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第270話:救うために 6

 少しずつ裏世界の中枢へと向かうような形となるが、向かう先がどこなのか分からない冬達は姫に着いていくしかなかった。

 冬達のいる場所は裏世界でも端のほうだ。向かうにしても、<鍛冶屋組合>のある『町』は通る必要があったので逃走していた道を戻る経路をとっていた。


 先程から進んできた道を戻る羽目になり、冬はもしかしたらもう少しやりようがあったのではないかとも思いつつ進む。


 そんな冬の視界に少しずつ見えてくるその町は、鉄筋のビル郡が多く立ち並ぶ町並み。中には低い建物もあるが、いずれも天井の光を受けてキラキラと輝く宝石箱のようだった。


 そんな宝石箱の中に、一部破壊された跡が。


「ああ、そう言えば、ひめ姉が……」


 それはやり直す前もやり直しの後も。

 姫が冬を守るために『戦乙女』と戦った際に発生した傷跡だ。


「……なにか?」

「いえ……」

「私だけでなく共同制作ですね、芸術的です。そうですよね、『戦乙女』」

「え~……私も共犯~?」


 共犯です。

 流石にあの爆発を起こすには、一人だけでは無理だと思います。


 そんなことを思った冬ではあるのだが、先の話のこともあってか、ひめ姉なら一人で何とか出来そうな気もした。


「……それはつまりは」


 姫の話を聞いてから考え込みながら歩いていた樹が口を開いた。


 辺りを<鍛冶屋組合>の喧騒に包まれていた時。

 下位所持者達が、自分達の体を持って壁となって冬を隠しながら歩いていた時だ。


 会話は終わったと思っていた誰もがぎょっとしたが、空気の読めない樹に、姫はくすりと笑う。


「――先日より、何度も何度も同じ世界――つまり平行世界ですね。そちらが作り続けられては同じ結末を迎えては滅ぶ世界が多分に創られていることが分かり、誰がこんな世界を作り出しているのかと御主人様の記憶管理しているナギ様がお怒りでしたよ。その結果、先日冬と大樹が関わっていることを知って滅んだ世界を纏めたり消したりしていましたね」

「さらっと……。世界を纏めたって……」

「消したり……世界そのものを滅ぼしてるやん」


 自分達のいる世界が複数にも渡って存在しており、その存在を全て認識している存在。


 もしかしたらという世界全てを知ることができるという存在、その世界をさらっと消すことの出来る存在がいるということに冬は絶句する。

 先程まで聞いていた内容から考えても、確かに世界を管理しているのだから出来るのだろうと、思いはするが、やはり何度か交流している彼がそういうことができる人物だとは思えなかった。


 ただ、そうなると。

 狐面の巫女装束の女性――電話越しで聞いた話によると、『始天』様に御主人様は交渉したと言っていたことを思いだす。世界をさらっと滅ぼせる御主人様から「様」呼ばわりされる『始天』様という存在は一体何者なのかと、更に疑問が沸いた。


「……なので、私も先の冬達がいた世界線の記憶を軽く頂け、今に至るわけです。知ったところでどうしようも理解できがたい話でしょう?」

「……まいったね……全然理解できないね。記憶を持ち運べるって辺りでメイドさんが冬君の質問の『なぜ記憶を持っているか』って所には行きつけたけど」


 瑠璃がその壮大な話に追いつけないのか、呆れたように呟いた。

 とはいえ、どこの誰よりも瑠璃が理解できているのは冬にも分かった。

 なんなら、今自分達が持っている重要な情報――この世界をやり直しているということを伝えるだけでも、瑠璃は様々なことを推理し理解して更に先へと進んでくれそうな気もする。

 冬は質問しておきながら姫の言葉にまったく耳を傾けていない様子の樹を見て、救出が無事終わった後にでも瑠璃に事情を話しておこうと思った。


「あなた達の知らない世界、というのは、多々あるのですよ。あまり詮索しないように。痛い目みますよ」


 姫の背中を見ながら、誰もがこくこくと頷いてこれ以上話に触れないことを決めた。

 恐らくは話をすれば答えてくれるのだろう。ただし、聞いたところで人智を超えた話というものは到底理解することができない。

 精々、複数ある多面世界において、それぞれの自分達がいてそれぞれが動いているということを理解するくらいである。

 特にそのことは、樹や冬といった、やり直しを実際に経験した彼、彼女達だけが今理解できることであり、いまだそのことを知らない瑠璃や松といった冬の周りの仲間達には理解できることではなかった。


 謎が解けたようで解けていない。

 そんなむずむずした感触を覚えながらも、友人である御主人様が実は人智を超えたとんでもない人だったと知り、今度会うときはもう少し丁寧に対応しようと思う冬。


「御主人様の凄さが理解出来ないにしても、私がもっとも御主人様に相応しい妻だと理解した上で――」



 姫が、御主人様愛の締めの言葉を発した。

 その途中で――







 ――辺りに、光が走った。






 それは眩しい、まさに『光』だ。




 辺り一面を包むような光。

 それでいて、<鍛冶屋組合>に立ち並ぶ町のビル郡を避けて遮光されてはいるからこそまだ目を薄めて耐えられる程の光となったその眩しさ。

 冬達がいるその場に何かしら影響を与えるわけでもない光。

 何かが遠くで、音もなく落ちたような、明るい光だけを残す。


 彼等が光の元を眩しいながらも警戒しながら見つめると、ビル郡の端からの光の先、遠くに、眩しい大きな球体が見えた。


 その球体はすぐに消え、辺りは何事もなくいつもの光へと戻る。





        静寂。






 誰もがその光に驚き言葉を失ったようだった。

 それは冬達だけではなく、裏世界の住民達もそうだったのであろう。しばらくの静寂の後、<鍛冶屋組合>の町並みから一斉にざわつきが溢れていく。


 そのざわつきは次第に大きくなり、耳元で囁かれているかのように脳内に響いては目の前を揺らす。

 あまりの喧騒に、酔ってしまいそうな感覚を覚えてしまう。


「……皆さん、一気に駆け抜けますよ」


 ひそりと、一団に聞こえる程度に透き通った声が耳に入ってきた。

 姫の声だ。

 全員が一斉に、混乱覚めやらぬ町の中を走り出す。





 光が溢れた先。

 そこが、自分達が何があるか知っている方角であったことで、不安は加速していく。



 そこは――


「あの方角は……」

「……ああ、俺の家だ」


 樹の自宅がある方角だ。

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