時穴とANZA
集会場での騒動後、すぐにグレンさんが会長室に案内してくれた。
「どうぞ、おかけになって下さい。」
椅子に座る。
「申し訳ございません。異世界から来て時間もたたないうちに、大事に巻き込んでしまって。えー。お名前を、まだ聞いていませんでしたね。」
「あ、すみません。ルパート・デイヴィソンと言います。」
「なるほど、ルパートさんですね。聞くところによると夜覚の森でアリアが助けてくれたようですね。」
「はい、実は目が覚めた時はまだ日が昇っていたんですが、散策しているうちに、夜になってしまって。そしたら、魔獣?に襲われてたところを助けてもらったわけです。」
「なるほど、なるほど・・・。」
グレンさんが黙り込む。
何かを考えている。
「分かりました、ルパートさん。状況はよくわかりました。では、この世界に迷い込んでしまった心当たりが、何かありますか?」
「心当たり・・・?」
「そうです。この世界に迷い込んでしまった原因があるはずです。」
「・・・森で目が覚める前は、遺跡調査をしていたんです。あ、自分は考古学者なんで。そしたら、その遺跡内で文字を見つけて、確かANZAと書かれていたんです。」
「!・・・。ANZA・・・ですか。」
グレンさんが驚いている。
「失礼しました。続けてください。」
「?・・・。はい、分かりました。」
少し疑問に感じながらも話しを続ける。
「その文字を見つけた瞬間に、いきなり暴風が吹き出し、宙に浮いた穴が現れたんです。柱の後ろで耐え忍んでいたんですが、いきなり柱が崩れて穴に吸い込まれて・・・ん?」
何かに気づいた。
いや、思い出した。
柱が崩れた瞬間に誰かがいた事に。
あれは・・・サリーだった。
「どうかしましたか?」
グレンさんが聞いてくる。
「いえ・・・、何でもありません。そう、穴に吸い込まれて、気づいたら森にいたんです。」
サリーの事も言いたかったが、やめた。
状況の整理が出来なくなりそうだったから。
「なるほど、ありがとうございます。・・・やはり、間違いありませんでした。」
「間違いない?どういう事ですか?」
「まず、あなたは時穴に吸い込まれてしまったという事です。それも、‟ANZA”詠唱により出来てしまったイレギュラーなものに。」
「どういう事ですか?」
”ANZA”詠唱により出来た時穴?
イレギュラー?
全く分からない。
「順を追って説明しましょう。まず、時穴から。」
「はい、お願いします。」
グレンさんが頷く。
「時穴とは、‟多次元を繋ぐ穴”の事です。我々がいる超大陸グラードは‟別次元”にあります。ルパートさんのいた世界は‟表次元”です。他にも‟裏次元”があるのですが、そこには「天国」や「地獄」という世界があります。ここまでは大丈夫ですか?」
「・・・。あの・・・、天国と地獄って存在するんですね。うん、なるほどね。うん、うん。流石、異世界。俺がいる表次元は、何も知らない無知の世界だったようだ。なるほど・・・信じられん。」
次元世界の話と、天国、地獄の存在により、俺の脳は驚きを隠せなかった。
「信じられないようですが、本当の話です。話を進めさせていただきます。」
(俺の脳は、ついていけるかなぁ・・・。)
この後の話が正直、不安になった。
「それぞれの次元は、本来繋がっており、時穴を通らなければ次元を超える事はできません。さらに、時穴には‟時魔”と呼ばれる凶暴な無知生物が存在するため、本来ならば、それぞれの次元を超える事はできません。時魔は容赦なく生物を襲うので。」
「時魔・・・。じゃあ、俺は、どうやって時穴をくぐり抜けてここに来たんだ?」
そう、そんな凶暴生物がいるのに、なぜ俺は助かったのだろうか?
「分かりません。なぜ他次元の者が無事なのかは全く分かっていません。」
(あー、分かんない事もあるのね。)
「ここからが本題です。時穴は本来、どこに、どうやって、発生するのか全く分からないです。しかし、ある詠唱と、決まった場所にいる事で、必ず時穴が生まれる事が分かりました。」
「その詠唱が、ANZA。」
「その通りです。近年、古代神殿で見つかった古文書に書かれていた次元をつなぐ魔法。その詠唱がANZAだと。」
「次元を繋ぐ魔法・・・さっき言っていた、決まった場所が古代神殿ですか?」
「ええ。膨大な魔力を備えている大昔の神殿です。現在、このグラードで、時穴発生が確認された場所は1つです。」
「なら、そこに行って時穴を発生させれば帰れる・・・って訳でもないんだよな。その時魔って言うのもいるだろうし、帰れるかも保証できない。リスクがありすぎる・・・。」
数分、考え込む。
だが、どうやっても考えが浮かばない。
とりあえず、ある提案をしてみる。
「その場所に、俺を連れていってくれませんか?」
「・・・。」
グレンさんは黙り込む。
やはり、何か問題でもあるか?
