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第246話:Re・Write



「はい、自己紹介終わりっ!」

「……」


 楽しそうなイルとは逆に、スイは恥ずかしそうに俯いて、「やらなきゃよかった……」と泣きそうな声でぼそっと呟いている。


 これは、僕が、反応を示さなかったことが悪いのではないでしょうか。


 と、なぜか罪悪感を覚えてしまった。


 いや、そんなことよりも。と僕ははっと我にかえるように頭をぶんぶんと振って今起きた謎の光景を忘れようとする。


 忘れることは出来ないけど、今はこの状況を確認しなければ。


「あの……なぜ、僕のことを知っているのでしょうか?」

「そりゃぁねぇ~……千古樹君が何度も何度もここにお邪魔してるし、君のことは見てたからねぇー」


 見ていた。なにをでしょうか?

 思わず質問しなくてよかったと思う反面、実は聞いておいたほうがよかったのではないかとも、なぜか優柔不断な考えが言ったり来たりして考えが纏まらない。

 さっきから頭にモヤがかかったように思考が定まらない気がして、そわそわする。


「あ~あ~、あまり深く考えないほうがいいよ。ここ、考え込むと色々ダメになっちゃうから」


 そう言われても、考えないとあなたと話せません。なんて言えるわけもなく。

 次第に体はゆっくりと重くなっていく。

 僕が白い床に膝をつけるのも、そう時間はかからなかった。


「私がなんで貴方達を知っているかなんて、単なる暇つぶし程度だと思ってなさい」


 暇つぶしで知られているというのもまた怖いです。


 そんなことを口に出せないほどに体は重く。

 気づけば体全体が白い床にうつ伏せに。

 もう、顔さえも狐の彼女へ向けることさえ出来なくなった。


「これからも見守っててあげるから、このやり直しで、きっといい方向に向かうことを信じてるよ」


 どうして。やり直しを知っているのですか。

 ここでなにをされているのですか。

 樹君のことを知っているあなたは、何者なんですか。


 そんな当たり前な疑問。

 でも、初対面の人へ聞くのは少し勇気のある質問。

 そんな質問さえも口に出来ないほどに、僕の体は重く。

 やがて、僕の意識は遠ざかっていく。



 待って。

 待ってください。

 僕はこのまま、何も教えてもらえないまま意識を失ったら。

 僕は……ただ双子の自己紹介を見させられただけですよっ!?


