7
数日後。
「…………………で、なんでこうなる??」
「ヴィオラちゃん、美しいよー!!!あー画家を呼んで肖像画を描かせたいぐらい美しい!!」
「馬鹿ね、人の生の美しさというものはキャンバスには収まりきらないものなのよ」
「え、何そのセリフ、カッコイイ……」
童貞の上に子供か、というセリフは後が長くなりそうだったのでヴィオラは口を噤む。
いつもよりも動きにくい服装を見下ろして、彼女は溜息をついた。
それもその筈、彼女が今身に纏っているのは、普段の侍女の装いよりも数段豪奢なドレス。
宝飾も首飾りひとつとっても平民が生涯楽して暮らせる程の価値があると分かる、大粒のサファイア、小粒のダイヤの耳飾り、髪は何がしかの神業でいつもよりも艶があり、高く結い上げられたそこにも真珠と銀であちこち飾られていた。
「今更だけど、なんでこんな格好しなきゃいけないのよ……」
朝から侍女部屋に押しかけて来たメイド達によってぴかぴかに磨かれて、ぎゅうぎゅうに着付けられたヴィオラは既に疲れていた。
「今夜王族の晩餐会があるんだよね。アリス嬢も偽聖女も、今回の件に関わる人物は全員一堂に会するから、そこでエドワード殿下にきちんと説明してもらう手筈になってるんだ。ヴィオラちゃんは会に出席して、殿下がピンチになったらアシストしてあげて欲しいんだよ」
「……あの馬鹿王太子とビッチ義妹が、説明とやらに従うとは思えないけど……」
「それでも、このままにはしておけないからね。問題提起は大事なことだよ」
結局、アリスはあの後エドワードの求婚を受け入れて、今は将来の第二王子妃だ。彼女自身がどう考えているかは、ヴィオラには知りようもなかったが、真の聖女を他国に流したくないレイフとしてはホッとしたことだろう。
だが、ヴィオラとしては複雑な気持ちだ。
よりにもよって次期国王である王太子に婚約破棄され名誉を穢され、心を傷つけられたというのに、聖女という力がある所為でこの国にアリスが拘束されるのは、間違っているのではないだろうか?
勿論、作物に影響が出始めている現在、ヴィオラとてアリスが国を出て行ってしまえばどうなるか想像は付くが、それではアリス個人の意思や望みを、無視することになるのではないだろうか?
「……」
麗しい姿で、何やら難しい顔をして考え込んでしまったヴィオラを見て、レイフは柔らかく微笑む。
彼は本当に、ヴィオラのことを愛している。
彼女は、人には言えないような辛い経験をたくさんしているのに、真っ直ぐで、しなやかで、そして優しい。そんなところが、大好きだ。
レイフのような千里眼のバケモノのパートナーなど、誰もやりたがらない。
事実今まで、塔から出てこない彼の手足となって動く人材は王城の上層部から何度も派遣されて来ていた。けれど、彼らは数日、短い時はその日の内に役目を降りたいと懇願するようになるのだ。
それはそうだろう。
千里眼がどこから自分のことを監視しているか気になって、だんだん疑心暗鬼になっていくのだ。
レイフ自身は水晶で話している間でもなければ一個人を逐一監視してなどいないし、相手のプライベートには極力配慮しているつもりなのだが、これはバケモノ側の言い分なのだろう。
ところがどうだ、ヴィオラは足繁く塔に通い、まるでレイフを普通の人間のように扱って、叱り、健康の心配までしてくれる。
温かい料理を作って、一緒に食べてくれるのだ。
レイフは、手足をもがれても死なない。首を刎ねるか、よほど強力な呪いを掛けられるかでもしない限りは、死ねないのだ。
ヴィオラはそれを知っている。
何せ、彼女はレイフを殺しに来た暗殺者だ。初対面で胸に大振りのナイフを付きたてられたのは、なかなか刺激的な出会いだった。
だから、少なくとも心臓を貫かれても死なない、死ねないバケモノだとは分かっている筈なのに。
何一つ変わらず、接してくれるのだ。
「……何見てんのよ」
レイフがにやにやしながらこちらを見ていることに気付いたヴィオラは、気恥ずかしそうに顔を顰める。
露悪的なところのある彼女は、優しいところや親切な点を指摘されるのを恥ずかしがるのだ。そこも、とても可愛い、とレイフは思う。
「べっつにーじゃあ、晩餐会頑張ってね!」
「あ、なんでいつもの侍女役じゃダメなのよ!」
「王族の晩餐だよー?無関係の侍女がいたらすぐバレちゃうよ。ゲストとして席に着いていれば、誰も知らない女性でも、席を用意された者に突然無体を働く輩もいないだろうしね!」
レイフは簡単にそう請け負うが、ヴィオラからすれば身分が明かせない身なのに、人前に堂々と出るなんてたまったものではない。
ただし、エドワードのアシストという点ではやはり表舞台に出ていないと難しい筈だ。渋々了承することにした。
「しかし、この宝石とかよく借りられたわね」
「あ、それ僕が購入したから。買い取りは基本でしょう」
「……て、ことは、私のものね」
あっさりと断じる彼女に、レイフはケラケラと笑った。




