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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
――Route End:『永遠名冬』――
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第174話:大きな大きな樹の下で 8


 世界樹。

 内部へと侵入を果たした冬と枢機卿は、一つ一つの部屋を慎重にチェックしながら前へと進む。


 しばらくその道を進み続けると、更に地下へと進む階段を見つけた。

 階段を下りていくと、まだ周りは赤い緊急灯のみが均一に点灯していたが、先程とは打って変わって、複数人がすれ違えるほどに広い通路が広がっていた。


 左右に個室のような部屋があるのは変わらないため、一つ一つをまた覗きこみながら前へと進んでいくが、部屋一つずつが先とは違って大きめであることが、上階よりも質の高い研究を行っていたのではないかと冬に思い至らせる。


 上階はほぼ全ての部屋が壊されて扉が簡単に開け閉め出来る状態ではあったが、この階層では壊されていない部屋もあった。


 ただ、上階と同じように電気が通っていないのか、または認証式だからか扉は開くことはなく。中の様子を伺うことができないものの、入り口のプレートに書かれた部屋の名称を見る限り、上階で感じたように、研究施設らしくそれぞれが実験に使われていた部屋なのだと理解できた。


『冬。この部屋に何かあります』


 枢機卿が他の部屋とは明らかに違う大きな部屋の内部を警戒しながら冬を呼んだ。


 すぐに枢機卿と同じく中を壁にくっつき中を伺おうとする冬の目に、その部屋のプレートが目に入った。

 プレートには『S』室と書かれておりその下には何かが擦られたのか見えづらいが『超……力』と書かれていたことも恐らくは超常的な力の研究をしていた部屋なのだと容易に想像ができた。


 内部に動く気配がないことを確認すると、二人は一気に侵入する。


 何もない。

 ただの大きな部屋だ。


 だが、天井に近い位置に、観客席のようなガラス張りの部屋が見えた。

 どうやらここは研究していた成果を見るための部屋のようで、その証拠に、その部屋の中央に、犠牲者なのかは不明だが、何かに服を剥ぎ取られた様子で倒れている白骨死体があった。


 やっと人がいた形跡を見つけた二人ではあったが、長い年月をかけて白骨していることから安全ではあると判断して近づき触れるが、身元を確認するようなものもなく、ただの徒労に終わる。


「すう姉。ここは……」

『……あまり、話したくはないのですが……』


 考え込むように言葉を一度切った枢機卿は、辺りを部屋内できょろきょろと見渡し、そして冬に部屋から出るように促す。

 冬は枢機卿がこの世界樹の内装地図をどこかから手に入れたのだと気づく。

 枢機卿が進む先に、切った言葉の答えがあるのだろうと思いながら、何の迷いもなく歩き出した枢機卿の後を付いていく。


『以前、ここをピュア達が襲撃したことがあります。とはいっても、この破壊の痕はそれよりも前にあった様子ですが』

「姉さんが?」

『ええ、スズ様を救出したときですね』

「ああ……お義兄さんが前に教えてくれた話ですか?」


 以前、冬は義兄となった春から、姉が『スノー』という殺人許可証所持者だった時にスズを助けるために月読機関と戦ったことがあるという話を聞いたことがあった。

 スズから産まれた素体の遺伝子を改良し、都合のいい最強の兵士を創り出すことができると話を聞いた時のことだ。


「……あっ……」


 そして、その時に。

 自分が春と枢機卿にした質問も思い出す。




<スズの体から生まれた素体に埋め込んで作り出す兵士……姉さんは、『縛の主』と因縁があったのですね>

<貴方も、ですよ。永遠名冬>

<……僕も、なら……僕の産まれた場所は……>

<雪もお前も。あの場所で作られた、生命体だよ>




 思い出したそれは。

 気づけば、目の前に。


 白骨死体のあった部屋と変わらない大きさの部屋の前。

 プレートには、『B』室。『遺伝……強……複……』と擦れた文字が見える。


 その部屋は先程とは違い、入り口傍から用途不明の様々な器具が置かれており、左右に人が一人入ってゆったりできるほどに大きな、試験管がずらりと並び。


 その中には人の形を模した意識のない塊や、これから人になろうとしていた、小さな勾玉のような形をした生物がぷかぷかと浮いていた。

 まだこの部屋は活動しているようにも見えたが、それは違うことにすぐに気づく。

 その試験管の中の人の形をしているそれら――もうすぐ人となり得た液体の中身は、すでに活動を停止していた。

 つまりは、そこから産まれることなく、人の体を作れずに死に絶えたのだ。


 枢機卿はその人のなりそこないを気にせず、左右の試験管の間の通路を進んでいく。

 冬も枢機卿の後を続こうとして、途中、一つの試験管の中身がないことに気づいた。


「……これは、誰かがここで産まれた……?」


 直感的にそう思った冬はそこで足を止め、そこで視線を感じた。

 敵意にも見え、とっさにその視線を追う。


「あ――」


 その視線は、試験管の中からだ。

 中身のない試験管の隣。その試験管の中に、一点を見つめているソレがあった。

 目を見開き、自分の体を抱え込むようにしてぷかぷかと浮くその塊。虚空を見るかのように合っていないはずの目と冬の目があい、言い様のない不安と懺悔の念が押し寄せた。


 僕も、もしかしたらこうなっていたのかもしれない。


 春から、自分は試験管ベイビーだと聞いている。

 何かがあってそのまま産まれることがなかったら、同じようにそこで浮いたままだったのかもしれない。


 そう思うと、そこにいる、自身のなれの果てとも言える塊に――


『――いきますよ』


 枢機卿の声にはっと我にかえる。

 枢機卿はその試験管に囲まれた通路の先にあった扉を開けていた。


 考えていたことを首を振ってすぐに払拭して、冬は枢機卿の後へ続く。


 枢機卿が開けた扉の先には、更にもう一つの部屋があった。


 そこは先程の試験管が並ぶ部屋よりも広く。

 ケーブルや機械が乱雑に置かれていた場所とは違って、すっきりと綺麗に並べられた部屋。


 そこに、ぽつんと、一つだけ。それはある。


『冬、ここが貴方の生まれた場所ですね』


 そこにあるのは。

 何も入っていない、大きな丸型のワイングラスのような容器だ。


 試験管ベイビー。


 ここは『B』室。

 遺伝子配合組み換え強化研究実験・身体複合型被験体が生まれた場所。


 そして、


    準成功体 丙種 通称『冬』


 彼が、生まれた場所だ。



「僕の産まれた……場所」



 思わず、その人が複数人は入れそうな大きなワイングラスのような実験器具を見て、呟いてしまっていた。



「そう。そこがお前が産まれた場所だ。冬」


 聞こえた声。

 冬達が入ってきた扉とは別の、冬の揺り篭であったワイングラスの置いてある部屋の端にあった別の扉を開けて。



「樹くん……?」



 C級殺人許可証所持者『大樹』

 千古樹せんこ いつき


 冬と同期の彼が、そこにいた。



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