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 数日後。

 新たにモニカに届いた脅迫状を見て、レイフは顔を顰める。

 最初の一通と同様に魔術で痕跡を辿っても、全く何も出て来ないのだ。最初の一通は数名を介していたり、時間が経っている所為で仕方がない、と考えていたが今彼の目の前にあるものは、今日届いてすぐにヴィオラが塔まで持って来てくれたものだ。


 レイフは他のことはまだしも魔術にだけは絶対の自信があるし、そんな彼の魔術師としての目を潜り抜けられる実力のある魔術師がこの件に絡んでいるとしたら、それは大変なことだ。

 モニカは隣国の貴族令嬢ではあるが、この国に留学して来ただけのまだ未成年の少女だ。

 そんな彼女が脅迫される理由が彼女自身にあるとは思えないし、実際脅迫状には彼女の故国とこの国が友好国であることを厭う者からの、即刻帰国しろ、という随分と利己的な脅迫文句が書かれているのだ。

 頻繁に脅迫状が届くことと最初に野盗を差し向けて来たことを鑑みて、警護に騎士を配しレイフ達が調査しているが、そのおかげなのか今のところ王城に来てからモニカは危機に見舞われてはいなかった。

 それが警備のおかげなのか、犯人に本当はモニカを直接傷つけるつもりがないのかはまだ判断がつかない為、引き続き警護と調査は続けられている。

「……やっぱり出ない。どうしてこの手紙を置いた人の痕跡すら見えないんだ?」

 レイフは唇を尖らせた。

 物証は増えている筈なのに、犯人の手掛かり一つ得られないことに珍しく苛立っていた。



 そして現在ヴィオラは、監視の塔の前庭にいた。

 仕事を終えて塔に戻って来たのではなく、モニカに同行して来てのこの位置である。

 今日のモニカは懲りずに塔にやって来ていて、中に入れないと断られると塔の前庭でピクニックをしよう、と言い出したのだ。

 それもそもそも塔から出たがらないレイフが突っぱねると、モニカは愛らしく怒って一人でピクニック用に持ってきたバスケットを庭で広げている。

 それを少し離れたところからヴィオラと護衛騎士の二人で見守っている状態なのだ。


 そしてモニカの護衛をしていたのは、近衛騎士でありヴィオラの情報源の一人でもあるマーク・ハンセンだった。

 本来王族を警護することが役目の彼が、他国の令嬢に付いているということは、モニカのことを我が国が賓客として迎えているというアピールでもあるのだろう。

 ただ、理由としてはレイフとヴィオラの存在を役目を知っているからこそ、マークが警護に抜擢された、というのが一番の理由だと考えられる。

 レイフは監視の塔の魔術師として顔などは知られていないものの、存在は城内でも有名だ。だが、彼の部下として実際に稼働しているヴィオラの顔や素性を知っている者は少ない。

 今回、その千里眼の魔術師に調査を依頼したいというモニカの願いを国王が渋々受け入れはしたものの、あまり情報を他者に与えたくない王が苦渋の措置としてマークを選抜したのだ。

「あの時、モニカ嬢が淹れたハーブティーに毒が入っていたのよね」

 ヴィオラは、レイフとの通信を切った状態でマークに言う。

 勝手にレイフの方から覗き見ることや盗み聞くことは可能なのだが、ヴィオラが通信を切っている場合は「聞いて欲しくない」という気持ちの表れなのでレイフは紳士的に見ない聞かないと貫いてくれているのだ。

「……そのこと、魔術師殿には?」

「まだ言ってない。調査結果としては言うべきなんだけど……」

 マークが聞くと、ヴィオラはそこで眉を顰めた。

 仕事ならば、必ずレイフに報告すべき内容だ。

 しかし、モニカの件に入る直前の出来事がヴィオラに報告を躊躇させていた。レイフは自分のことを祝福される価値のないバケモノだと断じている。

 例えば、モニカを狙った犯行ではなく千里眼の魔術師であるレイフを狙ったものだったとしたらどうなるだろう?

 せっかく食事に積極的になってきて、塔の中でならば自由に動ける様になって来たのにまだ研究室に引き籠り食事も滅多に取らないような日々に戻ってしまうのではないか? とヴィオラは心配だったのだ。


 好青年然とした見た目のマークは、うーん、と腕を組んで悩んで見せた。

「でもさ、それだとモニカ嬢を利用して魔術師殿を害そうとしてる……てことになるのかな」

「他国の令嬢を利用して……?その場合、犯人はホーランドに関係しているのかしら」

 ヴィオラは情報を集めることは出来るが、それを組み立てて犯人を推理するまでは荷が重い。今まではレイフと共に相談しながら解決したのだから。

「もしくは、モニカ嬢自身が犯人、て可能性も考えるべきだろうね」

「! ……でもホーランドから同行したメイド達は殺されているのよ?」

 ヴィオラとて、一瞬そのことを考えなかったわけではない。

 そもそもモニカが持参した茶葉に毒が入っていたのだから。しかし、同郷で同行してきてくれたメイドや護衛が亡くなっているのだ。

 まだ成人にも至っていない少女が、レイフを一人害する為にそこまで冷酷になれるものだろうか?


「甘いね、ヴィオラ。千里眼の魔術師殿にはそれだけの犠牲を払う価値があるんだよ」

 マークの言葉は、レイフを悲しませるだけだろう。


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