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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
――End Route01:『松』と『雫』――
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第170話:『松』と『雫』 1


「かぁ~! わいの活躍見てなかったんかい、冬!」


 それは、世界樹の背後を突くように遠回りして大木という障害物の中を、三人の殺人許可証所持者と一体のメイドギアが駆け抜けている際の、気の合う仲間達だけとなった戦場での、最後の一時ひとときだ。


「あら~、旦那様ぁ、私は見てたわよー」

「そりゃお前さん傍にずっといたからみとるやろ」

「かっこよかったわ~。きりっとして皆に指示出してる姿とかぁ~」


 大枝から大枝へと飛び跳ねるように軽やかな動きで走る二人――C級殺人許可証所持者『そばかす』のコードネームを持つ立花松と、その恋人であるB級殺人許可証所持者『戦乙女』こと桐花雫とうか しずくの二人は、一歩前を進むメイドギア、枢機卿カーディナルにお姫様抱っこされていることにすでに慣れきって違和感も恥ずかしささえなくなった黒い中国風の服を着た男、A級殺人許可証所持者『シグマ』となった永遠名冬を見て、ため息をつく。


「な~んか、妙にはまっとるな」

「はまっているというか抱っこにはめられているというか~。すっぽり包まれているというか~?」


 枢機卿が幼子のように包むように抱きしめており、そのホールドが慈愛に溢れていることから、どれだけ愛されているのかと思ってしまうからこそため息をついてしまう。


「なあ、冬」


 そんな、ある意味呆れにも捉えることのできるため息をつきながらも、松は木々を渡り歩きながら、声をかけた。


「はい」

「……お前さん、お譲ちゃんがどんな存在か知っとるんかい」

「……はい」

「そか……。ならいいんや」


 知っているならいい。

 むしろ自分より詳細が分かっていそうな冬に、松は気持ちを改めた。


「そいや。お前さんら、後ろから来たってことは、瑠璃と合流できたんか?」


 気持ちを改め、背後にいたはずの瑠璃の状況が気になっていた。

 松は瑠璃が誰を足止めしているかは知っている。


 『焔の主』 


 裏世界で誰もが知るその名。

 そんな最強を、一人で抑える役を買って出た瑠璃がどうなったのか気になってはいたのだが、合流した三人と共に来ていないことを考えると、松もすでに察していた。

 友の最後を知っているのなら、しっかりと聞かなければならない気がした。


「瑠璃君は……」

『『焔の主』を倒したそうです』

「わぁおっ。凄いわね~」


 雫も同じく、しばらく行動を共にしていた松の男相手がどうなったのか気になって仕方なかった。

 流石に倒せるわけがないと思っていたからこそ、枢機卿の口から倒したと聞いた時は嬉しかった。共に来ていないことを考えれば、もしかしたらまだ合流できない程のダメージを負ったのではないのかと一縷の望みも出てきてしまった。


『その後、死亡の報告がされております』


 本当は、そんなわけがないのに。


「そか……」

「はい……ただ、お兄さんには会えたそうです」


 そんな朗報。

 もらっても意味がない。

 ただ、瑠璃がしっかりと目的を果たせていることは、へらへらといつもの笑顔を讃えぴこぴこと擬音が出るかのような太い頭の筆を揺らして何でも卒なく達成している瑠璃らしいとも思う。


「ほな。よかったな。後はわいだけかいな」

「……そう、ですね」


 そんな自分の呟きにも取れる発言に、松は自分を笑ってしまった。


 冬はすぐに傍で正体を隠していた姉と、出会うことが出来た。

 瑠璃は死の間際に兄と出会うことが出来た。


 それなら。

 自分も、会えるのかもしれない。


 なぜだか、自分もこの流れで姉に会えるのではないかと、ふと思ってしまった自分が、友人の死に対する悲しみをそんなことで払拭しようとしていることに嘲笑してしまったのだ。


「フラグ、やんけ」


 そう思わず思ってしまい、馬鹿げたことだと再度自分を卑下する。


「フラグ、ですか?」

「いや、なんでもねぇで……お嬢ちゃん、助けような」

「はい。……ありがとうございます」


 ぺこりと。

 軽く会釈するように背後に向かってお辞儀をした冬に、松も同じく頷きで返す。


「……な~に~? また二人とも目で会話して~。そんな関係~?」

「「なんでそこで!?」」


 どうしてもソッチのほうに持って行きたいのと、松に疑惑を持つ雫は、亡くなった瑠璃の代わりに現れた冬に嫉妬が芽生えて仕方がない。

 とはいえ、そんな軽口も、雫なりの気の紛らわせ方なのだと思うと怒るわけにもいかず。


 気持ちを切り替えようと皆が皆必死なんだと思いながら、互いに途切れることのない談話をしながら、急ぐように四人は先へと進む。



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