二十五
先輩から貰ったランタンの炎が揺らめく、私の部屋。先輩は書庫から持ってきた本を見ていた。
「あの先輩。借りてきた本が逆さまですよ」
「え、あぁ」
朝はあんなに大胆だったのに変な先輩。チョコチョコ歩き先輩の膝の上に乗った。
それだけでビクッとする。
「ふふっ、先輩。お腹空きませんか?」
「そうだな。ルー、皿はどこ?」
膝から降りて、棚の前でそこだとジャンプした。お皿の上には大好物のくるみパンとチョコパン。隣にはレモンティーを置いてくれた。
「いただきます!」
無我夢中にかじる、かじる。あれ? 先輩が読んでる本の表紙がさっきのとは違う? あ、それって枕元にあった私の本じゃない。
「先輩! その本はダメ」
「なんで? 恋愛の本だろう?」
そう、恋愛の本だけど。その本は魔法使いと女の子の恋の話‼︎ わぁぁ。先輩を思い出して買ったことがバレちゃう。
恥ずかしさのあまりに手で顔覆った。でも、ハムスターの手は小さくて覆えなかった。
「それに、ここページを何度も読んでるな。紙がよれよれになってるぞ」
「そこは読まないで! 先輩!」
先輩の前でダメ、やめてとジャンプした。
だって、そこ女の子が魔法使いに告白するシーンなの。女の子が可愛くって、ドキドキして、好きだから何度も寝る前にそこだけを読んでいたのだ。
「へぇー、ルーはここが好きなのか」
はい、好きですよ。
二人がやっと結ばれて、ほこほこで、むふふな幸せな気持ちで寝たいじゃない。
実際に楽しい夢も見れたもの。
先輩の瞳がそのページの文字を追う。そして全部を読んだのか、一瞬口元が上がまたかのように見えた。
「ルーは可愛いなぁ」
ボソッと小さく呟き本を閉じて、そろそろ寝るかと、床にいる私を抱き上げ肩に乗せた。
「ルーは小さくなっても、よく食べるな」
くるみパンとチョコパン、レモンティーは完食したあとだ。まだ、若干余裕がある。
しかし、寝るかと言った先輩だけどベッドの傍で足が止まった。何の変哲もないシンプルなブルーのシーツが、かかるベッドを眺めて。
「ルーはベッドで寝ろ、俺は床でいい」
「なんで? お客用の布団はないし、床だと体が痛くなっちゃう、先輩ベッド使っていいよ、一緒に寝よ」
先輩はしばらく黙り、わかったとランタンの炎を消すと、ローブを脱いでベッドに潜った。
私はその隣に寝転び目を瞑った。
♢
コツコツ、コツコツと窓をこつく音で目が覚めた。
(この音は福ちゃんだな? いつもより来るの早くない?)
朝、小説や漫画などでは私の姿が元に戻り、先輩にくっ付いて寝ていると言う、お決まりのパターンがある。
しかし、この大きさは元に戻らず、ハムスターのままみたいだ。
コツコツ、コツコツ起きろと言うばかりに、窓をこつく福ちゃん。
その音に先輩の眉間にシワがよる。
「ウルラ、うるさい、ぞ……」
「ウルラ?」
あっ、と叫びパチリと目が開く、先輩の赤い瞳が私を捉えた。
「そうだ、ルーの部屋だった。おはよう、ルー」
「おはようございます、先輩。起きたところ悪いのだけど、海側の窓まで連れて行って」
起きないと福ちゃんは、いつまでも窓をこつくのだ。先輩も海側の窓に映る影を見て頷く。
「あぁ、わかった。ほらっ、肩に乗って」
先輩に窓を開けてもらい、窓枠に飛び乗った。
「福ちゃん、おはよう」
「ホーホー」
「今日はやけに小さいですって? そりゃ、ハムスターだもの小さいよ。魔法にかかっちゃったの」
「ホーホー」
「そうなの、魔法にかかったの。後ろにいる男は私の彼氏かって⁉︎ えーっと」
答えられずに、慌ててると先輩が私を掴み。
「そうだ、福」
だと言って窓を閉めてしまった。
「先輩!」
「あのな、ルー。ふくろうに人間の言葉が通じるか……よ。朝飯にするぞ」
「そうだけど、福ちゃんは普通のふくろうとは違うわ」
反論しても聞く耳を持ってくれない。
じゃーなぜ先輩は言葉が通じないと言ったのに、福ちゃんに彼氏だと言ったのよ。
と頬を膨らませた。
「どうした?」
「どうもしない」
「ほらっ、くるみパン」
先輩に貰って、朝食のくるみパンをかじる。そうだ今、朝の何時? だと時計を見ると五時少し過ぎ。後一時間したら下に降りないと?
……えっ、ハムスターの姿で? 無理、無理、無理だよ。
「先輩、先輩! 今日は仕事! 仕込みのお手伝いに行かなくちゃ」
そう伝えると先輩の動きが止まった、どうやら先輩も忘れていたみたいだ。




