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桜咲く季節に君と出会い  作者: 汐音
6/9

桜舞う

夕飯の片付けも終えて、僕たちは自然に寄り添って窓辺に座った。

といっても狭い部屋だ。こたつに膝までつっこんだ状態で窓辺に到達できる。小さいこたつだから、並んで脚全部は入らない。あの頃も思ってたけど、狭い部屋は、自然にくっついていられるのがいい。

満月の夜だ。共に過ごせる夜がまた来ようとは。

窓の外に満開の夜桜が見える。

お互いの気持ちが手に取れるようだ。

やわらかい。

心地よい。

これまでどうしていたかとか、この先どうするのかとか、そんな野暮な話はしない。そんな事はどうでもよかった。自然と触れ合う面積が増えていく。指と指を絡ませ合う。どちらからともなく顔を寄せそっと唇を重ねる。花びらに触れるような優しい感触。再び触れる。お互いの存在を確かめ合うように。何度も重ね合い、そして、ただ熱く熱くお互いを求め合う。

命の琴線が震えるような、

満たされる、

それでいて泣きたくなるような……

窓の外には桜の花びらが月明りに照らされながら舞っていた。 


東の空が白みはじめ、疲れはてて眠るまで、僕らは何度も何度も愛し合った。


本当は、ずっと会いたかったんだ……


そうして遅い朝を迎える。

こうして一緒にいると、離れていた年月が現実感を失っていく。本当は長い長い夢を見ていたのだろうか…… いやいや現実はそうじゃない。とりあえず今日やらなくちゃいけないことがあったんだ。


「もう昼近いな。そろそろ起きなくちゃ。今日は弟のところに寄らないと」


「そっか。弟、確か2人いたっけ」


「うん。下のが東京にいるんだ」


「ふうん」


セージはいつもやってくれてたみたいに、厚めのトーストを焼き、インスタントのコーヒーを淹れてくれた。もちろん砂糖もミルクも入っていない。濃さもちょうどよい。何も言わなくとも当たり前に僕の好きなコーヒーが出てくる。そんな些細なことに、また嬉しくなってニヤニヤしてしまう。

それから「午後の講義が終わったらまた会おう」くらいの、そんな当たり前の軽いキスをして階段を軽い足取りでトントン降りて、僕は再びハンドルを握って研究学園都市を後にした。

来てよかった。

セージに再び会えた事が、ただただ嬉しい。

バックミラーで、手を振るセージを何度も何度も見る。どんどん小さくなっていく。セージはずっと大きく手を振っている。思わずふっと笑ってしまう。あいつ、全然変わってない。ずっと手を振って。あんなに大きく両腕上げちゃってさ、ちょっと恥ずかしくなるじゃないか。そういうとこ、昔からホントかわいいんだよな。

カーブ少し手前でウインカーを出し、窓を開けて右腕を精一杯伸ばして、僕も大きく手を振った。



渋滞する首都高を途中で降りて、下道で六本木へ向かう。慣れたルートだ。

都内の道は意外と変わっていない。

目的地は、年の離れた弟がやっている小さなバー。

幸い渋滞も、迷う事もなく到着。店近くのコインパーキングに停めて雑居ビルの階段を降りた。


「ミチル兄さん、お帰りなさい!」


弟が満面の笑顔で迎えてくれた。


「優斗、ただいま。元気だったか?」


その後ろからもう1人顔をのぞかせる。


「兄さん!」


「お! 暁星あきら、お前も来てたのか」


暁星は7つ下、優斗は14歳下の弟だ。陰陽師の家を継いだ暁星は普段、地元に住んでいる。僕が飛び出したせいで家を暁星に押し付けた形になっているのは申し訳なく思うが、実際、長男の僕よりも暁星の方が継ぐにふさわしい能力を生まれ持っている事に誰もが気づいていた。本人も家業が気に入っているようで、それはそれでよかったのだと近年やっと思えるようになった。

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