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新連載です、よろしくお願いします!

 



「よくノコノコと顔が出せたものだな、この偽りの聖女めが!」


「何を突然仰いますの、クリストファー殿下……」

 生まれて初めて浴びせられた罵声にアリスは真っ青になって怯え、なんとか言葉を絞り出す。


 アリスは、銀の長い髪に一見冷たく見えるような青い瞳の美しい少女だ。

 今夜のパーティで婚約者であるクリストファー王太子殿下がエスコートに現れなかったことには悲しくなったが、彼とは元々国が決めた政略結婚の相手。

 そう言い聞かせて一人で壁の花としてひっそりと咲いていたところに、奥の側から会場入りした当のクリストファーを見つけてアリスはとても驚いた。

 何せ、彼の腕には異母妹のミーシャがくっついていたからだ。


「お姉様……ごめんなさい、誰にも言うなって脅されていたけど……わたくし、辛くって……」

 ミーシャは目を伏せて泣き真似をする。

 涙が零れていないことはアリスの見ている角度からはバレバレだったが、クリストファーには見えない。

 正義感の強い王太子は、ミーシャの貴族令嬢にはない魅惑的な体を庇うようにして抱きしめた。その際、さりげなさを装って形のいい尻を撫でる。


 ミーシャは、入り婿の父がアリスの母が病気で亡くなった後に連れて来た後妻の娘だ。

 後に聞かされてショックだったが、父は母が存命の頃から外に愛人を囲っていて、今回後妻に入ったのはその彼女。そしてミーシャは半分は血の繋がった妹なのだという。




『はぁ!? なんで義妹が王太子にぶら下がってんだよ、ド平民だろ、衛兵仕事しろ! なんの為に僕が聖女と王太子の婚約を結ばせたと思ってんだよ~!!』




 アリスがクリストファーとミーシャの抱擁を見てますます顔色を失くすのを、彼は良い気味だ、とニヤリと笑いながら見遣った。

 クリストファーは金髪に青い瞳の見てくれだけならば完璧な美丈夫であり、昔から令嬢達のお誘いがひっきりなしにあった。その為、自分は美男で誰もが恋をするという自信がある。

 だというのに、アリスとの婚約は王命であり、拒否出来るものではなかった、手を出せない聖女の婚約者なんて邪魔なだけだ、と以前からずっと不満に思っていたのだ。

「聞けば、アリス。お前はミーシャが平民育ちなことを馬鹿にして、ことあるごとに妹を虐めていたらしいな!」

 クリストファーの声が、広間に響く。ざわっ、と周囲が騒がしくなり、ミーシャがこれみよがしに豊満な胸を彼に押し付けて抱き着いた。




『あ、ダメだこれ。絶対デキてる。ヤっちゃってる。え~? 王太子馬鹿なの? 馬鹿だっけ? この僕が気付けない程上手く馬鹿なの隠してたの?? 義妹の方は絶対王太子がハジメテじゃないと思うけどなぁ……』




「聞いてください殿下! わたくしは、誓って、ミーシャを虐めてなどいません!」

「黙れ! 国民を偽り、聖女の名を騙っていた悪人の言葉などに俺は耳を貸さぬ!!」

 クリストファーは今や絶好調だった。

 聖女の身は清らかでなければならない、という迷信を信じ込んでいるアリス。婚前性交渉がさほど忌避されないこの国において、国から決められた婚約者に手を出せなかったことは、彼にはとても苦痛だった。

 勿論、その道のプロを呼ぶ手もあったが、そのことが明るみに出てしまえば清廉潔白な王太子のイメージに傷がつく。

 それならば、婚約者の方を変えてしまえばいいのだ。と思いついた。


 お誂え向きに、アリスと共に彼女の実家を訪ねた際に出会った、妹のミーシャがあからさまにクリストファーを誘惑してきたのだ。

 どうせ聖女などという形骸化した存在は、血筋さえ当てはまっていればどの令嬢でも構わないのだろう。ならば、アリスではなく妹のミーシャでもいい筈だ。

 何より、ミーシャはとても積極的で、クリストファーに甘えてくるところが可愛い。




『ハニトラレベル1ってカンジ。初歩の初歩だよ! まんまとだよ!! あと聖女は確かに形骸化してるけど、残ってるってことには意味があるって思わないかなぁ!? その辺の信仰心の薄い素人じゃなく、王太子でしょ君! 聖女の重要性って習わない!?』




 聖女は、神託によって選ばれる神代だ。

 平時には祈りを捧げ、有事の際にその奇跡を行う、と言われている。

 その性質のゆえに有事が起こらないまま、他の教会の信徒達と同じ様に祈りを捧げ続けてその役目を終えた聖女は過去に何人もいる。

 結果現代において、聖女の奇跡、を見た生き証人はいない。




『でも神託は本物だし、いることに意味があんの! 誰でもいいわけないでしょ!もぉぉぉー!!』




 クリストファーの側近達が、次々にアリスのしてきたとされる罪を高らかに暴露し、その内容の稚拙さと卑怯さに周囲は困惑した。


 側近Aの告発。

「ミーシャ嬢のドレスをズタズタに引き裂いたそうだな!」

「殿方はご存知ないかもしれませんが、ドレスは幾重にも布が使われていて、素人の女がズタズタにしようとして簡単に出来るものではありませんわ」

 側近Bによる告発。

「屁理屈を……! では、ミーシャ嬢に届いた夜会の招待状を破り捨てた件はどう言い訳するおつもりですか!」

「わたくしは現在教会附属の聖女用の離れで生活しています、実家に届いた招待状をどうやって破り捨てられましょう?」



『すごい、絵に描いたような杜撰さ! これでイケると思った王太子側も馬鹿だけど、これでこいつら篭絡した義妹は何なの? 一周廻って頭イイの? ヤリ手ってかー? おっと、僕としたことが下品下品』




 その後も側近C・Dが糾弾を続けたが、アリスは言い返していく。

 しかし王太子側はちっともその反論を聞き入れず、言い返してくる可愛げのない女だ! と彼女を断じた。




『いや、自分に罪をなすりつけられようとしてるのに、言い返さなくて可愛げのある女気取るわけないじゃん……てかなんで衛兵なりなんなり、大人が介入しないの? 僕ちゃんと最寄りの衛兵待機所に通報したのに……』




『彼』がうんざりしだした頃、側近を制してクリストファーが前に進み出た。

 嫌な予感しかしない。

 すぅ、と大きな声を出す為に、王太子殿下は息を吸った。


「アリス・ウォーレン! お前との婚約を破棄する!!」





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