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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
――Route End:『永遠名冬』――
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第175話:大きな大きな樹の下で 9


 冬の産まれたその部屋で出会った樹は、「ここで話すのもなんだからこっちへ来い」と、相変わらずの説明不足気味に冬達を自分が出てきた扉の奥へと案内する。


 その扉の向こう側の通路は、他とは違って天井に電気が通り、明るく優しげな光で通路を照らしていた。

 先程まで歩いてきていた道と違って、障害物もなく進むことができる直線だ。その直線の壁にも扉もなく、ただただまっすぐの道があるだけだった。


「……樹君、どうしてここに?」

「お前達を手伝いに来た」


 何を当たり前なと言わんばかりのぶっきら棒に、冬も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 だが、ここで知り合いの仲間と出会え、戦力を増強できたのはとてもありがたかった。

 いくら冬達が警戒して進んでいたからとはいえ、裏世界でも謎の実験施設であるのだからここまで侵入されれば何かしらのアクションがあるはずなのだ。それなのに、敵に合っていないことが不審すぎであった。


 ただなぜ敵と合わないのか、というその疑問は、もしかしたらと、冬は樹に案内させて進み出したこの通路を見て仮定をもつことができた。


 冬達が今まで警戒しながら進んできたその道は、電気が通っていなかった。そして今樹に案内されているこの場所は電気が通り、瓦礫などもないことから、ここが正しい道なのだろうと。

 そう考えると、これからが本番なのだと思えた。だからこそ、ここで樹に出会えたことが大きいと思えたのだ。


(と、思っていそうですね)


 枢機卿は、張り詰めていた緊張を解き、樹の後を嬉しそうに付き従う冬を見て呆れてしまった。

 今、彼に対して警戒を冬の代わりにしなければならないのは自分だと言い聞かせる。


 冬は、仲間だと思えば、信じすぎるきらいがある。

 どうしてかは枢機卿も知らないが、冬は、敵だと認識すれば容赦はしないが、一度仲間と認識した人に対して、優しすぎるのだ。

 だから、その仲間である樹に警戒することさえしないのだ。


 裏切られるということを考えない。

 先日、刃月美菜に裏切られたというにも関わらず、美菜をそこまで恨んでいないのもそれが理由である。



 ありえない。

 冬は知らないのだろう。



 彼は。


 『縛の主』の関係者である。


 と。



 それを、冬が知らず。また知っていたとしても、恐らくは戦うことさえ出来ないだろう。


『だから、私が冬を護る。きっと……』

「……え? すう姉? どうしましたか?」


 ぼそりと、意志を言葉にしてしまった枢機卿の声に、冬が反応し足を止めた。

 樹も立ち止まり、振り返って枢機卿を見る。


『いいえ、なんでもありませんよ冬。さあ、先に進みましょう』


 冬に笑顔を見せて、なんでもないことをアピールすると、冬は不思議そうな顔をして前を向いた。

 立ち止まり枢機卿を見る樹と視線が交錯し、枢機卿は樹に殺気を返して牽制する。樹も、疑われていることは理解できていたようであった。


「……分かっている。安心しろ。冬には手を出さない」

『……その言葉、信用しても?』

「ああ。むしろ冬の味方だ」


 それをどう信じたらいいのか。

 枢機卿は判断できかねていた。

 今の状況で、彼を信じることのできる要素が一つもない。


 先頭を歩き出した冬の少し後ろで、枢機卿と樹が並んで歩き出す。

 枢機卿が隣に来ても、いつでも戦えるように武器を構えるわけでもなければ、枢機卿に対して敵対心を向けることもなく。それこそ、本当に味方であることしかアピールしてこない。


 そもそも、彼はどのようにしてここに現れたのか。

 外は、世界樹の表側では水原姫率いる許可証所持者達が殺し屋組織を抑えこみ、裏側は、松と雫と先程別れたばかりだ。


 これだけの大きな樹木であるからこそ他にも入り口はあるであろう。だが、ラードが言っていたことを考えると、そこにも何かしらの敵は配置されていたはずである。

 その敵を退けてここに入ってきたというのであれば、それはもっと騒がしいはずではないのだろうか。


 別の扉からこちらとコンタクトしてきた。

 つまり、今三人で歩いているこの道を通ってきたということだ。

 それなら、この先に何があるのかも分かっており、そこに事前に罠を張ることだって可能であろう。


「……ここにいる部隊は全部、女狐の所に誘導した」

『……貴方、正気ですか?』

「お前は俺が『縛の主』と関わっていることは知っているだろうから。……それくらいは出来るさ。それに、女狐ならどれだけいても俺達が適うものでもないだろう」

『……自分から認めますか』

「ああ。事実だからな」


 自分から『縛の主』と関係があると暴露してきた樹に、枢機卿は困惑する。

 それともに、なぜここに敵がいないのか。その理由も分かってしまい、更には、樹が『縛の主』の兵隊さえも動かせる程に近しい存在であることが今の会話で理解できてしまった。


「今の状況をなんとかしたいのは俺も一緒だ。だから、冬には手を出さない」


 冬の背中をじっと見ながらそう自分に言い聞かせるように言う樹に、枢機卿はため息をついた。


『貴方を信じたいのは山々ですが。冬があそこまで気を緩ませているわけですから。私も貴方を敵とは思いたくはありませんよ。ですが、信用はできません』

「……だろうな。俺は、『縛の主』に育てられたからな」

『……それは、初耳ですね』

「だろうな。チヨ以外には言ってない」


 次々に暴露していくのは、本人が信用して欲しいからなのか。


「樹君。もうすぐ道が終わりますけど、この先には何があるかわかりますか?」


 気心の知れた仲間と会えて緊張感がまったくなくなってしまった冬を見て、枢機卿は再度の呆れを含めたため息を漏らした。


『どうしてここまで信用できるのか』

「……あ、ああ。俺も少し驚いてはいる」


 二人のことを信じきっている冬に、信用されている二人が逆に不安になる。

 枢機卿は冬の今後が心配になってきた。


『まあ、いいでしょう……』


 枢機卿も、気が張り詰めていたのだと。

 この時、そう思ってしまい、


『今は、貴方を、信じるしかなさそうですね』

「……感謝する」


 『樹』という仲間の登場を、少しは喜ばしいと思ってしまったことを、枢機卿は後悔することになる。


























「――え?」



 それは、まさに一瞬であった。


 冬が、暗闇の中へとまっさかさまに、落ちて行ったのは。




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