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第20話:誘拐

 バスはゆっくりと下道を走っていく。


 先程まで高速道路を走っていたのだが、高速道路で襲撃されて、事故にでも見舞われようものなら死人がでる。

 だからなのか、今は下道へ。


 下道も狙われる可能性は高いのだが、バス会社からは《《一時的》》に高速道路から降りて下道で帰るよう指示を受けていた。


 まさか、許可証試験だからといって、狙われやすいようにわざと走らせているのではないだろうか。


 この指示に作為的なものを感じながらも、冬はバスを走らせる。


 独立国家の裏世界とはいえ、流石に表で大々的なニュースまでになるような事件は起こしてまで試験はしないだろう。


 そうなると、この指示は別系統の指示。


 誘拐事件の首謀者が、バス会社に圧力をかけたのではないか。

 もしかすると、バス会社さえもグルなのではないか。


 そんな疑問を持ちながら、冬はバスを走らせる。



 緩やかに、辺りの景色は田園風景に移り変わる。

 すでに苅り終わった田んぼが続く、のどかな風景と、囲まれているかのように雄大な山々が遠くに見える光景に、バスガイドである姫も、都会に住む乗客である女生徒達も感嘆な声をあげて外の風景を楽しんでいた。


 稲作が盛んであろう田舎町だ。

 辺りにはぽつぽつと一軒家が建つ。


 国道でもある道を走るバスは、田園風景を過ぎ、時折見える綺麗な水が絶え間なく流れる川を横目に進んでいく。


 間もなく、旅行会社の気の効いた風景は終わる。

 高速道路へと乗り、後は都内へと戻るだけだ。


「……何を、したいのでしょうね」


 そんな終わりを期待していた冬がサイドミラーを見ると、二台の大型車が映っていた。


 今走るこの道路には、まだ正面に車もいて、襲撃するには目撃者もいそうな場所だ。

 まだ疑うには早計かと思いながら、少しスピードを上げてみる。


 近すぎもせず、遠すぎもせず。

 しかしよく見れば、バスを抜き去るような動きも見せており、その妙な動きが如何にも怪しかった。


「……来ましたか」


 ぐっと、アクセルを踏んで速度をあげると、少し離されたことに気づいて、大型車二台もスピードを上げた。


「どうかしました?」


 急に窓から見える景色が早くなったことに疑問を持ったのか、姫が冬の呟きに声をかけてきた。



 その瞬間だった。



 キキィィィーーーッ!



