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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
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第293話:壊れ壊れて生まれ変わる 6

 【糸】に。

 風のような鋭さを秘めた『疾』の型と、一撃を高めるために強度を持たせた『縛』の型を。


 【自身】に。

 自身を守るための『疾』の型と筋力強化のための『焔』の型を。場合によっては『縛』の型ではなく『焔』の型を糸に組み合わせて、自身に今と同じように『流』の型で自己治癒を高めれば。


 一つに二つまでなら。

 一つを、増やせば。


 冬は、自身の指から今は垂れるように地面に落ちた糸を動かそうとした。

 糸に、型式をのせる。のせることで糸は強靭になる。

 一つの型式同士の戦いでは、美菜に分があった。だけども、まだ、型式の工夫次第では。と――


 ――冬は、そこでふと思う。


 美菜の指先から出ていた光。

 あれは型式だったのではないだろうか、と。

 型式であると把握していたが、よりそれを型式なんだと認識する。



           糸。



 『人形遊び(ドールメイク)』という能力は、死体を操る能力だと冬は思っていた。

 では、その死体を操るには、どのようにしているのか。それが、型式で作り出した糸であったのなら。

 自分と同種の糸の使い手なのではないか、と。冬は考える。


「お兄ちゃん」


 背後の姫と枢機卿を恨めしげに見ていた美菜が、気づけば胸に埋まる冬をじっと見ていた。

 美菜の胸元から、下から見上げるように目だけを動かすと、目と目があって、美菜は嬉しそうな笑顔を見せて言う。


「お兄ちゃんの糸は、もう使えないよ?」


 ぎょっと。

 今自分が糸を動かそうとしていたことを悟られたことで、冬は驚きの表情を浮かべてしまった。


「糸が……動かない……?」


 美菜の言っていたことが理解できた。

 指に絡みつくように。

 目を凝らすと、美菜の型式が指を守っているはずの冬の『疾』の型を侵食していた。


 冬の『疾』の型の防御膜と同じ色合いの型式。

 明らかに自分の型式ではない。


「お兄ちゃん。知ってる?」


 それは、美菜の『疾』の型だ。

 意識を集中させて美菜を見る。体をうっすらと守る、今冬の指を侵食する、冬と同じような型式の膜が見えた。


「同じ型式同士で戦って支配する場合はねー。相手に自分の型式を悟られないようにすることと、相手の型式に同調させればいいんだよー?」


 同調させる。

 美菜のその言葉を、すぐに理解した。


 型式使い同士の戦いは、自身のイマジネーションと習熟度であっさりと決まる戦い。

 相手が起こすイメージの力を、そのイメージを相殺できるほどに自身もイメージする。

 発現した力に対抗することで、耐性を自分で作る。


 『焔』の型には『流』の型を。

 『流』の型には『縛』の型を。

 『縛』の型には『疾』の型を。

 『疾』の型には『焔』の型を。


 自身が使う型を考え、敵に合わせ、常に発動しながら戦う。

 その時々に応じて使い分ける。


 そう教わったことを、思い出す。

 勿論そうしなければいけないわけではない。

 現に冬は、『疾』の型を好み、その型だけで戦っている。他の誰もを見ても、必ずしも相反する力を常に使い分けているわけでもない。

 そうすることで、最小限のダメージで戦えるという話なだけだ。


 体制、相反、相殺。

 では、逆もできるのではないだろうか。


 同調。同じ型式を合わせる。

 その力の代表的なものとして、『流』の型だ。


 <『流』は人を癒し慈しむ>


 以前、弓が、型式を教えた時に冬に伝えた言葉だ。

 それと共に、冬の体の傷を癒してくれた。

 弓だけではない。

 冬は、実姉の雪からも、それを受け取っている。 


