 『運送屋』という単語は冬の中で禁句ではあるものの、考えてみれば人を運ぶに当たってもそのように動くだろうし、もしかしたら母親が表世界へ逃げ出す時もその道を使った可能性もあるのではないかと、冬の思考がどんどんと違う方向へ加速していく。


「……まあ、ありえん話ではないな。それを使うということか?」

「それこそアテあるのかな、かな?」

「「ない」」


 チヨの質問に、誰もが、ない、と答えた。


 彼等は、そこに行き着いただけであり、伝手もない。

 ファミレス関係者たちをちらっと見てみるが情報屋の彼女達も首を振るだけだった。

 情報屋達も、表世界に出るときはエレベータを管理している許可証協会に申請、受理して上がっている。抜け道はあるものの、真っ当な彼女達は、エレベータで移動し半分足を洗ったのだ。


 二十人程の新人許可証所持者達も、その運び屋達には関係しているものはいない。

 彼等は表世界へ行った事はないが、行くとしたらエレベータまたは歩いて地上へとあがることもできるだろう。


「思いついたけど、難しそうだね」


 瑠璃が「いい案にも思えたんだけどね」とため息をついた。


「……おい、お前達」


 そんな中。

 許可証所持者達の一人。深いフードから時折見える頬に、『No10』と書かれた男が外の気配に気づいて顎で外を指した。


「……ここは立ち入り禁止じゃなかったかな?」


 瑠璃も『探知』を使って辺りを探り、ソファーから立ち上がる。

 数としては一人。

 ばたんっと扉を開けるような音が聞こえて、誰かがこの場に来たことに気づいた。


「入れるとしたら、<鍛冶屋組合>でそれなりの地位のものか、または、この辺りの復旧作業するための人員だろう。……まだ復旧の目処は経ってないと思うが」


 外はもう夜。

 夜中にこの場所で復旧作業をするとは思えない。

 不夜城のように光り輝く<鍛冶屋組合>ではあるが、この辺りは姫が起こした爆発によって暗い。

 まるで冬達がいるこの場所に狙い定めたかのように誰かが来たことは明らかに不審だった。


 スズやファミレス関係者たちも疲れきった重い腰を上げ、隣の部屋からは和美と未保を丁寧に担いだ姫の護衛の二体の機械兵器ギアが現れる。休んではいたが逃げる準備は整っていた。


 裏手から奇襲の為許可証所持者達が出て行き、正面の玄関からは冬と瑠璃、松、そして枢機卿が。後方に樹と、樹が護るべきチヨが立ち、更に背後にファミレス関係者達と和美と未保を担いだ機械兵器ギアがいつでも駆け出せるように構えた。


「いきます……」


 冬が、扉を開ける。

 すぐさま、瑠璃と松が冬が開けた扉から飛び出し――






 ――カッ






 眩しい光が冬達を襲う。

 そのあまりの眩しさに、思わず冬だけでなく、瑠璃と松も動きを止めてしまった。


 敵。

 敵の前で動きを止めたのは、致命的。


 すぐに体勢を整えようと、瑠璃と松が迎撃のために左右に散る。

 正面に冬が立ち、眩しさに目を薄く開けながら、目の前の敵をみた。



 そこにいたのは――


「これは……」


 大型トラック。



『当日速達お任せください!

  2時間以内に届けたかったら料金2倍!

   あなたのおそばに『裏はいたっちゃー』』




 と、ギミック式の、正面に押し出された看板に大きく書かれた大型トラックだ。

 そして、そのトラックの前に、人がいた。トラックのヘッドライトを浴びて立つのは、シルエットからして、一人の男。


「ここに来れば、あんたに会えるって聞いてな、来たぜ」


 冬は、覚えていた。

 それは先ほど少しだけ思い出した最終試験の時のこと。

 許可証を手に入れる為に、タクシーの運転手と共に暴走したあの時を。


「……困ってるんだろ? 乗ってきな」


 あのときの、タクシーの運転手だ。



















「とりあえず、走って下さい」


 まさかここで出会うと思っていなかった冬は、彼とまた会えると思ってもおらず、すぐさま皆を有無を言わせず誘導してトラックのコンテナ部分へと乗せた。

 コンテナ部分は、人が何十人と乗れるように座り心地の良さそうな椅子が対面式につけられ、物流ではなく、まさに今必要としていた人を運ぶ用と改造され、真ん中にはテーブルもあり、それこそ、その場で宴会でも出来るかのように作りこまれていた。


「……いいんだね?」

「あなたの赴くままに。行けるところまで」

「「あの時のように」」


 二人がにやりと笑い、


「魅せてやるぜ。あの時のように俺の華麗なドライビングテクニックをな」

「また、共にリズムにノらせてくださいっ」


 運転手がシフトに手をかける。


「……二人しか分からん世界やな、これ」

『これが、BLというやつですか?』

「いや、絶対違うぞ。ただの拗らせだ」

「あの~……安全なの~? これ~」

「えっと。で、行き先は……どこなのかな、かな?」

「「……あ」」


 皆の呆れた声は冬と運転手の耳には入らず。

 ただただ、トラックは裏世界と表世界の運搬用経路を使い、表世界へと突き進む。






 そして彼等は。

 自分達が正しいと信じて、冬と共に裏世界から脱出し、機を伺うことになるのだが――




 ――チャンスは、意外とあっさりと、早くに訪れることになる。





 第二部:求め、直す者

 第七章:求める者

 敗北を胸に。


 完

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