―許可証―
全ての物には表裏がある。世界もまた然り。
あまりにも簡単に言うなら、不自由ながらも豊かに幸せに、希望に満ち溢れ、ありきたりな仕事にあくせくして子に紡いでいく世界が『表』であり、『裏』は表で定めた法律が通じない無秩序で非常識と呼ばれる、何でもありの世界。
その二つは正反対で、まったくのもう一つの世界と考えるべきだ。
現に『裏』は、『表』では一般的にはあまり知られてはいないものの、国家的に独立し、そして今も『裏国家』として存在している。
『表』の国家試験の一つに『殺人許可証』というものがある。
通称・許可証。
裏国家最高機密組織『高天原』が発足されたと同時に作られた証明書の一つがそれである。
裏世界から表世界への誘いとして、表世界から裏世界への人口の一つとして。
裏世界が表の国家試験として発行させている証明書である。
数々の国家規模の危機を表世界――一般的に知られることもなく救ってきた証明書で、裏に限って言うならそれは有名である。厳密に言えば、『それを取得した人間』が救ってきた。
殺人許可証はD級からS級までに分かれている。
D級であれば人を無闇矢鱈に殺せば、剥奪の後、犯罪者として黒帳簿に載り、同業者である許可証所持者に狙われることになるが、A級まで昇り詰めることができれば、町一つ滅ぼす程度では罪に問われないと言われている。
裏世界では人の命や尊厳は軽く見られるものだが、何よりもそれらを度外視しているともいえる証明書である。
S級と言えば、まさに伝説上の存在。その存在さえも秘匿とされている。
その許可証を所持すれば殺人を犯しても罪にならないというシンプルな内容の許可証だが、『殺人を犯す』という禁忌的で魅力的な言葉と、表でも公表されていることから誰でも受けることのできる国家試験ということ、そして、全てが許される自由な世界とも言われ、夢と希望が詰まった『裏世界に入る』という、最も簡単な方法であるため、取得しようとするものは後を絶たない。
殺人許可証の合格確率は1%に満たず、その内半数は快楽のための取得。
数年経てば消えていなくなる。
現殺人許可証所持者の数は百人に満たない。
そして、脱落した受験者は誰一人として戻ってくることはない。
取得方法はシンプル簡単。
2年に1回。5つの試験を経て突出した能力を審査され――
最高機関・高天原の
『手駒になれる』
そう判断されることが最低条件である。
――裏国家最高機密組織『高天原』
とある許可証所持者の組織評価より抜粋――