二十九
ガリダ食堂の仕事が終わり、部屋で着替え中にコンコンと壁の向こうから、ノックする音がした。
「どちら様?」
「俺だ、シエルだ。入ってもいいか?」
「先輩! どうぞ入って」
何もない壁にすーっと扉が現れて、いつものローブ姿の先輩が手に何か持ち、扉を開けて入ってきた。
「お疲れ様、ルー。お邪魔するよ」
「いらっしゃい、先輩」
「なんだかこの部屋、美味そうな匂いがするな」
部屋に入った途端に、何かの匂いを感じたのか、先輩が匂いの元を探した。
もしかして余った材料で作った親子丼? 今日の店のメニューは照り焼きチキン定食だったけど、どうしても親子丼が食べたくなって、大将さんに鶏肉を取っておいてもらったんだ。
大将さんがとったお吸い物の出汁に、薄く切ったタマネギと鶏肉を加えて煮込み、卵で綴じれば完成。
「残った食材で作ったんです、先輩も一緒に親子丼食べます?」
「親子丼?」
先輩がそれはなんだ? と言う表情をした。あ、ガリダ食堂のメニューにまだなく、わたしも先輩に作ったことがない料理だ。
「出来立てなの。温かいうちに食べよう、先輩」
棚からお皿を出して、なみなみに盛った親子丼を半分に分けた。先輩が座るのを見て、丼の乗ったトレーを先輩の前に置いた。
「先輩、お吸い物も作ったの食べてみて、後ね、お新香とサラダもあるから」
コールスローの入った、中ぐらいのボールを置いた。
「また、たくさんコールスローを作ったな」
「明日はお店の定休日だから痛んじゃう野菜を全部貰って作ったの、これくらいならすぐ食べれちゃうからって、温かいうちに親子丼を食べてみてよ先輩」
「いただきます……うまっ、初めて食べる味だけど、美味い」
箸が止まらず親子丼を口に運ぶ先輩、それをじっと見て、私も前に座り食べだした。
箸でもいいけど、スプーンで卵と鶏肉ご飯をとたっぷり掬って、パクリ。
「ううん、美味しくできたわ。卵は固くならずにとろとろで、鶏肉と玉ねぎにダシが染みていて美味しい」
「あぁ、美味い。ルーの卵焼きも好きだけど、親子丼もいいな」
先輩は親子丼が気に入ったみたいで、ガツガツ食べてる。ふふっ、先輩って卵を使った料理が好きみたいね。だったら、チキンライスにトロトロの卵を巻いた、オムライスはどうだろう? 好きかな?
「ねぇ、先輩は暇なときってある?」
「ん? なんだ、急に」
「卵を使った、オムライスと言う料理があるのですが、食べてみたくないですか?」
「オムライス?」
やった、先輩はオムライスも初めてみたい。
「あのね。鶏肉と玉ねぎを炒めて、ケチャップとご飯でチキンライスを作って。トロトロ卵で包んで、最後にその上にケチャップをかけて食べるの」
先輩の箸が止まった。オムライスがどんな料理かを考えてるのかな? うぬぬ。その表情は今の説明じゃ、オムライスがどんな料理か伝わんなかったみたい。
「ルー、明日の午後開ける。魔法屋のキッチンで、そのオムライスを作ってくれ」
「わかりました、明日のお昼ね」
また、美味しいって食べてくれるかな。
♢
「ルー、ご馳走さま、親子丼美味しかった。明日のオムライスも楽しみにしてるよ」
「はい、楽しみにしてください」
先輩はガッツリ親子丼の半分を食べた、ボールにあったコールスローもほとんど一緒に、平らげてしまった。
「そうだ、これ。ルーが着てた服が入ってるから」
帰り間際に紙袋を渡された。あ、ハムスターになった時の服だとすれば、この中には……下着も入ってる?
ガサッと袋を覗くと、綺麗にたたまれた服と、その日に着けていた下着が入っていた……先輩に下着まで拾わせちゃったんだ。
恥ずかしさに、ぼっと頬に熱がこもる。
「あ、その先輩、持ってきてくれてありがとうございます」
「うん……じゃ、明日な。おやすみ、ルー」
「また明日。おやすみなさい、先輩」
お腹を出して寝るなよと、笑って。来た時と同じ扉の中に消えていった。




