第97話:『焔』の共演
師匠こと青柳弓VS血祭り構成員不変絆
ぶっちゃけ、話にあまり出てこない二人の戦いです!(ぁ
紅蓮が指を向けると、向けた先に破滅をもたらした。
「君は、あまり周りを気にしないタイプなのかな?」
「あ~?」
ぱんっと、向けられた先に複数の真っ赤な華が咲くと、その華の隙間を縫うように、紅蓮へと迫る人影が。
実際は、その隙間を縫う影を撃ち抜くために指を向けているのだが、影は器用に動き、標的から逃げては、その先にいた殺し屋に照準が当たって華を咲かせている、が正しい。
華を咲かせるその指先から発せられるは、紅蓮の極みの一撃。『紅蓮浄土』だ。
標的となった相手は、ぶるぶると体を震わせると、自身の体が震える理由もわからず、不思議そうな表情を浮かべた次の瞬間には内部から膨れ上がる膨張に耐えきれず、風船のように破裂していく。
「あっぶねぇなぁ」
指先の照準を避けきるその影が、炎を纏った軍用ナイフを紅蓮の目の前で振りかざす。
即座に肩口を狙って振り下ろされたナイフを、紅蓮は大袈裟とも言えるまでに距離を取ってかわした。
軍用ナイフが振り下ろされる際に周りの酸素を取り込み炎を一際大きくする。
ほんの少しの回避であれば逃げることさえできない程に大きくなった焔は、紅蓮の背後にあった家屋を巨大なナイフとなって切り裂き、鮮やかな炎の柱が家屋を貫き燃やしていく。
「あーあ……いい家だったのにね」
玄関が斜めに切り裂かれて簡単に燃え崩れる様に、この家の持ち主が帰ってきたらがっかりするだろうと思いながら、屋根の上に降り立った。
「だったらよけ~るな」
「嫌だよ。痛いでしょ」
敢えて言うなら。
紅蓮が樹の家の前に立ったことや、避けるために屋根に乗った時点で、この家の命運は決まっていたのだろう。
そんな、一瞬の攻防。その一場面。
辺りは二人が動く度に数を減らしていく。
紅蓮が放つ『紅蓮浄土』
絆が振るう『焔を纏った軍用ナイフ』
赤い軌跡と咲き誇る華に翻弄されて、次々と数を減らしていく、冬を狙った殺し屋達。
接近戦。
紅蓮の腕から生えた、薄い水色の膜で覆われたカタールと焔を纏った軍用ナイフが鍔迫り合う。
「おめ~が避けるから、周りが燃え~んだよ」
「君が避けなければ華は咲かないんだけど?」
白刃の先に見える相手に放つ言葉は淡々と。
互いの型式さえも迫り合い、焔は舞い散り火種となって辺りを焼き尽くしていく。
「あ~……面倒だ~な、お前」
迫り合いは突如、終了した。
絆が離れると、まだ『華』となっていなかった殺し屋を一人捕まえて紅蓮へと無造作に投げつける。
投げつけられた殺し屋は簡単に紅蓮の刃によって真っ二つとなった。
「死角作~って切り裂く」
切り裂かれて左右に分かれていく殺し屋の体から生まれるように、絆が現れ軍用ナイフを紅蓮に突き放った。
「おや? 単調な誘導だね」
そんな簡単な動きに、紅蓮は何事もなく目の前のナイフを避け、カウンター気味に絆へカタールを振り下ろす。
だが、そのカタールは絆の体に吸い込まれると、何の感触もなく素通りしていく。
抵抗もなく空振りとなったことで、紅蓮もバランスを崩れてしまう。
「――残像だ~よ」
紅蓮の背後に迫るは、もう一人の絆。
「なるほど」
『流』の型は水を使って「息吹」を与えることができる。
『自己像幻視』
人に似通った偶像を、絆は戦いながら、一瞬の隙を作った間に一時的に作り出したのだ。
残像のように、扱う人間が早く動くことで残る幻像のようなものではなく、本当にそこに人を形作ることで、気配さえも、存在さえも作り出す技術。
例えば更に、複合技として『縛』の型を使って土で『形』を作りだせば、更に高性能な自己像幻視を作り出すことも可能であろう。
にやりと笑い、振り下ろされる軍用ナイフ。
そのナイフはさくりと、紅蓮の肩に刺さり、そして振り下ろした勢いのままに紅蓮の肩口から体の中心――心臓へと向かって突き進む。
「――でも、もう少し工夫は必要かな?」
