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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第四章:A級許可証所持者『シグマ』

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第100話:足止め B面

B面は姫視点になります。



「ん? 何で大樹も一緒に逃げてんねん」

「同期勢揃いだね」


 エレベーター前で立ち塞がる二人は、冬と樹を見ると、ほっと安心したかのようにため息をつきながら声をかけてくる。


 姫としては、すでにこの二人とは意見を交わしているし、こちらに向かっていることを樹の家で席を外した時に連絡済みなので、ここに二人がいるのは「間に合ったのですね」という感想しか抱いていないのだが……


「瑠璃君……松君……」


 冬はそう思っていないようで。

 それもそのはず。

 あの時、すでに自宅を出ていた冬は、自宅で何の話し合いがあったのかは知らない。


 よって、目の前の二人は、『敵』という認識なのである。


 とはいえ、ここまで色々動いてもらっているし話もされているのに、気づかないということも、天然を通り過ぎて朴念仁、はたまたでくの坊なのではないか、とさえ思える程の理解力のなさに、本当にこの子は世話が焼ける、と姫は瞬時に思った。



「……ああ、何だか、あの時を思い出すね」

「どの時やねん」

「ほら、そばかす君が冬君の家のドアを壊した時のこと」

「あー……必死に逃げようとしてたときの話かいな」


 冬はその二人に顔を歪める。

 その歪みは、友人として仲良くしてくれた二人への嬉しさであろう。


 なのに、



「逃がして、くれませんかね?」



 今にも泣きそうな、苦しそうな。歪んだ表情だったことに。



 ……この子は、本当に……馬鹿ですか?



 姫は、その冬の表情を見て、助けに来た二人が可哀想になった。


 この冬という存在は周りを頼りにしていないのか、それともあのようなことがあってすべてが敵だという想いがそれほどまでに残ってしまっているのか。


 にしては、師匠となった『紅蓮』こと青柳弓や、それこそ自分――『鎖姫』が逃亡を手伝っているのに、まだ周りに慕ってくれる仲間がいないと思っているのかと思うと、助ける必要あるのか? 等という疑念も浮かんでくる。

 特にその武器は、無茶をして助けに来てくれた二人に向けるものではないのは確か。


 冬が戦闘体勢をとったところを見て、「この子のために動く私達って……」と、ため息しか出てこない。




「「……はぁ?」」




 冬のその動作に。


「君は相変わらずの――」

「あんさんはほんまに――」


 腕から、しゃんっと、鈴の音のような音を鳴らせ。

 ぴきっと、二人のこめかみに、怒りのマークが浮き出させる。


 ついでに言うと、樹も若干不服そうで――


「「馬鹿野郎で勘違い野郎かっ!!!」」



 ――冬の脳天に、拳骨を炸裂させる行為は納得だった。



 だから、こうなる。と

 冬のその結果に、二人に頭を叩かれるその様にやはりため息しか出てこない。



「そうなりますよね」

「な、なんで……」


 ぐいっと、襟首を掴まれ無理やり立ち上がらせられた冬は、目の前の怒り心頭の松の表情に困惑しているが、怒られるのは当たり前なのである。



 姫がうんうんと納得すると、胸元でバイブ音をたてるスマホに気づいた。


「あ、御主人様……っ」


 液晶画面に出た、名前だけでも愛しく感じるその相手。


 そもそも、姫のスマホは特定人物しかバイブで着信を知らせるようにはなっていない――もっと言うと、それ以外は興味がないので着信に気づく気もない――双つの胸の間にしまい込んでいるのも、すぐに揺れた時にわかるようにしており、姫が、その相手について逃がすわけがないのである。


 すぐにスクリーンをタッチし耳元へ。


『あー、姫?』

「はいっ、貴方の姫でございますっ」


 つい先日まで傍で聞いていた愛しい声は、電話越しでも姫をトキメかせ。


御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様旦那様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様御主人様


