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第15話:第一試験の終わり

後半に試験結果が書いてありますが、殺害数が書いてあります。苦手意識がある方はすっ飛ばして頂いたほうがいいかもしれません。


 試験官は驚いていた。


 それもその筈だ。

 まだ、高校生ほどの少年達が、裏世界で殺し屋をしている男達を狩っているのだから。


 狩られた二人は許可証協会が定めた黒帳簿ブラックリストにも名が乗る殺し屋だ。

 脅威度ごとにランク分けされた、その中でも最底辺の『D』ランクではあるが、表世界で生きてきた一般人とも言える少年達が倒せるような強さではない。


 だからこそ、今まで以上に膨れ上がった取得試験受験生の中に、こっそり紛れ込んだ異物を排除する為、D級殺人許可証所持者を試験の中に取り入れ、脱落者の殲滅を兼ねて殺し屋を排除するように依頼していた。


 なのに、D級殺人許可証三名のうち、一名は今回の正規の受験者の一人に殺され、標的であった殺し屋二人も、受験者によって倒されるという始末。

 結局、殺人許可証者は、ただ脱落者を殺すだけに留まってしまった。



「……試験官?」



 豪邸の一室にて。

 つい先程一室にノック付きで入ってきた男から報告された内容に驚愕し固まった試験官は、その男の自分を呼ぶ問いかけに我にかえった。


「……今年の受験者は、粒揃い。ということですかな」

「ああ。この結果だとそうなりますね」


 次の試験ではそれほど死人は出ないだろう。

 そうなれば、この残った人数のほとんどが資格取得となると、前代未聞である。


 年に数名が合格できればいい取得試験。

 その第一試験終了に残った人数を見て、裏世界への切符がそれほど欲しいのかと、試験官はため息をついた。



「これだけの人数が合格すれば、後々笑われるのでしょうな」



 次の試験官が残った受験生にどれだけの無理難題を吹っかけるのか。

 減らす方法をどのようにするのか楽しみでもあったが、第二試験の内容的にそれは流石にないだろう。


「どうでしょうか。さすがに殺し屋を倒すものは今までもいたでしょうが、殺人許可証所持者を殺すというのは確かにありません。でもそれは、試験官が起こしたことではないでしょう」


 試験官は目の前に立つ《《黒装束》》の審査員の言葉に、時代が変わったと思わざるを得なかった。

 この審査員も、特殊な境遇からの殺人許可証を手に入れた存在で、その男がそのように言ってきたことが、余計にそう思わせた。


「……彼等に、第二試験の通知をしておいてください」

「わかりました。……第二試験の試験官はどなたが?」

「後で連絡があるでしょう。もっとも、あなた程の方が出ることはないとは思っていますが」

「……そうですか。少し、興味があったので残念です」


 心底残念そうな審査員が、試験官に一礼した後、つい先程入ってきたドアを開け、外に出ていこうとした。

 その背中と、「興味があった」という言葉に、試験官も気になってしまった。


「『シグマ』」


 審査員はネームを呼ばれ、振り向き、試験官の次の言葉を待つ。


「彼等の、何が気になったのですか?」

「……彼等、というより、彼、ですね」


 シグマと呼ばれた黒装束の男は、試験官の前に先程置いた報告書を指差した。


「……糸?」

「ええ。そんなものを主武装として、それ以外何も持っていない少年とか、興味をそそられませんか?」

「何か特殊な素材で出来ているとかですか?」

「いえ。どこにでもある鋼線です」


 確かに。

 思わずそう思い驚いてしまった試験官だが、同時に、だからと言って、このシグマという《《シリーズナンバー》》である存在が、興味を持つというのはおかしいと思った。


「そんなもので?……それ以外に興味をもったのでは?」

「いえいえ。試験官ほど裏世界に入って長くもありませんが、初めてみたので興味があるだけですよ。……試験官も驚かれるのであれば、やはり珍しいということでしょう。それが、特に、高校生ほどの少年だったら尚更です」

「……わかりました。引き止めてすみません」

「いいえ。では。……可能であれば、第二試験でも彼を見てみたいですね」


 シグマは再度一礼をすると、ドアを閉め部屋から去った。


「新しい時代……ですかね」


 試験官は、この試験で現れた少年《《三人》》が、試験に受かれば何かとてつもないことを起こすのではないかと感じ始めていた。


 危険とすべきか、この裏世界に一条の光をもたらす希望か。


 シリーズナンバーの彼が興味を持つ存在。


 少しずつ、世界が変わっていく。

 そんな足音が聞こえてくる錯覚を感じ、椅子に深く腰を下ろし、ため息をついた。








「鋼線はやはり珍しい、と。……まあ、この裏世界でも表世界ででも、あんな使いづらそうな武器を使っているのだから珍しいのは当たり前か。……あれだけの力がありながら、道理で隠れていたわけだ」


 シグマは呟くと、先程試験官に渡した報告書の写しの一部を、見ながら一人呟いた。

 その報告書は、自身が担当していた受験者の情報だ。


 まだしっかりと目を通していなかったその受験者の個人情報に目を通しながら、彼の主武装の『糸』について、どのように動かしているのか興味が再燃してきていた。


永遠名冬とわなふゆ……? また珍しい名前だな。偽名――いや、偽名でなければ……ふむ?……ああ、なるほど」


 個人情報を見ながら何かに気づいたシグマは、嬉しそうな笑みを浮かべ豪邸から去っていった。




 ◼️第一試験結果


 受験者名:永遠名冬

 殺人数 :62名

 内、最重要標的一名殺害

 黒帳簿ブラックリスト賞金首賞金:1200万円

 ※複数人による金額になるため分割

 賞金は、正式な許可証取得後に枢機卿カーディナルから授与


 本受験者に仮許可証を発行し、表世界への帰還を許可


 辞退した場合、殺害経験により黒帳簿への登録とその場での殺害を許可とする


 ◼️担当試験官

 第一担当審査員:シリーズ『シグマ』

 第二担当試験官:シリーズ『シグマ』

 引き続き担当試験官とする






 第一試験

 今期受験者数:600名

 内、正規受験候補生:100名

 ※10名は試験開始前に辞退があったため処理

 よって正規受験生:90名


 第二試験受理者:14名


 それが、今期の第二試験突破者数である。


 表世界、裏世界ともに。

 脱落者は行方不明として、処理されている。


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