弟たち
「兄さん、冷たいじゃないか。久しぶりに帰って来るのに、優斗にだけ会おうなんてさぁ。
家には帰らないの?」
「今回は滞在短いから東京までしか来る予定なかったんだ。悪かったな、知らせもしないで。でもよく来てくれたね」
2人の弟の後ろにもう1人、愛らしい顔をした少年がいるのに気が付いた。
「ミチル兄さん、こちらルイ君といってね、アルバイトに来てくれてる大学生」
「藤原ルイといいます。優斗さんにはいつもお世話になっています」
「へえ、優斗の? 珍しいな」
末の弟の優斗は人当たりが良さそうに見えるが、これがなかなか人を寄せ付けない。友達の話なんかも聞いた事がないし、アルバイトを雇うなんて意外だった。僕には小さいころから懐いているんだけど。
昔から黙々とひとり実験するのが好きで、大人になってもずっと薬草の研究をしている。何を思ったか数年前にバーを始めると言い出して、自分の都合の良い夜にだけ細々営業しているそうだ。相変わらず優斗の考える事はよくわからないが、楽しそうにやっているから、まあいいんだろう。
僕らはカウンターに陣取って、5年分のあれやこれやを話した。主に僕のバリの話だ。
ふと暁星が聞いてきた。
「ところで兄さん、昨日はどこに泊まったの?」
「ああ、昨日か」
夢のような時間を思い出し、甘い気持ちで胸がいっぱいになる。
「大学の時の友達に偶然会ってね。つい話が弾んでさ」
「その友達って、誰?」
「え? 誰ってお前…… なんでそんな事きくんだ」
3人の視線が僕に集中する。自分の顔が赤くなってるのを感じる。暁星のヤツ、いっちょ前に僕をからかおうってか、生意気になったもんだ。
しかし3人の顔を見比べて最後にまた暁星を見れば、どうもそういうわけではないらしい。イヤにまじめな顔をしている。
「それはまあ、アレだよ。その、沖田っていってさ。
昔お前らも会った事あるだろ?
あいつ、まだ学園都市に住んでるんだよ。びっくりした」
暁星と優斗が驚いた顔をして目を見合わせる。
「沖田さんって、あの? 誠司さん?」
照れを隠すようにあらぬ方向に目を反らしながら軽くうなずく。
なんで2人そろって、そこをそんなにつっこんでくるんだ? そこはほら、そっとしておいてくれよ。
暁星が僕の顔をじっとのぞきこんでくる。
「おいおい、なんだ? その話はもういいだろ?」
早く別の話題に移ろうぜ、察しろよ。
すると暁星がゆっくり口を開いた。