 『犠牲サクリファイス』という型式によって、消失した右目を雪の右目を代用して移植している。


 これらは、型式を同調させることによって行われた、自身の、または互いの自己治癒能力を活用した力だ。


 美菜は今、その同調を、『疾』の型で行っている。

 だけども、『疾』の型で行われたそれは、今まで冬が受けてきた『流』の型と違う。

 型式と型式の同調。――つまりそれは、型式による侵食だ。

 先程冬が考えたように、糸に美菜は自身の型式を付与し、ゆっくりと指先へと近づいて侵入してきたのだ。


 いつから。

 そう思えば、それは戦いが始まってすぐ。

 美菜が高々とあげた光。

 あの光が糸に絡まっていたのだから、その時から糸はすでに主導権を握られていた。


 糸を使う。

 美菜は冬と同じように糸を使って戦うタイプなのだと先程思った時点で、もっと早くに動くべきだったと、気づくべきだったと悔やんだ。


 美菜は。


 その『人形遊び(ドールメイク)』という型式の性質上、常日頃から操り人形という何かしらで遊んでいる。

 裏世界で、日常的に、人を操っているといって間違いないだろう。


 つまりは。


 冬より、糸の扱いに長けているのだ。



 いつまでも糸を自分の手元から出していれば、それは隙になる。

 糸は、冬の体の暗器から出ている物質だ。

 糸には冬の型式は使われていない。守られていないのだ。


 そんな糸が、指の近くから防御膜から飛び出しているのだ。

 そこは、もっとも防御膜が薄いところでもある。


「ほら、もうすぐだよお兄ちゃん、もうすぐ美菜好みのお兄ちゃんにしてあげるからね☆」


 冬の防御膜に同調し、防御膜を取り込んでいく。

 次第に指を守っていた膜は美菜の型式と同色の色へと変わっていく。


「糸を……」


 糸を、ぷつりと。

 暗器から張り巡らせていた糸を切った。

 これで侵食を防ぐことが出来る。


「切り離しても、無駄だよ? だってもう――」


 じわじわと、何かが冬の心の中へと入り込んでくる感触を感じた。


「――お兄ちゃんの中に、入っちゃったから☆」


 必死に抵抗する。

 だがその抵抗は、絡めとられては包み込まれて服従していく。

 両腕の色が、変わる。



「ぁ……ぁぁ……」

「意識をしっかり保ちなさい!」

『冬っ! 後少しです! 耐えてっ!』


 ひめ姉と、すう姉の声が冬の耳に届く。

 届くが、それよりも早く、美菜の侵食は冬へと絡んでいく。



 次第に、心を満たしていくのは、美菜と共にいたいという感情だ。


 美菜ちゃんが欲しい。美菜ちゃんの傍にいたい。美菜ちゃんから離れたくない。美菜ちゃんが近くにいる。美菜ちゃんを抱きたい。美菜ちゃんを愛したい。美菜ちゃんは僕のもの、僕だけのもの。美菜ちゃんだけをみていたい。美菜ちゃんを誰にも見られたくない。美菜ちゃんを自分だけのものにしたい。美菜ちゃんを壊したい。美菜ちゃんを抱きたい。美菜ちゃんを隠したい。美菜ちゃんを愛でたい。美菜ちゃんを――


   美菜ちゃん  美菜ちゃん

       美菜ちゃん  美菜ちゃん

  美菜ちゃん   美菜ちゃん

     美菜ちゃん  美菜ちゃん

      美菜ちゃん  美菜ちゃん

  美菜ちゃん   美菜ちゃん  美菜ちゃん


美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん美菜ちゃん










「っ!――お兄ちゃん、それ邪魔だよ~」







 美菜が唐突に冬から離れた。


「は、はぁはぁ……な、なにが……」


 美菜と共にいたいと心が訴え、美菜へ恋焦がれる冬を助けたのは。



「まさか……」



 二人の姉ではなかった。




 いきなり姿を消した美菜に支えがなくなってしまってたたらを踏んでその場に膝をつけて座り込んでしまった冬が目にしたのは。





         『布』。




 腰から出てきた、四片の自動迎撃システム、通称・『布』、だ。

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