軍用ナイフは心臓手前で動きを止める。そこから先に進まなくなったナイフを突き刺さったままに、目の前の紅蓮の体に向かって突撃し、ぐらつき倒れたその中心部付近のナイフに足をかけ蹴りつけると、勢いをつけてその場から退避していく。
『焦土』
ごおっと、音と共に辺りに溢れるは、焔の奔流。
空から落ちてきた、空から地面へと、逆に立ち上った火柱である。
絆にナイフで裂かれた紅蓮の体を中心に広がる巨大な火柱は、その体を黒い影にして渦巻く炎の中へ消していく。
「はっ、や~るね」
「作りが雑だからね。『縛』の型で形作らないとすぐにばれるよ」
全てを焼き尽くす炎が消え、ぶすぶすと黒焦げになるその場に降り立つは、戦いの最中でもにこにこと笑顔を絶やすことのない紅蓮。
ポニーテールが紅蓮の着地の衝撃で上下に軽く揺れる。
「『縛』の型はにが~てなんよ」
「それはよかった」
絆が使った『自己像幻視』
紅蓮は更に高性能な偶像を作り出し、隙を狙って焼き払おうとしたのだった。
「こ……こいつら……」
「「化け物だ……」」
辺りにいまだ残る殺し屋達はすでに腰を抜かし。
参加できるわけでもなく、辺りに観戦者のように立ち尽くすだけだった。
「おや。まだいたのかな」
「所詮壁くらいにしか使えん雑魚ともは消え~ろや」
紅蓮が指を鳴らす。
絆が辺りに焔をまき散らす。
『華』と赤い炎が周りの観戦者を、ぱんっと咲かして燃やし。
二人を中心に。ぐるりと炎が壁となって内部への侵入者を防ぐ。
「さ。体もあったまってきた」
「そろそろ本気~でいく」
二人をぐるりと囲むように燃える赤い炎のなか。
二人の型式使いの戦いは、まだまだ続くようで――
「――なあ、俺も混ぜてくんね?」
そこに現れるのは、一人の男。
その絆が作り出した――自身の獲物を逃がさない為に作った炎の壁をものともせずに。
燕尾服姿の初老の男が、炎の壁から溶け出すように優雅に、こつこつと地面から靴音を鳴らして現れる。
「おま~え、なにものだ~?」
その姿に、只者ではないと感じた絆は、紅蓮から目を離してその男をみた。
紅蓮もすでに絆から目を離していたから尚更気になったのである。
「なんだお前。こんな目くらましな『焔』の型を使っていて。俺をリスペクトしてるわけでもないのか」
「しらねぇやつをリスペ~クトするわけね~だろ」
「いやいや、俺のことくらい知ってろよ。なぁ……」
高揚感に満たされだした戦いを邪魔された絆は、その高揚感を与えてくれた紅蓮が自分を無視してその男を見るのが気に食わない。
そこまで有名な男なのかと思うが、殺し屋達のステータスともいえる賞金首情報――手配帳にこのような男が乗っていればすぐにでもわかりそうだと思いながら紅蓮と初老の男を警戒する。
「……A級殺人許可証所持者『紅蓮』」
「そうだねぇ……正直に言うと、裏世界の人は、あなたの事をあまり知らないと思うけどね。あなた、裏世界の情勢に興味ないし、表立ってでてこないしね」
「それでも知っとくべきだろ?」
紅蓮は初老の男の片腕から見える武器をちらりと見る。
本来は洋服の下に隠し持つべきだが、この男は洋服の上から巻き付け、その《《砲身》》を惜しげもなく見せつける。
その武器は、『焔帝』が作り出したと言われる一品。
『焔帝』を殺して手に入れたと目下噂される、その持ち主の象徴ともなった『焔帝』の傑作品。
「武器マニア程度にしか知られていないよ」
「それは嬉しいね。じゃあ、紅蓮にそこの殺し屋に俺の名前を名乗らせる権利をくれてやろう」
くくっと、笑いながら燕尾服の初老の男は持っている武器をぶんぶんと軽く振って具合を確かめだす。
その砲身から飛び出したのは、『焔』だ。
「自分で名乗りなよ。『焔の主』」
にこにこと、その燕尾服の男に警戒を解かずに紅蓮は初老の男の正体を名乗った。
『焔』の共演は、まだ始まったばかりだった。
『焔』の型を使って戦うそれぞれの熟練者達が集まり、共演は進んでいきます。
が、一旦ここで小休止。
冬サイドへと一度戻ります。