 そんな結果に、意識をはっきり保とうとするけど、抵抗空しく。意識はより一層手放されていく。




「これから先。貴方が向かう先に、幸あらんことを願って」



 彼女の祈りのような声が耳に届いた直後。


 僕の意識はまた、途絶えた。



















□■□■□■□■□■□■□■



「始天さん」


 冬が消えたその白い世界に。

 『始天』と呼ぶ声があった。


「あら。お久しぶり~」

「久しぶりって程じゃなくないですか。今、《《永遠名》》がやり直しで戻ったんですか?」

「おや? よく分かったわね」

「そりゃ分かりますよ。一応ここの管理者なんだし」


 彼が《《ここ》》と言って指差したのは、この広い白い世界だった。

 その指差した手をぱっと開くと、そこに白い巫女装束姿の双子がハイタッチしては「いってきま~す」と二人揃って声かけして消えていく。


「あら。じゃあ前々から気づいてたってこと?」


 狐面の女性――始天は、アンティークな椅子に座って、先ほど丸机に置いた本を開いてまた読み始める。


「薄々は、ですかね。永遠名がやり直しの元ではないとは思っていましたので、今回やり直しをしている永遠名を見たときは驚きましたけど」

「あー。そうね。永遠名冬君はお初ね。彼のお仲間の千古樹君がやり直し続けてたわよ」

「……知ってたなら教えてほしいところですけど?」

「え~。だって君、ここに来なかったじゃない」


 さして彼への質問への回答には興味がないように。本へと向けられ続けるその狐面は、本当に本を読んでいるのかさえ疑わしい。

 なぜなら、その本のページは、真っ白であり――いや、真っ白なページに、少しずつ文字がゆっくりと書き出されていた。

 始天はその文字を、一つ一つゆっくりと読んでは、また最初から文字を追っているようで、時にその文字を見てくすっと笑っているようにも見える。


「あ~、だから今回永遠名冬君に近づいたわけ? 学生時代、仲良さそうだったし――」


 まるで彼から返ってくる言葉が分かっているかのような仕草だったそれは、何かを思い出したかのように、ちらりと、本から彼へと向いた。


「――それに。彼がピンチになった時も保護してあげてるし、彼のお姉ちゃんが死にかけたときも、貴方の力で助けてあげてたじゃない。ねぇ……」


 本を一度ぱたんっと閉じると、始天は彼をしっかりと見つめる。




「『刻の護り手(ときのまもりて)』、水原、凪君」




 そこにいる彼は。

 ショートスタイルの茶髪の男。耳にピアスをつけた、ほんの少し目つきの悪い男。

 水原姫の御主人様――水原凪その人だ。



「姫が大事そうにしてたからってだけですけど。とは言っても友達ですし。他の世界を見てみたら酷いことなってたのと、こっちの家族に被害がきそうでしたからね」

「愛人さん思いね」

「いや愛人っていうか……まあ、姫が俺達以外と仲良くしているのに、それが壊されちゃうのもやっぱり良くないし」

「お姉ちゃんって呼ばせてたわよ」


 凪が「なにやってんだあいつ」とがくりと項垂れた。そんな動きに、始天はふふっと笑い声を上げた。


「どうせ、また助けるんでしょ?」

「深くは干渉しませんけど。姫は関わりたいでしょうから、そこまでですね」


 凪の回答に「つめた~い」と若干棒読みなツッコミを入れると、また本を開いてページを捲っていく。

 ページが先程より増えているようで、先程開いていたはずの空白部分にはびっしりと文字が記載されていた。


「で、本音は?」

「……姫にちょっとだけ手助けしておきます」


 始天が片手をあげて振ると、どこからか古めかしい本棚が現れた。そこには本がびっしりと詰まっているが、そのうちの一つを取ると、またぺらりと捲っては読み進めながら、「最初からそう言えばいいんじゃない?」とまた笑う。


「並行世界は、閉じちゃっていいわよ。双子ちゃん達が記録したから」

「はいはい。わかりましたよ」


 凪は最後まで本に夢中であまり興味を示さない始天にため息をつきながら、並行世界を閉じるという許可を得たので実行に映すべくその場から去っていく。



「ふふん。また面白くなりそうね。次はどんなお話をみせてくれるのかな?」



 始天はその狐面をしていても分かるほどに嬉しそうに笑い、そしてまた本へと目を向ける。


 その背表紙に書かれた本の名は――
































 意識が覚醒したとき、直前まで何かしょうもないことを叫んで、必死に抵抗していたような感覚を覚えた。


 だけども、衣服を焼き切ったような匂いと、両手を頭の上に荒々しく固定されたことで抵抗は防がれ。後はくねくねと体を動かしながら周りの仲間に助けを求めるしかないと、切羽詰まった様子だったことは体が覚えている。


 でも。


 なぜか助けてくれない仲間達に絶望しながら、何よりもこのままだと誰かと自分は、取り返しのつかない何かを行ってしまいそうという不安と恐怖、そしてほんの少しの未知への期待と興奮と共にの覚醒だった。




 そんな彼――冬に、荒々しく興奮したような声が聞こえてきた。




「ぁあん? いいから――」



 ぐっと冬は誰かに抱き寄せられて、ソファーの上で潰されては耳元で囁かれる。




「――わいに、身を委ねろや」



 どういう状況ですかっ!?

 思わず、叫んでしまいそうになるほどに。


 冬は、目の前の《《二度目と認識》》できた光景に驚きを隠せないまま。


 小動物を狙う猛獣のような目の前の彼の目に。

 からかうような笑顔と声と共に、冬の視界は、彼――《《立花松》》しか見えなくなった。

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