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婚約破棄をしたのですから、王子はわたしを探さないで‼︎  作者: にのまえ


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20/51

十九

「誰?」


 お弁当を近くの机の上に置き近付いた。その男性はどこか先輩に似ていた。


「せん……ぱい?」

「んっ、ルー?」


 先輩と呼びかけると、その男性はルーと反応した。この呼び方って先輩だけなのに……


 あっ、手を掴まれた⁉︎ 

 え、えーーっ!


「きゃっ」


 力強く引っ張られて、男性の胸の上に転がる。


「ん、どうした? ルー」 


 優しく呼ばれ男性の瞳が薄ら開く。あ、先輩と同じ切れ長な赤い瞳だ。


 この男性は、やはり先輩なの?


 私を見ているはずだけど、気付かず目を細めて優しくみつめた。


「ルー……また、会えるなんてこれは夢か? なんて幸せな夢なんだ」


 くっくと小さく笑い、先輩の腕が背に回った。先輩との近づいた距離に吐息が首筋にかかる。

 

(んんっ⁉︎)


「せ、先輩。シエル先輩、離して!」

「やだ、離さない。もう少し……ん、これは、ルーの香りだ」


 そんな「やだ、離さない」って先輩⁉︎ それに香りだなんて恥ずかしい。


 身動きが取れず羞恥心だけが募る。


「ん、温かく、柔らかい……? はぁ?……温かい? 柔らかい⁉︎」


 私の背中をさわさわと触り、パチっと先輩の瞳が開く。胸の上にいる私を見て先輩は、なんとも言えぬ表情をした。


「ルー⁉︎」

「おはようございます、先輩」


 微笑んで挨拶をすると、先輩は「まじかぁ」と呟き片手で頭を抱えた。


「なんで、ここにいる?」


「なんでって、私にもわかんないよ。魔法屋さんに行こうとして先輩に貰った鍵を使って扉を開けたら、ここに繋がったのだもの」


 真実を告げると、先輩は眉をひそめた。


「ここに繋がった? まさか俺は術の失敗したのか? いいや、しっかり魔法屋と繋げたはずだ……ラエルとの確認も取ったはずなのにどうしてだ?」


 先輩は私を乗せたまま考えだした。


「あ、それと先輩。一緒に来たはずの、子犬ちゃんがどこにもいないの」

「子犬が……いないだと?」


 ♢


 薬品が香る部屋のソファーの上。先輩は私を下ろす気はないのか、そのまま黙っている。


 ふーっと一息つくと私を見た。


「子犬は魔法屋にいるってさ」

「ほんと、よかった。でも、どうして私だけ?」


「さーなぁ……ちっ、来やがった。ルーはこのまま動くなよ」


 と言うと、着ていたシャツを脱ぎ捨てて、ソファーにかけてあった黒いローブを取り、私ごとかけた。


 先輩の胸板! と照れより前にキィーーンと耳が痛いくらいに音がした。


(くっ!)


 その直後に勢いよく扉が開き、どかどかと数人の足音がして、ソファーの近くで止まった。

 付けてきたブレスレットは真っ赤で、警戒音に耳が痛い……先輩の手が背中を撫でると、音はしだいにやんだ。



「おい! シエル。貴様の部屋から女性の声が聞こえたと、いましがた報告があった。誰を連れ込んでいる? まさかとは思うが……」


 先輩は慌てず寝起きの演技を始めた。


「ふわぁっ、まさかとはなんですか? 今日は午後からのはず。なのに、こんな大勢でノックもなしに、私の部屋に入るなど失礼ではありませんか?」

 

「それは、そうだが……いいや。貴様、その上にいる女性はルーチェ嬢ではあるまいな?」


(ドキッ⁉︎)


 な、なんで私の名前が出るの? 今、先輩の上にいますけど……


 先輩はくっくと笑い。


「殿下は何を言ってるのですか? ルーチェ様は見つかってはおりませんよ。その方がどうして、私の胸の中になどいるのでしょう?」


 そう言うけど先輩の手は私の髪を撫でて、くるくるとか指に絡めて遊ぶ。

 それがくすぐったくて笑いそうで……ドキドキと緊張が混ざる。


 その時ドクンと脈を打つ。


 体がピキピキと音が鳴るくらいに痛い。その痛みに我慢出来ず(くっ)と声に出さないようにうめいた。


 それに気付いた先輩は声を上げた。


「殿下、私の連れが目を覚ましてしまう。お帰りください……それとも殿下はルーチェ様ではなく、彼女の肌を見たいのですか?」


 先輩の腕の中の女性が動いたのと、先輩に強めに言われ、ことがことだけに殿下は引き下がった。


「すまなかった。シエルと女人失礼した」


 出て行き静かになる先輩の部屋。その部屋の中で先輩は指をパチンと鳴らして、ローブを取った。


「はぁ、ビックリしたな」


「えぇ、びっくり」


「ルー?」


「なんですか?」


 あれ、先輩がやけに大きく見えるけど……。


「お前、この部屋で何か触った?」


 何か触った?


「あ、魔法陣が描いてあった紙を拾って、そこの机の上に置きましたけど……」


「そうか触ったんだな……それが原因だな。ルーお前、ねずみになってるぞ」


 ねずみ⁉︎ 自分の手を見ると灰色のふさふさが見えた。


「ほんとうだ、ハムスターかな? それともチンチラ?」


「小さいから、ハムスターだな」


 そっか……ハムスターか。


 え、ええーっ、ハムスター⁉︎


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