 と、その言葉だけが姫を支配していく。

 もう心の中は御主人様一択である。


「君を知っていて、あんな馬鹿げた噂、信じる人がいると思っているのかい?」


 そんな御主人様一色になりたい姫にとって、周りは雑音。

 冬達にとっては大事なところではあるのだが、それが今は煩わしい。


『今大丈夫か?』

「姫は御主人様が最優先でございます。例え世界が変わっても姿が変わっても、御主人様の為なら――」

『ああ、うん。とりあえず長くなりそうだからはしょるとして』


 ああ、そんな御主人様も素敵。


 と、上気していく頬に触れてくねくねと声だけで体を揺らしてしまう。



「僕を、疑って……ないんですか?」


 そんな高ぶる感情の中、近くでやっと松と瑠璃の怒りの理由に気づきだした冬に、いらいらと。


『で、ちょっと頼みがあってな』

「はいなんでしょうか。この目の前の天然を殺せばよろしいでしょうか?」

『天然って誰の事だ!? いや、そうじゃなく――』


 そんな御主人様の一挙一動を、声からだけでも逃すわけがない姫。

 電話から聞こえる御主人様の声は姫には少し困っているように聞こえた。


 御主人様が困っている。それはメイドとして一大事である。


「当たり前じゃないか」

「僕を、助けてくれるんですか……?」


 なのに。

 周りの盛り上がりが耳に入ってきて、うざったく。


「天然もたいがいにせぇよ。理不尽な状況に陥った友達助けるんに、理由なんていらんやろが」

『で――』

「僕を、信じて……くれるんですね……」

「「当たり前」」

『――困って――』

「二人とも……」


 御主人様のありがたい声が――


「御主人様、少し、お待ちください」

『――ん?』

「ありが――」

「――うるさい」


 聞こえない。

 殺しますよ、この馬鹿ども。


「「え……?」」

『えーっと?』


 姫の一言で、辺りがしんっと静まり返る。


「次、私の電話が終わるまでに喋る愚か者がいたら、問答無用で、殺します」


 思わず溢れだしてしまった、自身の体を護る『光』を抑えることもなく。


『やっぱ取り込み中だったか?』

「い、いえっ! 違いますっ! 私が取り込むのは御主人様だけですっ!」

『俺を取り込むって意味わからんが、かけ直すか?』

「そんなことしたらこの場にいる全員消しますっ。わかりました、今すぐ消しますのでお待ちください!」

『……かけ直すだけで死人をだすな……』


 電話越しの御主人様の声を長く聞くためだけに、姫は必死だった。

 気づけば、『鎖姫』さえも銃身を現わし、殲滅準備さえ整いだす程に。


『あ~。で、な? お前、いつ頃戻ってくるかなって』

「ああ、御主人様……そんなに姫に会いたくて……」

『そこはまあノーコメント――じゃなくて、二人がな、姫が戻ってくるならご飯作ってあげるって。で、俺が試食をだな』


 そんなことを許してしまえば、また御主人様は暗闇の中へと落ち、次は戻ってこれない可能性が高い。なぜそのような自殺行為を許したのかと姫は愕然とした。


「それは……本当に……本気ですか?」


 なぜ、御主人様の正妻と第二夫人が作ることになったのか。傍に七……ああ。あのたゆんでぽよんでぷるんも壊滅的でした。と、姫は御主人様の周りにいる女性が全員料理ができないことを思い出す。


『命の、危険を、俺は感じている』

「でしょうね」


 彼女等の作る料理で、御主人様は一口含んだだけで失明したという事実を思い出す。


『で、早く帰ってきてほしい。というのが俺の本音だ』

「それはもちろん御主人様の望みとあればすぐにでも……。ちなみに、御褒美はありますか?」

『ごほ……俺の手料理じゃだめか?』


 「御主人様の、手料理……」と、御主人様の作る愛夫料理に舌が唇を舐めてしまう。


「私の為の、ですか?」

『ああ、あいつらを抑えてくれるならいくらでも作るぞ』

「分かりました。すぐに向かいます」


 それは最優先事項だと姫は考えた。

 御主人様が自分の為だけに作ってくれる料理。

 そんなものは今まで食べたことがない。

 それを手に入れる為なら今すぐにでも戻る必要がある。


 御主人様にすぐに戻ることを伝えると、姫は電話を切った。

 周りを見渡すと、電話をしている間言葉を発さなくなった周りに、「喋っても、いいですよ?」と満面な笑顔を皆に向けた。


「お相手しようと思ったのですが、急用ができました」


 そう言うと、姫は瞬時に冬に近づくと小脇に抱える。


 急がなければ。

 あの口調。そしてこの電話。

 恐らく、もう彼女達は作り出そうと動いている可能性が高い。


「ガンマ、そばかす。ここは任せても?」


 瑠璃と松が頷いたことを確認すると、姫はすぐに樹達を連れてエレベータへと乗り込んだ。


 二人がいるから邪魔されることもなく、エレベータは地上へと昇りだした。



「とりあえずは。無事地上へと上がれそうですね」

「はい……ありがとうございます」


 どさっと、姫が二人を離すと、チヨは顔面から床に叩きつけられ「ふぉぉっ」とごろごろと転がり痛がりだし、樹に介抱される。


「本当に僕なんか助けて――」

「貴方は、本当に……いい加減理解すべきですよ」

「え……?」


 この子が、自分がどれだけ周りに好かれているか理解してないことに、改めて驚いてしまう。


「先ほども言いましたが、貴方のために、貴方を知っている皆さまが動いております。ガンマやそばかす、シグマやピュアだってそうですし、枢機卿だって動いています。紅蓮だってすぐに駆け付けてくれた。その理由を、貴方は理解すべきです」

「……理由、ですか……」


 とはいっても、言葉で伝えても、この子は現実に見ないと信じられないのだろうと、冬を見ながら姫はため息をつく。


 今は御主人様のことで忙しくなってきたというのに、なぜこうも私は気にしているのだろうか。と、姫はエレベータの中で座り込んでしょげている冬を見ながら思う。


「貴方は皆さんのことをもう少し信じなさい」 


 ――結局のところ。私が弟のように見てしまっているからでしょうね。

 こんな風に、弟と思うようになったのは、恐らくはピュアのせいでしょうけど。あの子も泣かすわけにもいかないですからね。


 姫は、この目の前の天然を通り過ぎ苦悩している冬を、「手のかかる弟ですこと」と、温かく柔らかな笑みを浮かべて見つめていた。


 地上へとあがるエレベータは、少しずつ、上昇していく。



ちょっぴり御主人様登場です。

どうやらピンチの様子です。

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