繫華街にて
「失礼しました。」
会長室から出る。
俺の横には、アリアさんがいる。
これから、フレア協会に入るための魔力試験を突破する為に修行をする事になった。
が、魔力というモノを持たない俺が修行するって何をすればいいんだ?
「あのー、アリアさん?」
「あ、はい。何ですか?」
修行について考えていたのだろうか?
そうだとしたら、なんか、申し訳ない。
「修行って、俺は何をすればいいんですかね?魔力なんて持っていない俺を鍛えても意味があるのか分かんないと思うんですけど・・・。」
「いえ、ルパートさん。あなたは、魔力を持っています。」
「え?」
俺が魔力を持っている?
「かなり小さい魔力ですが。」
「小さいかー。」
がっかり。
「この別次元に来る人間は、魔力を持つことができるのです。たった1つだけですが。」
「1つ?ていうか、魔力って、そもそもどういう仕組みなんですか?この世界では。」
長い廊下を歩きながらアリアさんに質問する。
「基本的に、この世界の人間は魔力を持っています。この世界の人間が持っている魔力と、ルパートさんの様な、他次元の方が得る魔力を比べると、他次元の方達の方が、私たちの魔力より遥かに少ないんです。なので、このグラードにいる人間は、多くの魔法を扱えるのに対して、他次元の方は限られた一つの魔法しか扱えないんです。」
(なるほど。この世界の人間は、魔力の量が、俺より大きいのか・・・。)
「そうなると、俺はまず、何か一つ限られた魔法を覚える事が優先なのか。」
「その通りです。ただ、・・・。」
「ん?ただ?」
少し申し訳なさそうな顔をしている。
「なんか、まずいことでもあるんですか?」
「いえ、そうじゃないんです。ただ、魔法を覚えると言っても、何の魔法を使えるかは全く分からないんです。」
「え?」
「ですから、例えば、ルパートさんが火属性の魔法を覚えようとしても、ルパートさんが本来、水属性の魔力を持っていたら覚えることはできないのです。」
「ええ?」
「しかも、魔法は数百種類を超える分類があるので、どの魔力を自分自身が持っているか調べる必要があるんです。調べる方法は時間をかけて、何が使えるか判断するんですが・・・。」
「・・・。」
最悪のパターンだ。
「要するに、アリアさん。時間がない・・・と?」
「そうです。試験は丁度、今日から一週間後。この試験を逃すと次は一年後。まず、魔力調べは一週間かかるのです。更にそこから、魔法の訓練をこなしても・・・おそらく一年。」
無茶ぶりかよ、あの会長・・・。
あの笑っている顔に怒りが沸く。
「なんか!なんか方法は!?簡単な魔法ないの!?」
「と言われても、簡単な基礎魔法は攻撃手段でもないし・・・。」
マジ焦る。
希望が見えたら、絶望も一緒に見てしまった感じ。
この、どうしようもない感じ。
どうすれば、間に合う?
「ルパートさん。」
アリアさんが声を掛けてきた。
「なんかあるんですか!???」
「そうじゃなくて・・・。とりあえず、落ち着きましょう。焦りは禁物ですよ。」
「・・・!・・・そうですね。深呼吸、深呼吸。」
すーはー、すーはー。
よし。
「どうしよう。」
「・・・一旦、繫華街に出てみますか。」
「え?」
「そうしましょう!リラックスです!」
ガシっ!と手をつかまれ、‟ピュ~”とすぐさま連れてかれた。
・・・程なくして、繫華街に到着した。
繫華街は賑わっている。
ただ、武器屋だったり魔法治療院など、この世界特有の店が至る所にあった。
看板には、その店が何なのかを表すマークと文字が書かれてる。
こういった所は、俺のいた世界と同じだ。
ちなみに、このグラードで使われている文字を俺は未だ読めない。
エジプトのヒエログリフの様な複雑な象形文字。
いずれ、アリアさんに教えてもらおう。
少し興味が沸いた。
あちこちに目がうつる。
「何か気になるところ、ありました?」
アリアさんが聞いてきた。
「いや、見たことない店が多くて。つい、いろんな店に目がいっちゃうんですよねー。」
「そうですもんね。初めて見るお店ばっかりですもんね。何か入ってみたい場所ありますか?」
「そうですねー。うーん。・・・、じゃあ、あの魔法骨董品屋に行ってもいいですか?少し気になって。」
「もちろん!入りましょう!」
お店に入ると、中はいろんな造形物や見たことない物が至る所にあった。
ここは、学者である自分にとって、かなり興味深い物ばっかり置いてある。
「これは壺かな?とても小さいな。何に使うんだ?」
アリアさんに聞いてみる。
「それは、魔獣封印用の壺ですね。ある呪文を唱えれば、余程強い魔物でない限り捕獲できる物ですね。」
「なるほど、こんなに小さな壺にあの魔獣が入ってしまうのか。」
「ただ、壺の大きさによって封印できる強さが変わりますから、これだと小さい魔獣、魔リスなどぐらいでしょうね。」
「魔リス?リスが魔獣なのかよ。」
「リスの他にも、魔ネズミや魔鳥などですかね。比較的穏やかな動物なので、無害な動物ですよ。」
「ほー。」
(あの黒豚(森で襲ってきた魔獣)は獰猛な奴ってことね。なら、ライオンとかもいるんかな?)
