遅刻から深刻
繫華街でナイフを貰ってから、4日が経った。
アリアに修行をつけてもらっているルパートだが、魔力は全く発揮できないでいた。
繫華街で短剣を貰ってから、4日が経った。
協会の訓練所で、修行は開始したものの、未だに自分の魔力を引き出せてない状態であった。
「疲れたーーーーー!」
地面に、べたーんと横たわる。
体は汗だくで、筋肉が悲鳴をあげている。
「お疲れ様です。今日も、魔力発揮ならずですね。」
「嫌なこと言わないでくださーい。」
魔力発揮のトレーニングを、アリアさんの指導でしているが、予想以上にハードであった。
これでも、格闘術は学んでいたが、歯が立たない。
「そもそも、魔力発揮に全身運動のトレーニングとか本当にいるんですか?」
「もちろん!グレン会長は、魔力発揮に必要な事は、1年分の運動量があって出る!!・・・‟かもしれない”です。」
「今、小声で‟かもしれない”って言ったね。」
「とにかく、その位しないと出ないという事です。」
まぁ、それはそうか。
本来なら魔力発揮が1年なのだから。
出ないで当然のことだ。
「今日の修行は、ここまでですか?」
日が暮れてきている。
「そうですね。今日はここまでにしましょう。」
4日目の修行が終わった。
今日も魔力発揮ならず。
鍛える事が出来たのは、この肉体のみ。
「宿に戻りましょう。しっかりと休憩をとるのも修行と魔力発揮の為に重要です。」
「そうしますか、いてて・・・」
下半身がプルプル震える。
「大丈夫ですか?」
「こんぐらい、なんともないですよ。なにせ、俺、世界中を回って探検してきた人間なんで。」
「ルパートさん、自分の世界で旅をしてたんですか?」
アリアさんが興味深そうに聞いてくる。
「そうですよ。これでも、考古学者なんで。遺跡探しや冒険をこの歳までに何回も経験しているんですから。」
「ほー。」
「何ですか?その疑いのある目つきは。」
「いえ、別に。さぁ、戻りましょう。日が暮れてしまう。」
少し急いで宿に戻る。
夜食が出来上がっているかもしれないから。
・・・数時間後、俺は、アリアさんと夕食を食べていた。
「ルパートさん。」
「はい?」
「明日は、ナイフを持ってきてください。」
「え?でも、あれは魔力がないと意味ないんじゃ・・・。」
「少しでもあのナイフに慣れた方がいいです。あれは普通のナイフとは全く別物ですし。」
「なるほど。」
修行でナイフを使うのは、初めてだ。
まぁ、ナイフ自体は、俺の得意分野であるし、少し楽しみもある。
「それに、」
「え、それに?」
アリアさんが俺をじっと見て言う。
「ルパートさんのナイフ術も見てみたいですしね。」
少し、緊張してしまった。
ナイフ術を見せるのもそうだが、こう思ってしまったのだ。
(今、可愛かった)
・・・夜になった。
王国の住民は、みんな寝静まっている。
俺も、自分の部屋のベットでゆっくり寝ていた。
明日の集合は朝9時。
まぁ、早いね。
疲れもあったので早く寝てしまった。
真っ暗な部屋で一人。
「・・・お前も、この世界に来たか。」
誰かが言った。
「・・・もう引き返せないぞ。」
誰だ?
「運命の時は動き始めている。お前の‟覚醒”もそう遠くはないだろう・・・。」
覚醒?
「闇は、刻一刻と迫っている。・・・目覚めよ、‟時の選光者よ”。」
待ってくれ、あんたは誰だ?
「私は、・・・」
・・・・・・光?・・・・・・・・・眩しい。
「う・・・。うん?」
目が覚める。
窓から日光が入り込んでいる。
とてもいい天気なんだろう。
「今のは、夢・・・?」
誰かに話しかけられていた。
でも、誰か分からなかった。
顔も分からない。
声も分からない。
でも、言葉は覚えてる。
「よく分からない夢・・・だったな。」
何か忘れているような気がするのは、気のせいだろうか?
何か大事な・・・
「・・・あれ?今、何時だ?」
時計を見る。
短い針が11にきてて、長い針は6の所。
なるほど。
これは、
「やべーーーーー!!!遅刻だ!!!!!」
大慌てで着替えて宿を出る。
「やべーよ。遅刻じゃん!!これはスパルタ修行間違いない!!やっちまったーーーーー!」
ブツブツ独り言を言いながら走って修行場所へ向かう。
「着いたーーーーー!」
入口の前に着いた。
もう汗だくだ。
会ったら、多分、満面の笑みでヤられる。
天然のくせに、修行の時は超スパルタ。
(怖ええええ。)
と思いながら、彼女がイラついて待っているだろう木の下に向かう。
木の下に誰かがいる。
間違いない。
アリアさんだ。
俺はジャンプして、地面に鮮やかに膝をつけ、そして叫ぶ。
「この度は!寝坊して申し訳!!ありませんでした!!!」
これでは許されないだろう。
だが、日本の誠心誠意のジャンプ土下座で少しは謝罪を理解してくれる・・・であろう。
というか、願いたい!!
30秒位、土下座状態でいる。
無言、やはりダメか。
顔を上げて、そして言う。
「煮るなり焼くなり、好きにしても構いませんので勘弁して下さい!」
「ほえ?」
そこには老人がいらっしゃった。
よぼよぼーとしている。
日光浴の最中に、休んでいたのであろう。
この木の下で。
「人違いでした。すみません。」
‟ささー”と移動する。
俺は見ず知らずのご老人に謝罪をしていたのか。
・・・この記憶消したい。
「なぜ、アリアさんいないんだ?ああ、そうか。帰ったんだ。俺が来ないから諦めて帰ったんだ。そりゃあそうだ。だって、約束から2時間だもんな・・・。」
早口で、自分に言い聞かせる。
(うん?でもそうだとしたら、何で俺を呼びに起こさなかったんだ?ていうか、俺の宿は協会の宿だからアリアさんも近いはずなのに・・・。)
何かが、引っかかる。
そうだ。あのお爺さんなら知ってるかもしれない。
「お爺さん。少しいいですか?」
「おー、あー、さっきの、必死に謝ってきた若い方じゃないか。」
(あー、覚えられちゃったよ。)
「ここの木の下に来る前に、女の人がいなかった?赤髮の。」
「赤髪?おー、おった、おった。」
「やっぱり!どこに行ったか、知っている?」
「どこにって言うと、あんたが来て一緒にどこかへ行ってしまったじゃないかえ?」
「は?」
「あんたが探しているアリアだろう?手をつないで西口から出てしまったじゃないか。」
「は?は?」
どういう事?俺がアリアさんと手をつないでどこか行った?
は?
俺は寝てたぞ、絶対に。
「あれ?でもお前さん、さっきは短刀つけてなかったのー。どうしたんじゃ?」
まずい、これはあれだ。
絶対に誘拐だ。
「お爺さん!それいつ??」
「えっとー、30分前ぐらいの様な・・・。」
「ついさっきじゃん!!ありがとう!!」
「お・・・おう。」
ダッシュで追いかける。
確か、西口って言ってたよな。
まさか、こんな事が起きるなんて。
流石に信じられないけど、これが本当なら予想以上に深刻だ!
「 俺の、偽物がいやがる!! 」