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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第六章:その先へ進むには

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第194話:繰り返す先へ 11

「うぅむ……奴隷は気に入らんか?」

「いや、そうじゃなく……」


 奴隷と紹介されたチヨをじっと見つめる。チヨも同じように俺を見つめ返すと、夢筒縛をちらちらと見だした。


 やり直しの最初。


 この時点を何度か繰り返したことのある俺としては見慣れた光景であるが、まだ奴隷であるチヨは、奴隷と言われたことになのか、俺と夢筒縛を交互に見ては混乱の極みに至っているようだった。

 俺の予想があたっているとしたら、このチヨは、奴隷という言葉に狼狽えているわけではないはずだから、いつ致命的な何かを言い出すか分からない。


 俺は自分が繰り返した最初のときを思い出す。

 無慈悲に殺されたチヨ。同じように俺も殺された。

 チヨが下手なことを言えば、同じようなことが起こり得る可能性が高い。


 今にして思えば、もしここで夢筒縛に「奴隷はいらない」なんて冗談でも返そうものなら、チヨは不要と判断されて殺されてしまっていたのではないだろうか。

 それほどまでにこの男は、人の生死に無頓着であるのだと十分に理解ができてしまっていた。


「では、楽しませてもらう」


 殺す必要はない。

 今、夢筒縛に不要と思われだしているチヨを助けるためには、有用、いやそれ以上に俺が必要だと思っていると知らせることが重要だ。

 そのように思わせるには、奇抜な回答がいる。


 だが。

 俺は、何を言っているのだろうか、と。

 言って、思わず。口を押さえそうになってしまった。


「おお……ストレートだな。なんだか面と向かって言われると、ついにお主もそのようなことに興味を持つ歳になったのかと思って少し目頭が熱くなってきた」


 こいつも、何を言っているのかと。

 俺はただ夢筒縛のことより優先しなければならないこと――チヨを助けるという優先事項があるからとっとと出て行けと言っているだけだ。


「何でだ……」

「そうであろう。我はお主の親代わりのようなものだ。子が子として子を為すようなことを今与えられた奴隷で果たそうと――」

「そっちのほうが生々しいな」


 そう言われて、今この段階では、まだ『縛の主』より、夢筒縛として俺のことを想う親のような感情のほうが強いようにも思えた。

 だが、油断してはいけない。

 この時でも。少しでも『縛の主』としての本性に触れるような一言を言ってしまえば、すぐに夢筒縛は俺たちに牙を向く。


 そして今は。

 それらに触れるような一言を、俺だけではなく、チヨも、言えてしまう。


「……まあ、生々しいついでに言うなら、だが」

「ほう?」

「この女には、巫女装束が似合うと思う」







「「……は?」」




 ……俺も、そう言いたい。

 チヨと夢筒縛が、同じ表情を浮かべて固まっている。


「いや、待て……」


 俺は恥ずかしさのあまり、思わず俯き顔を隠したくなった。

 いや、実際、恥ずかしくて俯いて、赤くなった顔を隠してはいるのだが。

 合わせて、二人に向かって片手を向け、二人の反応、二人の返答を遮った。


 まだ続きがあるのだから。

 いいから、聞け、と。








「……メイド服、スーツ、そこに眼鏡は忘れてはならない。……付属品の猫耳やうさ耳も似合いそうだ。これはそれ単品でも効果的だ。勿論、普通に眼鏡だけ装着でもいい」

「「……」」

「他にも似合うものもある。チャイナドレスもそうだし、ナースも、な。極めつけは、どこぞの学校の制服……ううむ……セーラー服もブレザーも似合いそうだ。ブレザーも種類があるからな。ワイシャツだけってのもいいと思うのだが、そう思わないか? 夢筒縛」

「我をフルネームで呼ぶのはそろそろやめろと――ま、まあ……そういった趣向に興味を持つのもまあ……うむ。親として喜ぶべき、か……?」


 気づけ。気づけチヨ。

 今俺が言ったその意味を。


 今のこの状況。夢筒縛に俺がチヨという女性に対して何かを感じて行為に興味を持ったように思わせるのが有効的であると。

 そして……。


「だが、もっとも感じるべきは……」

「いや、もう分かった。分かったからそれ以上は」

「体操服、だ」

「……――あっ」


 チヨが怪訝な表情を浮かべた直後に、気づく。


「ぉ……ぉぅ。分かった。分かった。楽しむといい」


 最後のダメ出しが聞いたのか、夢筒縛はまさに引くように扉を開けてそそくさと去っていく。


「……」

「……」


 残された二人。

 俺は夢筒縛の気配がしっかりと離れていくことを確認すると、息を吐き出し緊張を解いた。


「……まあ、その。なんだ……」


 気まずい。

 なぜなら、もし俺の予想が外れていたとしたら……俺の言ったことは『焔の主』からその称号を俺が頂かなければならないレベルの変態行為であり、痛々しい発言だったからだ。


「いっくん……?」


 不安そうに、おどおどと言った様子で、座り込み俺を見上げながら名を呼ぶチヨ。


 やはりだ。

 この時点で、俺とチヨは初対面のはずだから、チヨが俺のことを知っているということはおかしいし、もしなにか理由があって俺のことを知っていたとしても、初対面の俺をその呼び方で呼ぶはずがない。現に、チヨは幾度かのやり直しの時には、俺にその呼び方で呼ぶと言った上で呼んでいた。


 このチヨは。

 記憶が、ある。

 おそらくは俺と同じく、この家が燃えて落ちかけているあの瞬間まで。自分が『焔の主』に撃ち抜かれたあの時の記憶が、ある。


 だが、なぜ。

 なぜ、チヨが記憶を?


「いっくん! いっくんだよねっ!?」


 必死の形相で今の状況を把握したくてか、胸倉を掴むように迫ってきたチヨが、意を決したかのように聞いてくる。


「答えてほしいかな、かなっ!」

「な、何をだ……」

「さっきの縛さんとのやり取り! あれって――」


 チヨは、俺の言っていたあれの理由を、どうしても聞きたいようで。

 俺としては、できればあれを言ったことを忘れてしまいたかったのだが、困惑していたチヨを助けるために言ったことなのだから、言ってしまったことは仕方がない。


 あれは――


「あたいがいっくんに着させられた順番かな、かな!」


 ――そう。あれは、


 俺がチヨに。

 その服装を《《使わせて頂いた》》、順番だ。


 やはりそれを知っているのであれば、


「チヨ。大丈夫だ。まだこの時には、あれらは、ない」

「そこはどうでもいいけど、なにが起きてるのかしっかり教えてもらいたいんだけどもっ!」


 この、目の前にいるチヨは。

 俺と一緒にやり直しのためにこの場所へと戻ってきた、先程まで致命傷を負っていたチヨだということだ。


 無事でよかったと、あのような詰んだ状況を何とかするために、もっと慎重に動かなければいけないと思うとともに。


「むっ!? い、いっくん!?」


 今は、このまま――


「いっくん!? あたいは前も言ったと思うけど、こういうのはしっかりと――」


 護れなかった彼女を、もう一度護りたいと。

 『焔の主』から今度こそ護り抜くために。



 今度はしっかりと。

 護ってみせる。


「ま、まったーーーっ!」


 もう一度の誓いを、チヨにたてる。


 ……とりあえず。今回も、巫女装束から、始めよう。

いっくんは、コスプレ好きではありません。

コスプレをしているチヨが好きなんです。……きっと。

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