「いらっしゃいませ、お兄さん。」
「うわ!」
物陰から婆さんが出てきた。
顔しわくちゃの背が低い。
「あ、失礼。驚かせるつもりは、あった・・、なかったんだよ。」
どっちだよ。
「なんか気に入ったもん、あったかい?ないんかい?」
「そうですね。どれも初めてで、見たことない物ばかりなんで・・んぐ!」
アリアさんが口を塞いできた。
「んん!・・・ぷはあ!、アリアさん何!?」
「ルパートさん!あなたが次元放浪者であることを控えて喋ってください!」
「何で?そういえば、その理由、話してもらってませんでしたね。」
「それは・・・」
いったい何だ??どうして言えないんだよ???
「あんた、異世界の方かいね?」
婆さんが聞いてきた。
「いや、違うんです。各国を旅をする者でして。」
「この大地には、この都市国家フレイアだけだよ。」
(えー!?もうごまかせねーー!)
「おば様、違うんです!この人は、悪い人ではありません!!」
「いや、それ一番言っちゃダメなやつ!!」
とりあえず、ごまかそうとした俺がバカだった。
なんか、嫌な予感するーー。
「別に気にしないよ。」
「え?」「え?」
アリアさんと同時にハモった。
「伝記の異世界人でもあるわけないし。」
「伝記の?」
(何だ?伝記って?)
「アリアさん?」
数秒の沈黙。
そして、
「・・・分かりました。ルパートさんには、お話しした方がいいですね。あなたが、なぜ次元放浪者である事を、喋ってはいけないのかを。」
「その婆さんが言っていた、伝記の事ですか?」
アリアさんはこくりと頷く。
「大昔、1人の青年がいました。
青年の名前は、フレア・フランカ。
フレイア王国、初代王子にして、フレア協会創設者です。
当時の王国では、ある問題が起きていました。
それは、時穴からグラードへ迷い込んだ、異世界人問題です。
当時、異世界人を珍しく思い、異世界人だけを狙う事件が起きていました。
誘拐、人体実験、人身売買・・・。
王子は、この問題を解決するべく、異世界人の全面的な保護に取り組みました。
一通り、王子のおかげで問題が落ち着いてきた時の事でした。
ある日、時穴が城の中庭で発生し、人が落ちてきました。
怪我をしており、王子と同じくらいの若い青年でした。
王子は、青年を城で看病する事にしました。
青年は、王子と話し合います。
王子は、異世界人であり、帰る方法が見つからない青年に、城で暮らす様にしてあげます。
それから、日々を一緒に過ごす様になり、関係を深め合い、彼らは友となっていました。
青年は、王子から魔法の教育を受けさせてもらい、お互い武を高めあう様になりました。
時が過ぎ、大人となった王子は、国王に。
青年は、騎士長となり国の為に尽くします。
ある時、二人は喧嘩をしてしまいました。
怒りから、国王は騎士長を国から追放してしまいます。
数時間過ぎ、考え直した国王は、兵士達に騎士長を連れ戻す様に命じました。
しかし、どこを探しても騎士長は見つかりません。
騎士長を捜索して1年が過ぎてしまいました。
それからある日、王国を一人の男が襲撃してきました。
男は、顔を隠しており、国民、兵士を殺し、暴れて、誰一人敵いませんでした。
ついに、国で一番の力を持つ国王が出向き、男と戦います。
しかし、国王は戦っている間に、男の正体に気がつきます。
男の太刀筋が、騎士長と同じである事に。
国王は、説得を試みます。
男は黙り込んで聞き続けます。
そして、男は口を開きこう言いました。
‟復讐の時は、今ここに”
その瞬間、男は自らを犠牲にして、空間に穴を開き、獣を呼び出しました。
国王は獣と戦い、死亡しました。
これを多くの人々が涙を流しました。」
「なんだそれ・・・、それがここで起きたって言うのか。」
アリアさんは頷く。
