水の滴るイイ男
初戦から会場が盛り上がりを見せる中、落ち着きを見せる者達がいた。
特等席、迎賓席に座っている協会の重鎮達である。
「ふむふむ、それなりに強くなったと見える。厳しく育てた甲斐があったのう。」
「あの異世界人を育てたのは、爺さんだったか。以前より魔力が上がっているのは、あんたが原因か。」
ここは、特等席。
ルパートの話題で話す二人。
協会五強のビト爺とジョーだ。
「原因とは何じゃ、厄介者を見る様な目は止めんかい。確かに、あの光魔法は儂の目には眩しいが。」
「眩しい以前に見たくもなかったがな。会長から、試験を見る様に言われているから見てやったが。」
「見てやったが、どうしたんじゃい?」
「・・・なかなか、筋のある奴と見た。」
(・・・素直に、凄かったと言えば良いものを。強情な男じゃ。)
フン!と鼻息を立てて姿勢を正すジョー。
ビト爺は、やれやれと表情を見せてアリアの方を見る。
アリアは、ルパートが無事に試験を通過した事に一安心した様子で椅子にもたれかかっている。
「アリア、あのルパートという青年が好きなのか?」
「えっ!!」
急な問いかけに戸惑うアリア。
質問をしたのは、協会五強の麗しき戦乙女ヴァルナである。
「そ、そんな訳ないじゃないですかっ!!ヴァルナさんは、冗談がお好きですね!!もう!!」
「ふむ、そうか・・青年がコロシアムに登場してから心音と呼吸音が早くなった様に感じたが。」
「そ、それは、えーと・・そう!武者震い!武者震いというやつです!ルパートさんとは、ビト様の厳しい修行を共に過ごした関係!言わば、弟子関係!」
「武者震いだと、身体全体が震える音がする気がするがな。フフフ、恋する乙女と言う事か。」
「違います!もう!ヴァルナさんったら!」
俗に言う、女子トークというモノで盛り上がりを見せる紅二点。
そんな様子を温かい目で見るビト爺であった。
(さて、無事にルパートの試合も終わったが上の者は何を考えているやら。)
目線を上の天井に向けるビト爺。
その天井の先は、迎賓席。
協会統括者グレンとフレイア王国第二王子ベガが鎮座していた。
「グレン、あの青年が次元放浪者のルパートという青年か。」
「はい、王子。先日、時穴からグラードに迷い込んでしまった様です。」
「そうか・・見知らぬ土地で苦労をしているはずだろうに。しかし、あんなに魔力の扱いに長けているとは驚いたぞ。」
「正直、私も驚きました。短期間で、ここまで力をつける事が出来るとはセンスがいいです。」
二人とも、ルパートの戦闘に関心をしている。
「何でも、彼がいた元の世界では考古学者をしていたのだとか。多少の冒険と戦闘経験もあるようで、その経験が活かされているのでしょう。」
「考古学者とな?面白いな。彼なら、遺跡と時穴の謎を解いてくれるのではないか?」
「かもしれませんね。・・今日いない馬鹿と同様に面白い人間です。」
「あの異端児か。奴もいたらルパートの力になっただろう・・どこに行っているのか。」
「あの馬鹿は、大陸の端にでもいるでしょう。」
「大陸の端って・・このグラードは開拓途中はおろか規模は未知だぞ。やれやれ。」
「王子、馬鹿の事は放っておきましょう。そろそろ、次の試合が始まりそうです。」
コロシアムを整備する係員が撤収していく。
「ではでは、皆様!」
審判のエイルが声を発する。
次の第二試合の準備が整ったようだ。
「第一試合は、大変盛り上がりを見せて会場の皆様もお楽しみいただけたかと思います!」
・・・最高だー!!・・・
・・・フレア協会、バンザーイ!!・・・
・・・早く次の試合を見せてくれー!!・・・
「その通~り!まだ、第一試合なのです!続く第二試合も、その先の試合も並ならぬ強者達が待っているのです!!まだまだ、これからだー!!」
コロシアムを整備し終えた係員が、エイルの方を向き両腕を広げ丸くサインをする。
