狙われる子龍
「キュルルルウ!」
卵から生まれた小さな龍は、ティームの頬にぺったりとくっつき可愛いらしい鳴き声を出している。
まるで、アヒルの子供が人間を親だと思っている様な。
と言うか、正にアヒルがドラゴンのバージョンでそれが起きている。
「おいおい、くっつくなって。こら、ぐおむむ!」
ティームが一度離したと思いきや、子龍は直ぐに顔の正面に貼りつく。
それもそのはずだ。
つい先程、卵から生まれた赤ん坊なのであるから親と一緒にいたいのは当然である。
当のティーム本人は、困り果てているが満更でもない様で笑いながら接している。
「ルパート!アリアさん!見てないで、どうにかしてくれよ!ぐむむお!もうー。」
困っている様でツンデレをかましているティーム。
はがしても、はがしても貼りつく子龍。
そんな光景に俺は面白がっている。
一方のアリアさんはというと。
「はわわあ・・。」
もう顔が溶けるかというくらい微笑みでいっぱい。
ティームと子龍の光景が可愛くてしょうがない様だ。
その様子を見ると、こちらも微笑みが溢れる。
なんて平和な時間なのであろう。
・・たった今までは。
「アリアさん、ティーム。」
ルパートの呼びかけで状況に気づく二人と一匹。
気配に気づいた時には、既に周りを武装した男達に囲まれていた。
その数、十人ほどであろうか。
木の陰に隠れている者もいれば、堂々と姿を見せている者もいる。
「・・あなた達、何者ですか。」
アリアが問いかける。
警戒をしながら周りを見渡す。
すると、顔に傷がある坊主頭の男が木陰から現れる。
動きやすそうな服を着ており、山賊の様には見えなかった。
「・・そのドラゴン、返してもらおうか。」
「返してもらおうかだと?この子は、ついさっき卵から生まれたばかりだぞ。しかも、空から降ってきたんだ。」
ルパートが反論する。
「それは我々が落としてしまったのだ。卵から孵化したとて我々の所有物であった事には変わりがない。」
「それ、に、所有物ね・・証拠は?」
「ない。」
では、返す言葉は一つだ。
「誰が引き渡すか、バーカ!!」
ティームが大声で叫ぶ。
少々荒い言葉だが、俺が言う手間が省けた。
「そういうわけだ。生物を物として扱う様な言葉遣いする奴らには引き渡せない。」
「確かに我々の不手際ではあったな、そうなるのも無理はない。であれば・・」
男の表情が一気に曇る。
「殺してでも奪う。」
その言葉を聞くや否や、アリアが攻撃にうつる。
だが、それは相手側も同じであった。
一気に武装した九人が、こちらに迫りかかる。
「炎の矢!」
炎の矢を連続で繰り出す。
襲い掛かる集団に目掛けて飛んでいく。
五人には命中したが四人には躱されてしまった。
この時点で相手の力量に気づく。
協会五強の一人であるアリアさんの魔法を避けたのだから。
「それなら!」
ターゲットを決め、攻撃できる範囲を見定める。
しかし、相手の連携が取れているのか一人一人の間隔に距離が空いている。
「・・ギリギリか。」
複数に攻撃したいところだが限りが出る。
やむを得ない。
「連光斬・二連!」
ナイフに纏った光の魔力を斬撃として宙に二回連続で繰り出す。
光の速さを活かして襲い掛かる斬撃は、瞬く間に二人を斬り裂いた。
しかし、あと二人残っている。
「二人頼んだ、ティーム!」
咄嗟の判断でティームに敵を託した。
少々の心配はあったが。
旅立つ前に実力を見ていたため信頼はしていた。
「言われなくとも!」
ティームは、子龍を抱えながら魔法を繰り出す。
「重撃弾!」
青黒く淀む魔力弾がティームから繰り出される。
放たれた魔力弾は、敵の前で弾け飛んだ。
その瞬間、敵の身体は襲い掛かる方向とは逆の方向へと吹き飛ばされた。
「ぐおお!!」
残る二人は木にぶつかり気を失った。
めり込んだ木が、その威力を物語っていた。
「さすが、重力魔法。戦闘に持って来いだな。」
「この力を試験で見せれなかったのが悔しいよ。」
「俺は凄いと思ってるぞ。しかも、俺と同じ特殊魔法ときた。最初観た時は本当に驚いた。」
「ふん、褒めても何も出てこないぞ。それより・・。」
二人が対応している間に、アリアは坊主頭の男と戦闘をしていた。
「はあっ!」
「ふんっ!」
魔法を放ち距離を詰めていくアリア。
しかし、坊主頭の男は魔法を難なくと攻撃を防いでいる。
よく見ると、いつの間にか装備を着用している。
「あれは、鉤爪か・・。」
男は腕に装備した鉤爪で炎を切り裂いていた。
本来の鉤爪であれば熱で溶けるであろうが、おそらく魔道具であろう。
すると、状況を確認したのか男は木の上に飛び移った。
「ここまでやるとは・・何者だ、貴様ら。」
「それは、こちらこそ聞きたいです。」
「ふん・・、お互い疑問しかないな。さて・・。」
ちらりと倒れている仲間、おそらく部下である者達を見ている。
「モ、モドック様・・申し訳ございません。」
身体を起こした部下が声をかける。
「・・使い物にならない部下なぞいらぬ、消えろ。」
「ひっ!お、お許しを!ぐ、ぐあああ!!」
「な、なんだ!?」
先程まで襲い掛かってきた者達が一斉に叫び始める。
それと同時に身体がみるみる溶け始めた。
「ぐ、ごおおお・・。」
「・・・!!」
その光景にルパート一行は絶句する。
部下であった者達は全員跡形もなく溶けて消えた。
「な、何をしたんだ・・!お前の部下だろ!!」
「部下?はて、そんな者は、ここにいないはずだ。」
驚く事に、モドックと呼ばれた男は、消えていった者達の存在を無かった事にしている。
「な、なんて奴だ・・。」
ティームが口を開く。
その光景を見せない様にしていたのか、ティームは子龍の目を塞いでいる。
小龍は目を塞がれているにも関わらず大人しくいた。
見えずとも音を聴いたのだ、その身体は恐怖に怯えて震えていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
子龍争奪編の開幕です!
面白いと思ったら評価・ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです!




