三
魔法科の先輩と普通科のわたし。
いつもの誰もいない学園の第三書庫に並んで座って本を読んでいた。
先輩はわたしをルーと呼んだ。
本当ならば、婚約者のいる公爵令嬢のわたしが男性と書庫に二人で、いるなんて許されない。
ルーだなんて呼ばれてもダメなこと。
でも、先輩といるとホッとして心が安らぐ。
どちらかというと、一人でも平気な先輩からわたしが離れなかった。
『おいルー、魔力が無いお前では無理だ。危険だからやめろ!』
魔法を使おうとすると、いつも先輩はキツくわたしを止めた。
黒いローブから切れ長な赤い瞳が睨む。
『そんなの分かってるわ。ちょっと興味本位でやってみただけよ』
『興味本位って……出来ないものをやって、万が一怪我でもしたらどうするんだ』
くっ、正論すぎて反論出来ない。
『だって、先輩が羨ましいのだもの』
『……ルー』
元々、魔力が無いのに魔法を使おうとして、先輩をいつも困らせていたっけ……
先輩はわたしが悪役令嬢と言われ、人々の嫌われ者でも普通に接してくれた。
だからわたしも普通に話せた。
でも一度だけ胸の内を伝えた。
「わたしの近くにいると、先輩まで悪く言われるのは嫌」
「そんなことルーは気にするな! 俺たちはあいつらが噂することなどしていない。言いたい奴が言えばいいんだ! 俺はルーと一緒にいたいけどお前は違うのか?」
先輩の赤い瞳が悲しげに揺れた。
「わたしだって先輩と一緒にいたいけど……」
周りの人たちは面白がって、大袈裟に、人を傷つける。
「俺たちがいいなら、それでいいだろ」
大きな手で頭を撫でて、笑い、常にわたしの側にいてくれた。
その先輩の卒業式。
いつもの場所で涙が止まらなかった。
「……やだ、先輩、う……ううっ」
「大丈夫だ。俺は王城の見習い魔導士になったんだ、ルーも城に来るだろう? いつでも会えるから、そんなに泣くなよ」
「やだ、先輩と離れたく無い」
泣き止むまで側にいてくれて、大きな手で撫でてくれたんだ。
そんな先輩に似た人が、今日もお昼に来ないかと期待をして待っていた。
(がっかり、来なかった……)
あの日以来、忙しいのか次の日もまた次の日も、閉店までその人はお店に現れなかった。