「ルパートさん、残念ながらそれはできません。」
「え?なぜですか?」
「その場所は危険地帯にあり神聖な場所でもあります。基本的に、一般人は入る事が許されていません。」
「そんな・・・。」
沈黙。
これじゃあ、何にも出来ない。
帰れる方法が分かるかもしれないのに・・・。
「ですが、ある条件を満たせば向かう事が許されています。」
グレンさんが口を開く。
「条件?」
「そうです。このフレア協会の会員になればいいのです。ただ、ここに入るには試験を受けて合格しないといけません。これは、あなたに限らず、この世界の人間でも困難な試験です。場合によっては、大怪我をする事になるかもしれません。」
「大怪我・・・。」
再び考え込む。
困難・・・。
この世界の住民でさえ厳しいのか・・・。
まともに、考古学者として必要な勉強や、ある程度の武術を習っていた俺でも、魔力という未知のモノを持ってない俺には、無理があるかもしれない。
「・・・私は、やめとくのがいいと思います。」
グレンさんが鋭い目をして言う。
「え?」
「あなたは、魔力を持っていない。まず、その時点で何もする事はできません。それでも、挑めば命の保証はできません。」
いきなり、冷たい態度になった。
・・・、怖い。
さっき感じた威圧感がヒシヒシと伝わる。
「この世界で生きればいいのではないでしょうか?なに、私が衣食住を確保できる様に手伝いましょう。その方が、あなたにはいいと思いますが。」
この世界で生きればいい・・・か。
確かに、それもいいかもしれない。
「諦めてはどうです?その方が‟楽”ですよ。」
諦めて楽に過ごす事ができる。
「さぁ、そうしましょう?」
ああ、分かった。
そうしよう。
この世界で、生きればい・・・いのか・・・?
いや、違う。
帰るんだ。
俺の世界に。
決めたことがあるんだよ。
自分で決めた事が。
父さんを探したいから。
その為に同じ道を辿ってきたんだよ。
だから、
「やらせて欲しい。」
「・・・なんと。」
グレンは、驚く。
「俺は、やらなければならない事があるので。帰らないと。」
「・・・ふふふ。」
グレンさんが笑い出した。
「アハハ!素晴らしい!いいね!そうこなくては!!」
「へ?」
「すまないな、ルパートさん。君に、魔法を掛けていたんだ。」
「え?ええ!?」
(俺、魔法に掛かっていたのか!!)
「いや、いや、実に素晴らしい。私の魔法を自力で解くとは。恐れ入ったよ!」
「いや、解いたのか、俺が・・・。・・・マジ?」
「マジ、マジ。」
グレンさんが、ニヤリと笑いながら頷く。
「うん、うん。これは、面白い。ルパートさん!試験参加を認めましょう!!あなたなら、いけるかもしれません!!」
「もしかして何か素質を感じたんですか!?」
少しウキウキする俺。
何かしら凄い能力を持ってんのか?と期待する。
「いや、ありません。」
「ズコーーー。」
すっころぶ。
(無いんかい!!)
「・・・今のところはね。」
「え?」
(今、小声で何か言ってた様な。)
「さて!そうと決まれば、修行をこなさねばね!!アリアーーーーー!!!」
「会長!!、叫びすぎです!」
「はや!」
勢い良くドアを開けてアリアさんが入って来た。
こんな早く入って来たっていうことは、ドアの前でスタンバってたのかな?
「ルパートさんに、会員試験の修行をつけてあげなさい。」
「え?ですが、任務が・・」
「そんなの、別にやらせるからいいよ!ハイ!お願いします!!」
「は、はあ。」
(この人、適当だな)
とまぁ、こんな感じで話が終了した。
超大陸グラードの人々は、自分の住む世界が別次元である事を理解しています。
なぜかは、今後のお話しで説明されるかもですが、簡潔に説明するとそれを解明した人間がいるからです。