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8話を、昨日の内に600字ほど加筆しています。

話が繋がらないな?と感じたら、お手数ですが8話のラストをご確認ください。よろしくお願いします。

一週間ほどでこの注意文は削除します。

 


「そんなことより、何故偽聖女が王族の晩餐会に出席しているんだ?恥を知れ」

 吐き捨てるように言って、クリストファーがアリスを睨みつける。

 エドワードの方に意識をやっていた周囲の者は驚いて、王太子を見遣った。偽聖女とは明らかに失礼な物言いだし、アリスが現在聖女の座に就いていないとしても、この晩餐会に席を用意されている以上、それは王が認めたということだ、王子に口出しをする権利はない。


 ヴィオラは周囲の者の反応を見つつ、クリストファーとミーシャの様子を窺った。クリストファーの方は肌は色艶がなく不健康そうだ。あの婚約破棄騒動からまだ一ケ月も経っていないが、その間に随分と風貌が変わったように感じる。


 ヴィオラは形のよい眉を顰めた。


 仕事柄、人の変化には敏い方だし、王太子と義妹のことは特に気にして観察していた筈だ。だというのに、今改めて彼の変化に気付くだなんて、おかしい。


 ドレスの隠しから素早く水晶を取り出すと、ヴィオラは小声で相棒の名を呼んだ。

「レイフ」

『んもー!!遅いよヴィオラちゃん!』

 途端、煩い。

『隣の大臣、若い愛人たくさん囲ってるスケベ親父だから気をつけてね!あんまり前かがみになってもダメ!向かいの席の公爵令息がガン見してるから!!』

 切ろう。


『待って!切らないでぇ!!』

 ヴィオラの内心を察したレイフが、彼女の脳内でぎゃんぎゃんと喚く。

「……御託はいいから。アレは何?」

 端的に訊ねると、レイフはまた喋り始めた。

『王太子は明らかに憑かれてるね。今までは彼の傍に聖女がいたから、良くないものは寄せ付けなかったんだけど、今はノーガードだもんね。権力が集中しているところには良くないものも集まるからなぁ……』

 憑かれている?

 人の醜悪な感情や、恨み、妬みなどがクリストファーの身に纏わりついているのだという。今まで気付かれなかったのは、隠されていたからだ。


 誰に?


「どうすんのよ、そんなの」

『うーん。聖女がいなくても思念ってあやふやなものだから、普通あんな風に一人に集中して取り憑いたりしない筈なんだよね。あれはもう誰かが明らかにわざと下半身クソ野郎に憑かせてるとしか』


「兄上!アリスに失礼でしょう、謝罪してください!」

 そこでエドワードがクリストファーに向かって怒鳴った。

 彼は先の一件から、しっかり声を上げるようになり、見違えて頼もしくなっている。対して、新しい婚約者と部屋に籠ってばかりのクリストファーの評判は下がる一方だ。


「黙れ、エドワード!俺のお下がりで満足しているお前なんかに、俺に意見する資格はない!」

 クリストファーの言い方に、幾人かの貴婦人達は顔を顰めた。

 さすがに王の前での口汚い罵りに、王太子の生母である側妃も息子を諫めようと口を開く。

「クリストファー、おやめなさい。皆の前ですよ」

「母上。ですが、この出来損ないの弟は王太子の俺に口答えしたんですよ、どちらが上か思い知らせてやるのも、兄の務めでしょう!」

 どんどん自分を窮地に追い込んでいくクリストファー。

 周囲は今や、声こそ上げないものの皆軽蔑するように王太子を見遣っていた。

 その目は、失望に彩られている。


「何あれ、第二王子が何かする前にそもそも自滅しそう。楽、ってことでいいの?」

 ヴィオラは片眉を吊り上げて、水晶に訊ねる。そちらからは、答えにくそうな雰囲気だけが伝わってきた。


「兄上聞いてください!アリスは、れっきとした聖女で……!」

「うるさい!うるさい!!」

 なおも言い募ろうとしたエドワードに、クリストファーが殴りかかる。

 席順は、多くの者と交流出来るように、と王族ばかりが固まって座っていたわけではなかった為、二人の王子の間にはそこそこ距離があった。

 出席者達は皆ぎょっとしたが、そこは当然控えていた騎士達に止められる。相手が王太子である為、取り押さえる、ということも出来ず騎士達も止め続けることに苦労している様子だ。


