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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
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第258話:『焔』と巡る 4

「おーおー、この仄かに香る炎の匂い。盛大に燃えそうな匂いが――ま、待てっ! チヨちゃんコレクションも一緒に燃えたりしないよなっ!?」


 裏手から出て、樹の自宅がまだ背後に見える程度の位置で出会ったのは、燕尾服の初老の男。


「『焔の主』……」


 紳士そうなその姿。つんつんと尖った髪型。若作りをしているような口調。

 紛れもなく、そこにいたのは、以前もここで出会った、裏世界最強と呼ばれる存在だった。


「ぁあん? あ~、てめぇ、さっき指名手配されてたやつか。こりゃまた許可証協会を相手になにやらかしたのかはしら――」

「失礼ながら、彼はあなたのように裏世界に名を轟かせるようなことはしておりませんよ」

「あぁ? なんだこのメイド。こいつの所有物かなにかかぁ?」

「見当違いも甚だしい。私の御主人様はたった一人。弟ですよ、これは」


 じろじろと興味深そうに見てくる『焔の主』の視線を遮るように姫が冬の前に立つと、互いに不快感を露にして今にもここで戦いが始まりそうな雰囲気が訪れる。


 だが。


「って! そんなこと言ってる場合じゃねぇ! チヨちゃんコレクションが!」


 冬達の背後。

 樹の家の表側から聞こえ出した爆発音と戦いの音。そして若干の煙たい匂いに、樹の家が燃え出したのではないかと不安に駆られる冬達とは違うことに焦り出す『焔の主』。

 心なしか先程までつんつんと尖っていた髪型もへなりと勢いをなくしているようにも見える。


「な、なあ! あの家燃えたら燃える前にあそこにあったものとか、俺が手に入れてもいいよな!?」

「……俺のも、か?」

「おめぇのなんかいらねぇよ! てめぇなに気持ち悪いこといってんだ!? チヨちゃんの私物だけに決まってんだろうがぁ!」

「……お前も大概だぞ……」


 樹にキレる『焔の主』と『焔の主』に呆れる樹。

 妙に互いを見知っているような雰囲気のある二人だが、樹が「構わんぞ」としっしと手を振ると、にやぁっと嬉しそうな表情を浮かべては頭のつんつんがしゃきんっと音を立ててやる気を現した。


「珍しいもんだな、お前が俺にチヨちゃんの何かを差し出すとか……。あんなに俺に噛み付いてチヨちゃん護ってたのになぁ」

「有効活用でもしろ」

「ゆ、有効活用って何やらせる気かな、かな!?」

「まあ、いいや。へへっ! じゃあありがたくもらってくぜ! ついでにお前等追われてるんだろ? だったらチヨちゃんポイントの為に俺が潰してやるわ。つ~か、まぢチヨちゃんの私物を燃やすとかありえねぇしなっ! 次会った時はまたぼっこぼこにしてやっからなぁ」


 ひらひらと手を振っては樹の家へと向かう『焔の主』。

 姿が見えなくなった辺りで、樹ははぁっとため息をついた。


「……あいつ、日に日に馴れ馴れしくなってきてるし、チヨポイントってなんなのか……チヨ分かるか?」

「わかるわけないかな、かな!? 一番の被害者に聞かないでもらえるかな、かな!」


 冬も冬で、『焔の主』との邂逅は二度目ではあり、彼がやり直し前に瑠璃と戦い相打ちとなって倒された『四院』の一人だと言う事に、怒りが溢れてきていたのだが、会話を聞いてるうちに、その怒りが一気に霧散してしまっていた。


「変態、なんですか……?」

「ああ、変態だな。チヨを狙うことにかけては特に、な」

「いっくんもあたい限定でコスプレさせてる時点で同じだと思うけど?」

「コスプレは正義だから大丈夫だ」


 なにが正義なのかは分からないが、自信を持って正義と断ずる樹に、冬は思わずコスプレは正義なのだと思ってしまったが、すぐにそんなわけがないと考えを改める。


「大樹」

「なんだ、女狐」

「一応念のために言っておきますが……」


 そこに、姫が大樹に声をかける。


「私のこの服装は、コスプレではなく、仕事服ですから、と伝えておきます」


 そんな情報は特にいらなかった。


 そう思う冬とは正反対に。


「な――ん……だ、と……?」


 驚愕の表情で、「お前の御主人様はコスプレ好きじゃなかったのかっ!?」と叫ぶように姫の服装を凝視した。

 さっきまで「本人の許可なく『焔の主』にあたいの私物を物色してもいいとは何事か」と樹に怒っていたチヨもセットで驚いている。


「御主人様がコスプレ好きかどうかは、聞いていないのでなんともですが、三人も妻がいるわけですから、コスプレはジャンルごとにさせ放題かもしれませんね」

「ぬ……ぬぅ……俺はてっきり同ジャンルかと思っていたのだ――」

「大樹。あなた、御主人様と会ったことありましたか?」

「いや、ないが。お前を見ていて思っただけだ」

「崇高なる御主人様を、あなたが語るとは……ですが、そのコスプレ、採用ですね。試してみましょう」


 ……何の話をしているのでしょうか。


 姫の御主人様である、水原凪という同級生は、ロリコンでシスコンでブラコンでマザコンでメイド好きで三人の妻がいるというどうしようもないハーレム野郎だと思っていた冬は、そこに更にコスプレ好きではないかという疑惑が入ってきていることに、御主人様、大丈夫なのだろうかと心配になる。


 とはいえ、それは今の状況とは全く関係なく。

 気づけば、『焔の主』と出会ってからさほど時間は経っていないとはいえ、一歩も樹の家から離れていないことに気づく。


 背後では、焦げ臭い匂いも混じり出しており、戦いが激化している様子がその匂いから感じられる。


 恐らくは、弓の『紅蓮浄土』だと、冬はその匂い――一度間近で嗅いだことのある、人が内部から破裂したときに発する独特の匂いに、顔をしかめた。



「とにかく……先、進みませんか……?」


 冬は、今も樹の家の前で死闘を繰り広げているであろう弓のことを思いながら、そこから一際大きな炎と爆音が舞いあがったのは、弓からの「くだらないことを話していないでとっとと逃げろ」という催促ではないかと申し訳なさを感じつつ、先を急ぐことにした。
















 その頃。

 樹の家の前。炎の壁で包囲された戦場で、多彩な型式で自身が翻弄されていることに面倒だと感じている不変絆と、殺し屋達と絆を相手取っていた青柳弓の前に。



「――なあ、俺も混ぜてくんね?」



 恐らくは、チヨの私物を物色してきたであろう初老の男が、樹の家の中から普通に玄関扉を開けて現れる。



「おま~え、なにものだ~?」


 下着であろう絹の塊を握り締めた初老の男を、弓との戦いをやめて警戒するように見つめる、絆。


「なんだお前。こんな目くらましな『焔』の型を使っていて。俺をリスペクトしてるわけでもないのか」

「しらねぇやつをリスペ~クトするわけね~だろ」

「いやいや、俺のことくらい知ってろよ。なぁ……『紅蓮』」


 弓はその初老の男の腕に巻きつくように装着された砲身をちらりと見てはため息をついた。


「……裏世界最強が、ここに何の用なのかな、『焔の主』」

「はっ。決まってんだろ」



 ここに、『焔』と『焔』と『焔』が集い。


「チヨちゃんポイントのために、お前等を痛めつけにきたんだよ」


 冬の知る、以前と同じように、『焔』が巡る。 

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