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第297話:壊れ壊れて生まれ変わる 10

「お前さぁ……ナニモン?」


 姫の発言に誰もが言葉を失った。美菜と音無でさえ言葉を失ったのだから、それが正解だったと冬と枢機卿は理解した。

 そしてその後に我にかえった音無が怪しむような表情を見せて姫へと質問する。


「なに、と言われましても。ただのメイドですよ」


 姫の様子がおかしい。

 冬達がそう思ったのは、すぐだった。

 だけども、すぐに二人はおかしい理由を理解する。


 それはやり直し前の話だ。

 姫は誰と戦った? 誰と戦い、そして自分達はどのような状況に陥った?


 その、



      『混迷』と、戦って。



 冬は、思い出す。

 あの戦いを。

 思い出すと疼くのは、右目だ。


「ただのメイドなわけねぇだろう。メイドだったらそこらの奴隷市場で買って飼い慣らせばすぐに出来上がるし、モノホンならいくらでも堪能してきた。お前みたいな姿して裏世界で活躍してるやつだって見たこと、……は、ねぇけど、そんな格好をしている程度のメイドだったら腐るほどそこらに転がってんだろ」

「ええ、腐るほどそこらへんに転がっているメイドですよ。別におかしな服装でもないでしょう」


 姫が、何を言っているのかと口元を隠すようにおさえる。その隠れた口からは、にやりと、確信を得たとばかりの笑みを浮かべて音無を挑発する。


「私の質問に答えずに話を逸らそうとするのなら、当たっていた、と解釈しますが」

「当たっていようが当たってなかろうが、どっちでもいいだろそんなもん」

「そんなもん?」


 姫はほんの少し俯くと、「くくっ」と押し殺すような笑いを上げた。


「あれをそんなもんと言うとは。つくづく愚か。だからあなたは何も考えずにあれを使おうとするのですね」

「……危険かどうかくらいは分かってるつもりだけ――」


 ――びしっと。それは話してた音無の目の前に、急に現れた。

 冬の隣から、少し遅れて風が吹いた。

 その風を起こしたのは、姫である。姫であるのだが、姫は冬の隣にいない。


 すでに、音無の目の前だ。

 今度は、姫の質問に対しての沈黙ではなく、姿が見えなかった力の差に対する沈黙が訪れた。


「知っているわけがない」


 近くに来ることで聞こえる、ぶぅぅんっという駆動音のような音。音無の耳に入ってくるそれは、ソレが起動している証拠である。


「……止める方法があるといったら?」

「あるわけがない。――……いえ、ありますね。ありますが、あなたには止められないですね」


 辺りがいくら明るくないとはいえ、少なからず天井から蛍光灯の光が注ぐその場所で、真っ白というそれ以外色として知覚出来ないほどに純粋で純白という表現が正しい色をしたソレ。


「……へぇ? じゃあ、お前が言うあれを、どうして止められないって? 俺が、それをできるかもしれないだろう? 俺が、知っているかもしれないだろ」

「あれ――『混迷』の、エネルギー動力源をカットできますか?」

「……あ? 動力源?」


 姫が、「わかりませんか。では。今あなたの目の前にある、これの力を、処理できますか?」と追加で問いただす。


「できるさ」


 目の前に突きつけられたソレ――姫の『牛刀』をさも自分ならなんとでもなると言う音無に、姫は笑う。


「出来ませんよ。あなた達人類にそれを為す術がありませんから。では聞きましょうか。これの力が何か。分かりますか?」

「電子の機械で作り出されたレーザーの集約武器だろ。それか型式で作ったただの――」

「――どちらも不正解ですね」


 ひゅっと、切り下ろすように牛刀は音無の顔面の前から地面へと。向けられた。


「型式なんて人が使う惰弱な技をメインに使うわけがありません。だから分かっていないというのですよ。これは、石ですよ」

「……は?」

「石でできているのです。私の『鎖姫』も同じく、ですね」

「……そりゃ、信じられねぇな」

「信じられない。その時点でもう無理ではないですか。理解さえしていない。石というものがどういうものか。私界隈であれば石といえばすぐにわかるものですよ。……最初からわかっていましたが、やはりあなたはあれを動かすべきではないし動かしたところで制御できるはずもない。ただの興味で動かすくらいなら最初から手を出すものではありませんよ、人ごときが」


 姫の馬鹿にしたかのような笑みに、音無のこめかみに力が篭った。

 だが、そこで音無は、違和感に気づく。だけどもそれには気づかないフリをして、姫を睨みつける。


「オーパーツ、といわれていましたが、そうですね。あれも、これも、まさにオーパーツ。……触れてはいけないものだと、警告を以前したのですが。それでも自分なら操れる、止められるなんて思う馬鹿には、どうやってもとめられないのですよ」

「オーパーツ、ねぇ……」

「もっとも、私からしてみれば、それであった経緯もありますし、御主人様やナオ様の技術をもってすればそういうものではないと思いますが」

「……意味、わかんねぇけど、お前界隈はそれを作れるってことか」

「そうですね。作れるからこそあれの存在と戦うこともできるわけですが……あなたごときが、制御できると思えない、思うことがなく、聞いているこちらは滑稽だと思えてしまうのですよ」


 姫がコツコツと音を立てて、音無の隣へと進む。

 その間、誰も、動けない。姫の独断場だ。


「だから。あなたごときが。あれを動かす暴挙を許すことはできないですし、動かしたことで起こる災厄を、止められるわけもないのですよ」

「……はっ」


 まだ、動かしていない。

 そんな未来に起こりえるかもしれない状況さえにも指摘を受け、音無はなぜそんなことを言われなければならないのかと鼻で笑うしかなかった。


 だが、音無自身、それ以上その話に付き合う必要はないと感じていた。

 これ以上、目の前のメイドと話しても、情報は得られるが、その情報が何を指しているのか、到底分からなかったからだ。


 目の前のメイドにコケにされているようで、ただただ怒りだけがふつふつと沸きあがる。

 だけど、音無は、姫に対して行動に移すことは、できなかった。

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