狂人
そこは、真っ暗だった。
暗くて、湿気があり、空気がどんよりとした、気持ち悪い感じ。
少しずつであるが、意識が戻ってきた。
「うう・・・、ここは・・・?」
気づいたら、私は牢獄の中にいた。
「どこ、ここ・・・?・・・私は確か、ルパートさんと・・・。」
(そうだ。確か、待ち合わせしていて、ルパートさんは来たんだけど・・・。)
「・・・何でだろう?その後の記憶がない・・・。あ!、じゃあ、ルパートさんは?」
牢獄の中には自分以外は誰もいない。
隣にも正面にも、牢獄はあるが、そこにも誰もいない。
「とにかく、脱出しないと!」
魔法を使おうとした。だが、
「使えない・・・。」
「ようやくお目覚めですか、お嬢さん。」
誰かが来た。男の声だ。
「あなた・・・、誰?」
警戒する。
男は、黒いスーツ姿で、眼鏡をしていた。右目に傷がある。
「初めまして、ミス・アリア。私は、あなたを殺しに来たものです。」
(は!?・・・いきなり、何、この人!?)
「あー、そう驚かなくてもよろしい。後少ししたら、あなたは、この世にはいないのだから。」
「は、話しにならないです!!何で、知りもしない狂人に殺される事になるんですか!?」
「いや、いや。話し初めて、私を狂人呼ばわりとは・・・。こう見えても、私、ジェントルマンなのですがね。」
狂人は、頭を下げて、やれやれとガッカリする。
すると、狂人は魔法で、木の細長い針を作った。
そして、いきなり針を檻の隙間から飛ばしてきた。
「ぐ・・・!!」
早かった。
急いで避けたが、腕がかすってしまった。
傷から、血が流れる。
「あー、申し訳ない。つい、つい癖でね。不愉快になると攻撃したくなるんですよ。」
「あなた・・・、暗殺者ですね?手際がよすぎる。いったい、誰の差し金で・・・」
「はい!せいかーい!・・・ただ、誰にも雇われてなどいませんよ。」
「なら、いったい何が目的で・・・」
「だから、言ったでしょ。あ、な、た、を、」
「殺す!」
私は思わず、ひるんでしまった。
殺気が、桁違いであった。
「怖がらせてしまいましたね。なに、大丈夫です。優しく、楽しく、素晴らしく殺してあげます。」
「狂ってる・・・!」
思わず声に出る。
「あ・・・?」
その瞬間、無数に木の針が飛んできた。
すぐに反応して、避けたが1つが肩に刺さった。
「ぐああ・・・!!」
辛うじて、傷口は浅かったので、すぐに抜くことができたが、痛い。
「貴様・・・!」
怒りに駆られた。
傷を受けたのは、久しぶりであった。
「まぁ、後少ししたら、また来ます。その時があなたの最後です。いずれ、次元放浪者も来るでしょうし。」
狂人は立ち去ろうとする。
「ちょっと、待って!!ルパートさんはどこ?あたしと一緒にいた男の人は??」
次元放浪者という言葉を聞き、我にかえり、急いで聞く。
「あー、それ私です。」
「え?」
振り向いた狂人は、ルパートさんの顔になっていた。
「へ、変身魔法・・・。」
驚いた。
まさか、そんな禁術魔法を使える人間がいたなんて。
「あなた、まんまと騙されてしまいましたね。まぁ、途中で幻覚魔法もかけさせてもらいましたけど。アハハ!」
狂人が不敵に笑い去っていく。
「く・・・。魔法も使えない、身動きができない、いずれ殺される。どうすれば・・・」
何もする事ができないこの状況でとにかく、必死に考えた。
・・・何時間、経っただろうか?
眠ってしまっていたようだ。
誰かが近づいてくる音が聞こえる。
「やっと、見つけた!!」
(!!)
「え? え!? ルパートさん!?」
檻の外に、ルパートが立っていた。
「助けに来た!」