それを見て、エイルは頷く。
「それでは整備が終わったので、第二試合を始めます!受験者の入場だ!!」
ーーーガガガーーー
網状の鉄扉が再び上がり始める。
扉が上がるだけで観客席が盛り上がる。
左の扉からは、黒い仮面を着けて身体全体を黒いローブに纏った背の小さい人。
右の扉からは、金髪で顔が整った高身長の白服を着た青年。
一目見るだけで、両者真逆の個性を持った受験者だと分かる。
「では、ご紹介しましょう!左側から!黒いベールに包まれた謎の受験者、ブラック!!」
・・・真っ黒すぎる!・・・
・・・前、見えてるのかな?・・・
ガヤガヤと疑問の声が出る観客達。
「対する右側は!協会五強である智賢のビトを祖父に持ち、その実力は未知数!ミズキ!!」
・・・ええ!ビトさんのお孫さん!?・・・
・・・お孫さん、大きくなったな・・・
・・・キャー!カッコイイ!ミズキさまあ~!!・・・
協会五強の孫の登場に驚く観客達。
勿論、この参加は協会五強のビト以外の他メンバーにも知られてなかった様だ。
「爺さん!ありゃあ、あんたの孫さんか!?ずいぶんと大きくなったな!!てか、参加してる事をなんで俺らに話してないんだよ!」
「これで話したら、変に意識して審査に影響が出るじゃろ?」
「もう驚きと期待でいっぱいだ!」
協会でも屈指の実力者である智賢のビトの孫と知り、ジョーは興奮気味だ。
一方の女性二人組はと言うと。
「美少年とは、この事だな。この先の成長が楽しみだ・・フフ。アリアの好みに合うのかな?」
「ヴァルナさん、いちいち私に恋愛感情を持ちかけるのやめてください。どちらかと言えば、私はもっと男らしさがある・・って!何を語らせるんですか!!」
「今のは、勝手にお前が一人語りしてるだけじゃないか。」
と、先程と何ら変わりのない話をしていた。
「だが、相手も実力がありそうだぜ。」
「確かに、あの黒い者から余計な音が聞こえないな。」
「唐突に会話に入ってきたな、ヴァルナ。」
「いや、得体の知れない者には惹かれてしまう体質でね。」
「相変わらず何を考えているか分からない女だ。」
「お前に私の考えを分かって欲しいなど思っていない。」
「あーそうですか。分かりましたよ。」
やれやれ、と溜息をつくジョー。
「もう、お二人とも仲良くしてください。」
間に入るアリア。
この二人の仲裁に入るのはアリアの役目だ。
「ビト様、お孫さんの実力はどうなんですか?」
「まあ、儂の孫だから心配する事はないよ。」
一同は、その言葉を聞き沈黙してコロシアムを見る。
受験者二人は、静かに向かい合いながら試合開始の合図を待っている。
「両者、準備万端の様です!!それでは、皆様お待たせしました!!」
両者、身体を僅かに動かす。
「第二回戦んん~、戦闘開始いい!!」
ゴングが鳴り響く。
その瞬間だった。
勝利の女神は大きく右に傾いた。
「水の檻」
唐突に、水で構成された檻が現れブラックを収監する。
「ごぼっ・・・!!」
ブラックは、言葉を発せずに水中で悶える。
水中であるため魔法を詠唱出来ずにいる。
「どうする?その檻はね、僕が視線を外すか水に手が触れない限り解く事が出来ないよ。」
スタスタと、ゆっくりブラックに歩み寄るミズキ。
その歩き方と態度には圧倒的な自信が満ちあふれている。
「君は逃げられない、降参しかないよ。」
その言葉を聞いたブラックは、苦しそうにコクコクと頷く。
その頷きを確認したミズキは、ゆっくり手を水に触れる。
すると、空中で水の檻は勢い良く分散する。
「ゴホッ!ゴホッ!」
「ありがとうございました。」
ブラックは、水でずぶ濡れだ。
彼は、飲み込んでしまったであろう水を咳で吐き出している。
対するミズキは、右手だけが濡れていた。
水滴がミズキの手先を滴り地面に落ちていく。
水の檻は、空気中に漂う水分と詠唱者本人の魔力を合わさって作られます。




