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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第二部:プロローグ:その結果が引き起こした結末
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第183話:その結果が引き起こした一つの結末 2


<ごめんね。ごめんね>




 スズが何を謝っているのか、冬には分からなかった。


 スズがこうやって周りに液体となって傍にいてくれているから。あの時自分を救ってくれたから今もこうして生きているのに。

 それこそ、通常とは違う意味で、まさに一つになっていられるのに。




 自分がこんな状況に陥ってしまったことが、自分のせいだと思っているからなのだろうか。

 それとも、自分が元々人間とは言いがたいその容貌だからなのか。



 冬はくすっと。

 勘違いしているスズに笑ってしまう。



<スズ。

 もし君が、自分が僕達と同じ姿形じゃなくて、人の形をして騙していたから。


  なんて思って謝り続けているなら。それは、大間違いですよ?>


 そんな冬の言葉に、液体が震えるような気がした。

 冬の声が、聞こえていたようであった。



<僕は。君が、そうだったってことは知っていたし、それに貴方は人ですよ。ただ原子を崩して液体になることが出来るだけの、僕と変わらない人ですよ>

<……>

<スズは、僕が知っていることを知らなかったから、そうやって、隠していたことを謝ってるんですよね?>

<……どう、して……?>


 反応が返ってきた。

 スズは、冬の声が聞こえていないわけでもなく、自身の懺悔で視野が狭くなって言葉を聞き入れられなくなっていただけだったと冬は判断する。

  そうでなければ、こうやって会話が成立した最初の一声が、先ほどまでの暗く沈んだ懺悔の声以外の感情が表れはしないであろう。


 久しぶりにも思える愛しい人の声。

 まだ、自分の声を聞いてくれる。自分に声を聞かせてくれる。

 そんな当たり前のことが当たり前に出来て、冬の心の中にも嬉しさの感情が込み上げてきた。


<どうして……なんで……? だって私は……冬に、言ってない>

<どうしてって……>


 知られたくなかったのだろう。こんなことがなければ秘密にもしていたかったのだろう。

 だけども、冬は知っていた。


 それは、冬がスズと一緒に暮らそうと提案した時のことだ。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「……スズの家って、どこでしたっけ?」


 質問をしたとき。


 自分がスズのことを、スズという女性だということ以外、彼女の身辺を何も知らなかったのに、そこにいるのが当たり前と思っていたあの時。

 まだ、実の姉によって記憶を変えられていた時。



 スズがどこからこの家に通っているのかさえ分からないことに愕然とし、怒られることを覚悟して聞いたあの質問。


 急に態度を変えて、能面のような表情を浮かべて自分達の住む家の隣の家へと入っていくスズが見せた光景。


「ココガ、ワタシノイエ」


 そう言って、目を閉じてソファーに寝転んで眠りだした後に。


 スズは、どろりと溶けて。ソファーの上で液状化した。

 ソファーを濡らすわけでもなく、ただ、どろりとその上に。

 あんなスズを見たのは初めてで――人はあんな風になれるのかって驚いたあの日。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




<あの時、自分に何が起きていたのかってこととか、理解できてなかったんですね。でもそれは問い詰めるわけにもいかないし――>



 ――それに。

 なぜか、それがスズの本当の姿なんだ、ということは、自分の心の中で、理解し整理できていた自分がそこにいて。


 またいつものスズの姿に戻って、液状化したことさえまるで嘘のようで。

 以降そのような状態に変化することはないものの、それでもあの一瞬は、冬には忘れられない。


<……うそ……>

<僕も、できればスズの口から聞きたかったです。でも、実際は、そうなったところを、僕は見ていますし、ここに至るまでに色々見て、聞いて。スズがどうして何もいえなかったのかってことも、理解しているつもりですよ?>


 ぽこりと。

 冬の口から大きな気泡が出た。

 スズが今も液状化して自分の周りに居続けているからか、どうやら『縛の主』に斬り落とされた傷もなくなったようだ。


 ――正しくは。

 接合治療をスズが行い出したときから、冬は意識を夢の中へと飛ばし、そして今その結果に目覚めたというほうが正しい。


 動ける。

 自身の武器も、今は手元にあることを確認する。



 裏世界に入って、初めて人を殺したときからずっと使っている、すでに相棒とも言える『糸』。

 力を求めて使うことにした、援護と暗殺用の『針』

 そして。ひょんなことから手に入れることになり、強敵から身を守ってくれた、不思議な自律型の支援・防御型の『布』


 全てがあるからこそ、その気になればこの巨大な容器さえ内側から壊せるほどに回復していることに冬は理解できた。



 だけども、冬はこの場から出ることを、よしとしなかった。



<……どうして。なんで、私を捨てなかったの? 人じゃないんだよ?>


 ぽこりと、冬の周りに、動揺を表すのか、気泡が泡立つように発生し、そして上部へと昇り、ぽこぽこと破裂して消えていく。


<人じゃない……人じゃないから、だから……>

<人じゃないわけないでしょう。今は形を崩されてるだけで、スズはれっきとした人ですよ>


 何を勘違いしているのか。

 液状化したからなんだというのか。


<捨てる? 捨てるわけがないですよ。当たり前じゃないですか。まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみませんでしたよ?>


<どうして……? どうして……?>










<そんな姿だろうがなんだろうが。スズという女性を、愛してるからですよ>







 【スズ】は自分にとって、【苗床の成功体】という名の【鈴】ではない。

 どこにいても。どんな姿でも。

 【スズ】は自分にとって大切な女性だから。





 だから、今もこれからも。

 僕は、このままでも。一緒にいられるのなら、このままでもいいんです。



 冬が『縛の主』に倒されてから、数時間程度の刻だったとしても。



 冬は、散っていった仲間達に申し訳なく思いつつも。

 この時を、これ以上壊されたくないと、そう、思った。

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