「この出来事により、国王の親族の命で、この世界に迷い込んでしまった異世界人が理由も分からず捕らえられ、処刑されるといった蛮行がされてきました。同時に、異世界人という言葉自体が差別的な言葉としても扱われているのです。」
なるほど。
だから、アリアさんは異世界人と呼ばずに、俺の様な人間を次元放浪者と呼んでいるのか。
「ただ、今から数百年前に革命が起きて、王権が変わり、異世界人に対する平等法が作られたのです。そこから、異世界人ではなく次元放浪者と呼ぶ様になりました。」
「そうか。じゃあ、協会で言われた、あの悪口は・・・」
「そうです。この出来事に恨みを持つ一族の方などが・・・。あのジョーさんも、その一族の方です。」
やっと、疑念が解けた。
なぜ、あんなに怒っていたのか。
でも、
「気になるな。」
「え?」
「その伝記、かなり細かすぎやしないか?」
「あ、ああ。そういう事ですか。この伝記はずっと語り継がれてきたので。」
・・・「お話しは終わったかい?」
婆さんが椅子に座って聞いてくる。
「あ、すまない、婆さん。ここで、ちんたら話したりして。」
「いいよ、別に。」
婆さんが立ち上がる。
「兄さん、どうするんだい?この世界で暮していくのかい?それとも、その嬢ちゃんの様に協会の一員になるのかい?」
「おば様、なぜ私が協会の一員だと?」
アリアさんが驚いている。
確かにそうだ。
協会の一員と分かる物は一つもつけてない。
「なーに、ただの勘さ。それより、兄さん。そこでお待ち。いいもん持ってきてあげよう。」
(何をだ??)
数分後、婆さんが奥から箱を持ってきた。
何だろう?凄く惹かれる。
「これは?」
「これはね、」
ゆっくり、婆さんが箱の蓋を開ける。
中には、ナイフが1つ入っていた。
サバイバルナイフくらいの長さがあり鋭利だ。
柄には、赤い宝石が埋め込まれている。
ルビーだろうか?
「え、えええええええ!?」
アリアさんが、ナイフを見て叫んだ。
「うるさいねー、もう少し静かにしなさいな。」
「あ、すみませんでした。で、でも、おばあ様、どこでこれを!?」
なんか、凄い驚いてる。
「こいつは、まぁ、なんだ。古い友人に貰ったもんさ。」
「いえ、それにしてもこれは相当凄いモノですよ!?」
状況が分からない。
「それ、価値あるの?」
試しに聞いてみる。
「とんでもないですよ、これ!!この大陸において10個しかない魔法武具ですよ!!」
「いや、分からないから何とも言えない・・・。」
なんか、凄い物らしい。
でも、丁度良かった。
俺はナイフを使うのが得意だ。
護身用として持ち歩いて、旅をしていた事もあった。
「あんたにあげる。」
「え?でも、いいの?本当に凄いモノらしいけど。」
「いいよ、それが一番。」
(一番?)
少しだけ、今の言葉が気になった。
「じゃあ、ありがたく貰うよ。」
ニッコリと婆さんが笑う。
「おばあ様、私にも何かとっておきの見せてください!」
「あー、分かったよ。あんたはねー、・・・」
・・・一時間後・・・
「なんか、色々と、ありがとうございました。」
「ありがとうございます。」
改めて二人で礼を言う。
「いいよ。時が来たら、また来なさい。」
外へ出る。
「なんか、いいもん貰っちまったなー。」
「本当にすごいんですよ、そのナイフ。私、またここに・・・あれ?」
「どうしたんですか?」
「いえ、あの、ないんです。」
(?)
後ろを振り向く。
「え?」
そこには何もなかった。
さっきまであった店が。
「どういう事?」
二人とも困惑する。ここにあったはずの魔法骨董品店がないのだから。
「よく考えたら、ここって何もない所だったような・・・。」
「えー!?」
アリアさんの天然、ここでも発揮。
まぁ、とりあえず、今日は帰る事にした。
これについては、よく分からないが。
・・・この出来事。
後々、凄い事であると分かるのは、まだ先の話であった。