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 その変化に気付いたのは、皆が同時にであった。

 己の愛欲に任せて隣に住む男に抱かれている人妻であれ、自身の想像を裏付けるが為に無駄な繰り返しを繰り返す作家であれ、他の何者であれ、関係無しに、一秒の狂いも無く。

 そしてその瞬間、誰も彼もが狂った様に叫び声を上げた。 

 彼等の脳裏に突如として振って沸いて来た膨大なるイメージによって。

 いや事実狂ったと言っていいかもしれない。それが想起され始めた途端、正常な思考が出来ていた者は殆ど居らず、皆が平等に、公正に雄叫びを放っていたのだから。

 彼等の頭の中を埋め尽くし、他の活動を封じたそれは、未来の光景だった。

 しかし予報では無い。あんな矮小な欠片の如き光景では断じて無い。

 その膨大さは、最早未来そのものと言って良かった。

 自分と、そしてそれ以外の他人。

 彼等に対して決定的に待ち受けている一切合財。

 そんなものが、何の遠慮会釈も無く、凡そ万人に圧し掛かって来たのである。

 人々は今日に起こる出来事を知った。明日に起こる出来事を知った。明後日に起こる出来事を知った。一週間後に起こる出来事を知った。一ヵ月後に起こる出来事を知った。一年後に起こる出来事を知った。十年後に起こる出来事を知った。百年後に起こる出来事を知った。千年後に起こる出来事を知った。一万年後に起こる出来事を知った。一億年後に起こる出来事を知った。一兆年後に起こる出来事を知った。

 その間に何がどう変わり、どう変わらないのかを知った。

 何が起き、何が起きないのかを知った。

 誰が生まれ出で、誰が死んで行くのかを知った。

 最終的にこの宇宙が、第四十二次元に住むアキアンアジィ=オメドゥオド人の夏風邪を拗らせた少年が放つクシャミの影響によって、瞬きする暇も無く消滅する事を知った。

 その四と二秒後、同じく第四二次元に住むイアニエクナケティ=ナネアマン人の太り気味の男が盛大に放った放屁によって、瞬きする暇も無く宇宙が誕生する事を知った。

 そして再び動き出した宇宙が、先の宇宙と寸分違わぬ歴史を巡る事を知った。

 だから人々は、過去に一体何が起きたのかも知った。

 新しい宇宙でもちゃんと自分は居て、また全て既知となる瞬間が来る事を知った。

 その繰り返しがもう既に数え切れぬ程行われている事を知った。

 その繰り返しがこれからもまた行われ続ける事を知った。

 一瞬の内に人々は、未だ来てもいない全てについて知った。知ってしまったのである。

 覚悟も何も無いその突然の到来に人々は驚愕し、都市の彼方此方から絶叫が木霊する。街辻は悶絶して倒れ伏す者達で溢れ、あらゆる乗物が横倒しになった。その様子はさながら世界の終わりであり、誰しもが心の平穏など在りはしないという様子でのた打ち回った。

 しかし、その混乱も直ぐに止んだ。やはり始まった時の様な行き成りさで。

 一頻り叫び、多少の余裕が出た途端、皆気付いてしまったのである。

 そうだ、これはもうとっくに知っている事だぞ、と。

 そしてまた、こんな事で世界が終わらぬ事も知っていた。

 もとい、全てを知った身にとって、この程度繰り返しの中のほんの些末な出来事だった。

 そう思うと、人々ははたと叫ぶのを止めた。

 下らない事で動揺し、錯乱してしまった自分が恥ずかしくなったのだ。

 そこで彼等は笑い始めた。大袈裟な調子で、周囲の者達と見詰めながら。

 また暫くの間、街中に叫び声とは違う、笑い声が響き渡った。

 けれど、それも時経ずして止んでしまった。

 彼等はもう既に全てを知っていた為、自分達がそうする事も既に知っていたのだ。

 途端に人々は、むっつりとその唇を閉ざしてしまった。

 些末な事でげらげらと笑っている自分が、とんでも無く馬鹿に思えて来たのだ。

 だが彼等は、既にそう思えて来るという事も知っていた。

 ならばどうすればいいのかと考え、そう考える事も既に知っていた。

 人々は、未知と言う言葉が自分達より消えている事に気付いた、いや気が付いていた。

 同時に、これが未来予報の完成された形である事に気付く事へと気付いており、また未知なるものが消えてしまった今、あらゆる感情もまた乏しくなる事を既に知っていた。

 慶びも哀しみも既に知っているならば、どうして心震える事が出来よう。

 こうして彼等は、自分達の世界が一変してしまった事を知ったという事も既に知っており、どう生きて行けばいいのかと思い悩む事も既に知っており、ならば自分達が知っている通り生きて行くとしようと結論付ける事も既に知っていた。

 それで万事は問題無く進む事も既に知っていた彼等は、何の疑いも無く、また感動も無く、当然ながら望みも無く、既に知っている通りに歩き始める。その状態を何処かの誰かは死だと呼んだが、しかしそう呼ぶ事を既に知っていた為に誰も気にする事無く、やはり既に知っている自身の本当の死へ向け、彼等は生きて行く事となったのである。

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