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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
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第295話:壊れ壊れて生まれ変わる 8


「さて。『人形使い』さん。あなたの人形たちは悉く私達が倒したわけですが、まだ戦いますか?」


 姫が、美菜へ向かって白刃を向けた。

 きらりと天井のライトに煌く刃は、死体を切り刻んできたとは思えない程に綺麗に輝く。


『人形がないからといって、油断はしてはなりませんよ、冬』


 冬を挟むように姫とは反対側に枢機卿が立ち、ごつんっと、棍の石突を地面に打ちつける。その棍は姫の白刃とは違って赤黒い血をまだ残し、てらりと怪しく光る。


「ええ、勿論です。僕がまだまだ勝てる相手ではないと思っていますから」


 だから助けを求めたのだと。

 冬は左右を守るかのように立つ二人の姉に、勇気付けられながら目の前の美菜を見つめる。


「でも。勝ちますよ。お二人と一緒なら」

「あははっ☆ お兄ちゃん、おばさん達が一緒に戦うからって、まだ美菜に勝つつもりなのー?」


 笑いが止まらない美菜が、冬と言う最上の愉悦に笑いすぎて溢れた涙を拭いながら、片手を天井へ向かってあげた。

 その手から薄い緑色の光――『疾』の型の力が発動し、冬達の背後へと散らばっていく。


「死体ってねー」


 もぞもぞと。

 背後で蠢く何かの気配を感じて振り返ると、何体かの死体がのそのそと立ち上がっていた。


「死んでるから、いくらでも動かせるんだよー?」


 いずれも満身創痍。どこかしらを欠損した死体が数体。

 他にも何体かは動こうとはしていたが、ほとんどががくがくと動くだけで立ち上がることはなかった。


「あれー。壊れちゃってるの多いなぁ~。ちょ~っと時間あればくっつけて作り直すんだけどなー」


 美菜と死体に繋がるように伸びていた薄緑が、動かすことをやめたのかまだ動く死体へと光を伸ばして、まだ動く死体へ繋がる光をより太くする。


『流石に全部は壊しきれていませんでしたか』

「ん~、この数を操っていたのに無傷でこれだけの損害出されるとは思ってもなかったけどねっ☆」


 美菜が、「初めてなことが多くてちょっとイラっときちゃった☆」と笑いながら冬の隣で立つ二人をにらみつけた。


「リンクが太くなればその分思い通りに動かせるようになるから、少ないほうがより強いんだけどねー。あ、お兄ちゃん、美菜に操られてみる?」

「何のお誘いですか。結構です」

「んー。じゃあ、お兄ちゃんを操るためにまずはやっぱり隣のおばさん達を倒さないとだめかー……」


 なんてことないという風に二人を倒せるという美菜。その美菜に枢機卿はぐっと棍を持ち直し、姫は鼻で笑うように失笑した。

 冬からしても、美菜のその自信がどこから来るのかは分からない。

 どれだけリンクが太くなって思い通りに動かせるようになったとしても、美菜と言う存在がどれだけ強い存在であろうとも、


「私に、勝てる。……なるほど、実力の差さえ見えない、馬鹿でしたか」


 冬も、姫に、勝てると思っているとは。と、同じ意見であった。姫の強さが分からないようであれば、裏世界で生きていけるわけがないし、美菜は殺し屋組織の中でも弐つ名持ちであることから有名であり、その有名さは『別天津』という天地開闢になぞらえられた称号とも言える弐つ名も別で持っているのだから、実力の差に気づけないわけがないはずである。


 なのに、姫に勝てると断言しているのは、よっぽどの愚者か、隠し持った力が特殊であるのか。


 それとも――



「――やっと見つけた」


 姫を倒せる程の力を持った、何かがいるか。

 そのどちらかである。


「……厄介な」


 男の声。その声に、姫は珍しく舌打ちした。

 心底嫌そうな表情。冬は姫がその表情を浮かべていたのを一度だけみたことがあった。


 <――美しい……>


 それは、過去、姫に向けられて呆けるように呟かれた言葉だ。

 黒く統一された服装に白いエプロンが映える。見た目の美しさがよりその白黒を際立たせ見目の妖艶さがより深く生きる。

 そのような言葉を向けられることは多々あるほどに美しい姫ではあるのだが、その時は嫌そうな顔をしていたのを冬は覚えている。


 その一言をかけられたその時から、姫は表情に嫌悪感をのせたものだ。



 <君があの『鎖姫』……なんて美しいんだ>

 <御主人様に言われるならまだしも、貴方ごときに言われても何もありませんね>

 <御主人様というのは、そこの犯罪者かい?>

 <掠りもしませんが>

 <違う……? ならどこにいるのかな? それがいなければ、君は僕のことを御主人様と崇めてくれるかな?>



 冬を陥れる言葉と気持ち悪い褒め言葉に反論するも、返される言葉は自意識の塊のような発言。


 <ラムダ。……これはなんなのですか>

 <……一目惚れ、というやつですかね?>


 冬から教えてもらった一目惚れという現象。

 御主人様にしてもらいたいと願ったあの時。自身は御主人様に一目惚れしたという事実はまた別としても、この男からされるというのはとにかく虫唾が走った。


 <私は日頃から情報を集めているんだ>

 <<情報組合>の管理者なら当たり前ですね。くだらない>



 <情報組合>

 そのトップであり、最高管理者。

 そして、裏世界最高機密組織『高天原』の四院、その『主』の一人である、彼――



 『疾の主』 形無疾かたなし やまい



 <……網羅された情報のなかに、唯一分からないことがあったんだ。世界中の全てと言える情報を手に入れる、閲覧できる僕が。鎖姫という存在だけがどうしても分からないんだ>

 <……貴方みたいな愚鈍に、私が分かられては堪りませんね。私を知ることができるのは御主人様だけです>

 <いつどこで生まれ、どうやって裏世界を震撼させるほどの力を得たのか。いきなり現れた女性。あらゆる情報が謎の存在。情報屋として鎖姫を暴き、手に入れることが永遠のテーマとさえ思えるよ>


 相手の異様な、じろじろと纏わりつくような気配。

 見ることさえもおぞましいと思えるほどにねちっこい視線。


 <いつか会えたら手中に収めたい。常にそう思い続けていた。気づけば私は、その存在に夢中になった。……必死に見たこともない存在を想像したのさっ! どんな人物なのか、どのような顔をしているのか、声は? 口調は? なんてねっ! だってそうだろう!? 裏世界で圧倒的な武を持って殺戮の限りを尽くし、なのに殺されていく奴らやその現場を見た者誰もが『女神』とさえ言って陶酔しているのだからっ!>

 <ラムダ。頭が痛くなってきました>

 <は、はい。気持ちはなんとなく>

 <それなのに、君は、君という存在はっ! 誰もがその存在に口を噤み、誰もがその美を脳内だけでも占有し続けようと公表せず。ただただ、そんな存在がいるということだけが世界に広がっている! そんな存在、興味がないというほうがおかしいじゃないかっ!>



 そう、自身の芝居がかった欲求に陶酔するかのように想いを吐露されたあの時。

 <情報組合>という、裏世界で枢機卿のように情報を扱う組織。


 その最高管理者として、情報収集家(コレクター)であり、人蒐集家(コレクター)としても名高いその『主』。


『そう言えば、『疾の主』も敵側でしたね』


 枢機卿が、自身と同じく情報を扱う相手を睨みつける。

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