表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

 最初に見えたのは空であった。青く透き通り、輝く太陽を抱きながら、白い雲が流れている空。疑う事無く、だが余りに想像通りである為、嫌が応でも疑いたくなる空だ。

 そうして、その空の中を、一本の線が貫いている。

 線は、塔であった。巨大な、余りに巨大な塔。空へ至る様に、空を貫く様に、その空を超え、空の向こう、未だ見知らぬ、しかし妙に覚えの無くも無い地へと誘う様に、一切の歪みも傾きも無く、真っ直ぐに伸びている。彼方此方から覗ける隙間からは、二つの金属が絡み合い、噛み付き合う音が毀れると共に、細長い蒸気が時折立ち登っている。

 そこにどの様な意味が込められているのか、マリアにはさっぱり見当が付かなかった。成る程、凄い建物だとは思うけれど、一体何に使うのやら、何を目的としているのやら。記念碑の類とも考えたが、その割には装飾に乏しい。にも関わらず、何らかの趣向が感じられるのだから、腹立たしい所だ。古い、古い趣向だ。彼女には思いも付かない様な。

 しかしマリアが思いも付かなかったのは、彼女の所為ばかりでは無く、どちらかと言えば、現在彼女が迎えている環境によるものの所が大きい。何せ宙ぶらりんなのだ。脚が付いて居らず、今まで感じた事の無い感覚が全身を貫いている。名も知らぬ建造物など、二の次だ。問題は彼女自身の事で、他の事柄にまで心煩っている余裕など無いのである。

 マリアは足掻いた。足掻き、足掻き、足掻いて回った。この何とも言い難き浮遊感の中にあって、定まらぬ自分という存在が嫌で堪らなかったのだ。天と地を繋ぐ塔を目の前に、己がどうしようも無い程に、ちっぽけで、嫌な人間に思えてならなかったのである。

 地。

 自身が発した言葉に考えた及んだ時、マリアは、はっとして視線を落とした。

 そこには彼女が脚を付けるべき大地があった。確かな、揺ぎ無い大地が

 そうして大地には街が広がっている。直ぐ先にまで居た、生地では無いけれど、だが慣れ親しんで居なくも無い街にも似た家々の群れが、その間を直走る通りが、周囲を囲う円形の城壁が、何よりも行き交う人々の姿が、そこには見出された。中にはどうも薄気味悪い、何処かで見た様な黒衣の者達がたむろしているが、それでも人々は人々だ。

 マリアは何だか嬉しくなった。

 こんな半端な所で無い、自分の居るべき場所が眼下にあったのだから。

 彼女は歓声と共に体を下へ向けると、両の手を広げた。そこに行かねばならないと思い、そう願った。塔を通じて天に居わす誰かにでも祈りが通じたのか、大地は明らかに近付いて行く。街の中へ、人々の元へと向けて、まっしぐらに。

 やがて、という程の間も無く、マリアの願いは叶えられた。

 彼女は彼女の望む大地へと到達した。

 浮遊感は消えて無くなり、地に脚は付けられた。

 そしてマリアは証として、拭い切れぬ赤い印をしかと残したのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