「……気絶させたらダメなの?」

『馬鹿でも下半身直結でも憑かれてても王太子だからねぇ』

 ヴィオラの独り言に対して、レイフが返した言葉は否定だったが、口調や伝わる雰囲気は、彼女と同意見であることがよくわかった。


『まぁ、でも王太子が暴れた所為で、彼の義妹聖女説が怪しいことはここの皆に伝わっただろうし、ある意味役に立ったといえるよ!やー褒めてつかわす!』

 手間が省けて、レイフはご機嫌だ。

 確かに今だに調査中、となっている聖女が誰なのか、ということや、それに纏わるアリスが聖女だと嘘をついていた、という疑惑は、何も事態は動いていないにも関わらず、この場にいる者の考えは変わったことだろう。

 王太子の自滅のおかげで。


「あんたって王太子のこと嫌いよね……」

『まーだってこの一連の出来事ってあの脳味噌海綿体の所為でそもそも始まっちゃったわけだし、僕の研究の時間を削った恨みは深いんだよ!』

 個人的な恨みらしい。


 もっと大きな視野を持て、千里眼!とヴィオラは思うが、彼女とて王太子の恋とやらに振り回された身なので気持ちは分かる。

 ヴィオラは目立たないように端に寄ろうとしたが、突然滅茶苦茶に暴れ出したクリストファーが、騎士を振り切ってエドワードに掴みかかろうとした。


「往生際の悪い……!」


 ヴィオラは水晶をドレスの隠しに放り込み、エドワードの前に立つ。

「邪魔するなっ!!」

 唾を飛ばして叫ぶクリストファーは、獣のようだ。

 慌てず騒がず、ヴィオラは姿勢を低くして、先手で殴りかかってきた彼の腕を掴み、器用にその足を引っかけて一本背負いの要領で投げ飛ばした。


「大丈夫か!?」

 マークが駆け寄ってきたので、ヴィオラは床に投げられて気絶した王太子を彼に任せた。やっぱり気絶させた方が楽だったな、と彼女は内心考える。


『わーお!ヴィオラちゃんカッコイイ!さすが!殺戮天使!!』

 レイフはヴィオラの活躍に手を叩いて喜ぶが、通信は切れてしまっているので彼の声は届かない。

 それをいいことに言いたい放題である。


 エドワードに声を掛けられて、ヴィオラは困ったように眉を寄せた。

「ありがとう、助かった。あなたは怪我はないか?」

「武道の心得があるもので、ついエドワード様をお守りしようと手を出してしまいました。王太子殿下には申し訳ないことを……」

 殊勝な態度を装うと、第二王子は目を丸くする。

「まさか、この状態で不敬だの言う者は誰もいない。あなたのおかげで私も婚約者のアリスも助かった。ありがとう」

 素直に礼を言われて、さっさとオトした方がいい!と主張していたヴィオラは、ない筈の罪悪感がちょっぴり痛んだ。


『あ!こら弟王子!どさくさに紛れてヴィオラちゃんの肩に手を置くな!このムッツリ!!』


 運ばれていくクリストファーを見ながら、エドワードとアリスは、まだヴィオラに感謝の言葉を述べる。

「後ほどきちんと礼をしよう」

「まぁ。それはいいアイデアですわ、殿下」

 エドワードは、ヴィオラがあの婚約破棄の場でアドバイスをした侍女だとは気付いていないようだが、所詮顔を変えられるわけではなく、ただの認識阻害だ。長く接していれば、だんだんその効果も薄れる。

「あなたの名前を聞いてもいいだろうか?」

 ピンチだった。




「ヴィオラちゃん、もう振り切って帰ってきてもいいよー!弟王子!コラ!ヴィオラちゃんから手を放せ!もー!……ん?」

 ふと、レイフの目に、水盆に映る光景ではなく、未来のヴィジョンが見える。

 バチンッ!バチンッ!とまるでコマ送りのように鮮烈に脳裏に描き出される光景を見て、レイフは声にならない悲鳴を上げた。





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