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小話3

 

 揚げ物には気合と根性がいると思う。



 夏の昼下がり。

 ヴィオラは長い髪を高く雑に結い上げ、匂いがついても構わない質素な服装でキッチンに立っていた。


 下味をつけて寝かせておいた肉に粉をまぶして、大量の油で揚げていく。一度目はやや低温でじっくり、二度目は高温でカラッと。

 肉を揚げ終わったら、適当にザク切りにしておいた野菜も素揚げしていく。こちらはまだ熱いうちにサッと塩。

 何事も揚げたてが一番美味いと思うので、ヴィオラは発泡したワインの入ったゴブレット片手に摘まみ食いをしつつどんどん揚げていく。

 それから、キッチンの隅に最近用意した小さなテーブルと椅子。

 何の加工もされていない、ただ木材を組み合わせただけの丸テーブルと二脚の丸椅子。その一方にレイフが長身を折り畳むように座っていた。

 テーブルに揚げたて熱々の料理の皿を置くと、待ちきれない様子のレイフのこめかみに宥めるようなキスをひとつ。

「召し上がれ。あ、これはこのタレが美味しい」

「ありがとう、ヴィオラちゃん! いただきます!」

 レイフは座ったまま伸びあがって彼女の顎にお返しのキスをして、歓声を上げた。

「んー!! 甘辛い~! 美味しい!! 何これ最高! あとエールは魔法で冷やしておいてよかった、僕天才!」

「ちょっと。揚げ物してる私の方がエライでしょう」

「ヴィオラちゃんは僕の天使だよ!」

 私も天才とかがよかった、と思いつつ、ヴィオラはレイフの手からエールのコップを奪って中身を飲み干す。酒に弱いへなちょこには、そろそろ果実水でも飲ませておくのが妥当だ。

「あああ、ヴィオラちゃん、揚げた芋にチーズ掛けるの悪魔と契約するぐらい甘美だね……!」

「あんたが言うと洒落にならないのよねぇ……そういえば、悪魔ってほんとにいるの?」

「いるよー」

 サラッと言ったレイフは、揚げた肉と瑞々しい野菜をパンで挟んでもぐもぐと食べ始める。一口が大きく、欲張って乗せすぎた具がパンから零れそうだ。

 用意していた具材を揚げ終わったので、火を消すとヴィオラはキッチンの端に設えた小さなテーブルセットの、背もたれのない丸椅子にストンと座る。

「揚げ物お疲れ様、ヴィオラちゃん。ありがとう!」

「うん。スープも飲みなさいね」

 小さなテーブルにところ狭しと並ぶ料理を指してヴィオラが言うと、レイフはへらへらと笑う。

「うん! これ、前に僕が美味しいって言ってたやつだよね、ヴィオラちゃんの愛を感じる……!」

「……作るのが簡単なだけよ」

 元々焼くか煮るかの野営料理ぐらいしか作れないし、ヴィオラだって別にしっかりとした献立を考えて作っているわけではないのだ。

 けれど、城より運ばれてきた料理を今まで一人で食べていたし、中には堂々と毒が入っていたこともあった、とレイフに言われてはそこそこマシなものを食べさせてやりたいと思うのが人情というものだろう。

 レイフ本人は毒を食べたところで死なないので気にしていなかった、などとのたまうのだから、ヴィオラが柄にもなく食育について図書館で本を読んでしまったことは彼には内緒だ。

 温かく安全な食事、というものを大して労なく提供出来るのであれば、与えてあげたい。

「揚げたて美味しーい!」

 酒に弱く、子供舌のレイフは揚げた肉に甘辛いタレを絡めたものがお気に入りのようだ。読み通りの肉の減り具合に、ヴィオラは内心で深い満足を得る。

 苦みのある野菜を素揚げしたもの齧って、彼女はたちまち幸福な気持ちになった。これにキリリと冷えたエールの組み合わせは神の采配だと思う。この暑い時期に、レイフ謹製の冷房があっても揚げ物は苦行だったが、苦労した甲斐があったというものだ。

「うん、我ながら美味しい」

「ねー!でもこの野菜はちょっと苦いよね、なんでこれも揚げたの」

「この苦みがいいんじゃない」

 ぺろりと唇に残る油を舌で拭って、ヴィオラは次は肉を揚げたものを食べる。こちらも美味い。タレはない方が彼女の好みだ。

「僕のオススメは、芋とチーズです」

「素朴なものが好きねぇ……」

 あんなにたくさんの肉と野菜を揚げたのに、皿の上の料理はどんどん無くなっていく。


 ゴブレットは水を滴らせていて、窓から入る高い角度の陽射しにつるりとその表面を輝かせていた。

 レイフの住む監視の塔は立派に設えられたダイニングルームもあるのに、こうして二人でキッチンの隅で小さなテーブルを囲む方が食事が美味しく感じるのは、何故なのだろう。

 ふう、とヴィオラは揚げ物をしていた熱さに、胸元のボタンを一つ外す。ぱたぱたと手で仰いでいると、頬杖をついて彼女のことをニコニコとレイフが眺めていた。

「何、金取るわよ」

「言い値を払います!! ……ありがとう、ヴィオラちゃん。僕、幸せだなぁ、こんなに綺麗で優しい人が恋人なんだもの」


 子供のようにニコニコと笑うレイフに、ヴィオラはわざと鼻で笑ってみせる。

「汗だくだし、化粧もしてないし、雑に髪を纏めてる、雑な料理しか出さない、守銭奴なのに?」

 彼女がそう言うと、レイフはますます笑みを深めた。それ以上笑ったら蜂蜜みたいにとろけてしまうのではないだろうかと思う程に。


「勿論。どんな格好をしてても、僕のヴィオラちゃんは今日も最高だよ」




 揚げ物には気合と根性と、そして愛がいると思う!




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