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小話6(2023バレンタインSS)

 

「ヴィオラちゃん、ヴィオラちゃん、ヴィオラちゃん!」

 きゃんきゃん、と大きな子犬が今日もやかましい。


 ソファにだらしなく横たわり昼寝を楽しもうとしていたヴィオラは、犬に圧し掛かられて安眠を妨害されていた。誰の所為で寝不足だと思っているのだ。

「……何よ」

「今年は当日に欲しいです!」

「主語を言いなさい、主語を」

 にこー! とだらしなく笑うレイフに苛立って、ヴィオラは彼の頬を抓って伸ばす。意外にも柔らかく、結構伸びた。

「痛い!」

「痛くしてんのよ。で?」

 ヴィオラが素早く話の軌道修正をすると、頬の痛みを秒で忘れたレイフがまたもやぱやー! とした笑顔になった。

「チョコレート!」

「食べたいの? 厨房に言って……」

「あああああんんん! このやり取り去年もやったぁぁぁ!!」

 何故か盛大に叫んで、レイフはヴィオラの豊かな胸に縋って泣き出した。情緒不安定な恋人を持つと、なかなか大変なものだ。

 しかしヴィオラは記憶力がいいので、今日の日付とチョコレートをキーワードにレイフの話の正答を検索した。

「ああ、恋人の贈り物の日ね」

「それー!!!」

 わぁん! と正答を得てなお泣きじゃくるレイフに、ヴィオラは適当に彼の頭を撫でて慰める。子供は一度泣くと、なかなか泣き止まないものだ。

 ちなみに記憶力のいい彼女が今日の日を忘れていたのは、去年すでにその記憶の優先順位をかなり下げていた所為だ。不必要な記憶とでも言うべきか、レイフは一回イベントを楽しめば気が済むかと思っていたのだ。

 しかしこの泣き虫な子犬には大事なイベントらしく、毎年泣かれては困るので今年からは優先順位を上げておくことにした。


「えーと、チョコね。作るのね。分かった分かった」

「うう、絶対ヴィオラちゃんはまた忘れてると思って、材料はこちらでご用意しておきました……」

「全然諦める気ないじゃない……」

 一転うきうきとした足取りのレイフに、ヴィオラは手を引かれて厨房に向かう。

 ずらりと並んだ製菓材料に、レシピは去年研究したので記憶の中にある。ヴィオラは、にこにこと嬉しそうに笑って「待て」をしている恋人を見遣って、強気に微笑んでみせた。

「任せて、ダーリン」

「ヴィオラちゃん、カッコいい!」

 ぽっ、と頬を赤く染めたレイフは、乙女のように頬を両手で覆った。


 そうして出来上がったのは、綺麗な正方形の生チョコだった。

「ふわぁ……綺麗だねぇ……食べるのが勿体ないね! 保存魔法掛けようかな……この時を永遠にしたい……!」

「またいつでも作ってあげるから、馬鹿言ってないで食べなさい」

 お願いしないと作ってくれないのに、ヴィオラはこういったふとした時にすごく優しい言葉をくれる。レイフは感動しながら、チョコをひとつ手に取って食べた。

「ん-! 美味しい! 甘い! チョコだー!!」

「そりゃあ、チョコだからねぇ……」

 ふふ、とヴィオラは笑って、自分は紅茶のカップを傾ける。

「んん? でも何かチョコだけじゃなくって……柑橘っぽい……あと大人っぽい味がする!」

 かつては死なないから、という理由で毒入りの食事も平然と食べていた食に興味のないレイフだが、ここ最近はヴィオラの食育の甲斐もあって随分と舌が肥えてきた。そうなるとヴィオラの方でも色々と工夫してやりたくなるのが、愛情というものだ。

「よく気付いたわね。ほら、時々ホットミルクに入れてる、オレンジのリキュール。あれを少し入れたのよ」

「僕の好きなやつ!!」

「そうね」

 毒は平気なのにアルコールには弱いレイフ、だが甘いホットミルクにほんの少しリキュールを入れて飲むのだけは好きだ。チョコレートとオレンジは相性がいいし、香りづけにもいいだろう、とアレンジしてみたのだが、どうやらお気に召したようだ。


「……僕の恋人はこんなにも美しくて優しくて、その上料理上手で、僕は幸せ者だなぁ……本当にヴィオラちゃんは最高だね!」

「フッ、当然よ」

 蕩けるような瞳でこちらを見つめてくるレイフに、ヴィオラは優しく微笑み返す。

 甘い香りの午後。



 ちなみにヴィオラの記憶の中で最も優先順位が高いのは、王城に出入りしている商人の、宝石リストである。


もし来年も書くことになっても、オチは同じだと思います(笑)

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