 姫に声をかけられ意識を正面から離したその一瞬。

 急に車のスチール音が正面から聞こえてきた。


 冬の乗るバスの前にいた車が、故意にスリップしたのだ。


「どこかに掴まってください!」


 そう叫ぶが、瞬時にそんなことが出来るはずもない。


 冬は大きなハンドルを一気にまわした。


 回したハンドルと共に、複数のタイヤがスチール音の悲鳴をあげると、バスは道路を横断するように両車線を跨いだ。

 横転しようとするバスのハンドルを逆に切ると、舵を切られたタイヤが反対側を向き、バスがバウンドするように宙に浮く。


 そのバウンドする間の時間でハンドルを切り切ると、蛇がのた打つようにバスが揺れる。

 蛇行したバスはきゃりきゃりと音を立てながら滑るように反対車線内ぎりぎりのラインを滑って突き進んでいく。

 スリップした大型車に触れることなく互いのフロントを睨ませる一瞬の後、過ぎる頃には何事もなかったかのように、バスは反対車線の道路上を走りだした。


 後ろの大型車二台は、一時は止まりながらも、道を塞いでいた車が道を難なく開けたので、アクセル全開でバスを追いかけてくる。


「ぶつかってくれていれば、逃げ切れたかもしれませんが」


 ギアをチャンジさせ、アクセルをぐっと踏んで加速するが、後ろの大型車はバスのスピードにいとも簡単に追いついてきた。


 元々、馬力が違うのだ。


「きゃあっ!」

「ど、どうしたの!?」


 いきなりの出来事に錯乱する女生徒達。


 こう言う非常事態においては、バスガイドは乗客を落ち着かせることも仕事とするのだが、なぜか姫は落ち着かせようとする行動をしなかった。


 後ろから聞こえる悲鳴がとにかく耳障りだった。


「水原さんっ!?」


 彼女自身も、いきなりの激しい揺さぶりに唖然としているはずなのだから当たり前だろうと思い、声をかけた。


「彼女達の楽しい笑い声は好ましいですけど、今のような叫び声は邪魔ですっ!」


 大型車が真後ろに着いた。

 もう一台は更に加速し、並走しようとしている。

 メーターの針は振りきれるようにぶれ、エンジンの回転音も高音をたてて鳴り止まない。


「さて。二次試験の始まりですよ」

「っ!?」


 すぐ傍から聞こえた声に、耳を疑った。

 ちらっと見た先に驚いた。


「二次試験資格者。第三位。《《永遠名冬》》さん」


 姫だ。

 姫は、冬の横で、バランスも崩さず真っ直ぐと立ち、妖艶な笑みを浮かべて冬を見ていた。

 唖然としているわけではなかったことに気づき、思わず舌打ちしてしまう。


 やはり。僕の監視。

 まさか、この誘拐事件も、本当に……。


 裏世界を舐めきっていた。

 そんな想いが過る。


 横からの衝撃。

 バス内が揺れ、巨体なバスが壁際へ押されていく。

 内部では席から転げ落ちてしまう乗客も現れていた。


「きゃああっ!」


 バランスを崩して、わざとらしく、姫が冬に抱きついてきた。


「くっ……!」

「――、――ですよ」

「えっ!?」


 姫が耳元で囁くように言った言葉は、今は聞いていられない状況だった。


 がりがりとガードレールと削り合う車体を押し戻そうと、ハンドルを切り返しながらアクセルを緩めて接触から逃れようとしたところで、後ろにいたもう一台の大型車が、バスを後ろから突いた。


 後ろからの衝突と隣の大型車の接触に、衝撃でガラスが割れ、辺りに飛び散った。


 ガードレールに押しつけられ、どんどんとスピードが落ちていく。


「きゃあぁぁっ!」


 辺りは冬以外、悲鳴を上げて振り落とされないようにどこかに掴まっている。中には耐えきれずに通路に倒れ、立ち上がれることができずに助けを求める少女がいるほど、バス内は酷い揺れであった。


 揺れは冬にも影響を与え、ハンドル操作に支障をきたす。

 冬はそれでも必死にハンドルをきり、大型車を押し抜けようとする。


 その冬の耳には、周りから絶え間なく聞こえる悲鳴が、合唱のように聞こえ始めてきた。


「揺れますっ! しっかり掴まってっ!」


 滅多に上げない大声を上げながら、冬はブレーキを踏み抜いた。


 バスの最後尾のフレームが壊れるような音がして、バスの揺れが前後に変わる。

 辺りに、更に大きな叫び声が上がる。


 冬が行った強引な行動に、背後と隣の大型車が離れたその一瞬を逃さず、ガードレールとの摩擦音と火花を散らしながら、バスは一気に加速し、囲いを抜けていく。


「はあはあ……」


 ハンドルを元に戻しつつ。

 ぼろぼろになったバスを忙しなく操作してまっすぐ走らせる。

 無駄ではある。

 だが、できるだけ前へと進ませたかった。


「水原さん。さっきの話は――」


 隣にいたはずの、先程までバランスを崩していたバスガイドは、いなかった。


 ミラーを見ると、二台の大型車が追いかけてきている。

 ぼろぼろになり、今にも止まりそうなバスでは逃げ切れない。


 追い討ちをかけるように、爆竹を鳴らしたような音が鳴り、上下にバスが揺れた。


 車高が落ち、メーターの針がどんどんと落ちていく。


「……タイヤを撃たれましたか……」


 バスは減速し、やがて止まる。

 二台の大型車が近くで停車し、冬はため息をついた。


 逃げ切れなかった。

 彼女等を囮にするという、試験が現実になった。


 辺りを見渡してみると、周りは車一つ通らない山道。

 帽子を深く被り、冬は今にも外れそうな出口を見る。


 そこには黒のスーツを着た男達が立っていた。

 大型車の荷台から同じ背格好の男達が出てきている。


 どこかのハンターのようにも思えるその姿の男達がぞろぞろと現れてきたことを確認すると、数えることを止めた。

 クセになった。と思いながら、「はぁ……」と冬は深いため息をつく。


「……バスでなければ逃げ切れただろうな」


 バスの中に入ってきた男の一人が冬を見つめて言う。


「……どう致しまして」


 冬が皮肉っぽく返すと、男は笑みを見せ、内ポケットの中から黒い、筒のようなものを取り出した。


 種類が何かはわからないが、それが銃だと認識した時には、



「ご苦労様」



 バンッ!



 銃声が、バス内を駆け抜けていた。

撃ち抜かれた冬。

冬は二次試験に散り新たな主人公、バスガイドの水原姫へと継がれて……いかないですけど、気になるようでしたら下部にあるお星様をクリック?

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