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桜咲く季節に君と出会い  作者: 汐音
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思わぬ再会

その人影がヒョイっと窓からのりだしてこちらを向いた。やっぱりそうだ。セージだ。

軽く右手を上げ、いつものように笑顔を投げかけてきた。

心臓がどんっどんっと音を立て、鼓動が早くなる。

時間が巻き戻ったようだ。全然変わってない。いや、もしかしたら僕は長い夢でも見ていたのか。

どっちだっていい。

とにかくいつもの窓から

セージが僕に笑いかけている。

気付けば僕は車を降りてアパートの鉄階段を駆け上っていた。


就職したのではなかったのかと聞くと、研究でまた戻って来たのだと言う。

なんだ、やっぱり時間が経ったのは夢ではなかったのだ。

セージも昼飯がまだだと言うので、いつもの角の弁当屋まで一緒に歩いて行くことにした。昔からある弁当屋だ。よく僕に、この店ののり弁を買って来てくれていた。

誰かに部屋に弁当を買って来てもらったのなんて初めてだったんだ。なんだかすごく嬉しかったのを思い出す。

並んで歩くのも久しぶりだ。

なんでもない事を話しながら、肩がついたり離れたりの距離。やっぱりいいな、こういう感じ。隣にセージがいる。僕と話して笑っている。それがこんなにも嬉しい。


アツアツののり弁を受け取り、コンビニでチューハイを買って部屋で食べた。

それにしてもこの部屋、こんなに狭かったかな。

まだこのロフトベッド使ってるんだな。

まだこたつ出してんのか、確かにまだちょっと寒いもんな。


「夕飯はカレー作るよ」


とセージが言う。

狭いキッチンで、小さな一口コンロで。

そういや昔も作ってくれたよな。


僕はこたつに入ったまま、あれこれしゃべる。

空港からここに来るまでの出来事をいちいち詳しく話すと、セージは声をたてて大笑いする。

セージがこんな風だから、僕はますます調子に乗って饒舌になる。

楽しい。

ちょっと迷っちゃったけど、来てよかったよ。

だんだん、カレーのいい香辛料の匂いが部屋に広がって来る。炊飯器もシューシュー白い湯気を吹いて炊き上がってきた。

こんな幸せな時間、久しぶりだ。


「ハイ、できたぞ!

 ミチル、

 誕生日おめでとう!」


えっ? 

あっ、そうだ、

今日は僕の誕生日か。すっかり忘れてた。


「セージ、よく覚えてたな! ありがとう」


「そりゃ覚えてるよ。だから材料買って待ってたんだ。約束したろ? 誕生日にカレー作るって!」


そんな約束してたんだっけ? なんだよ、それ。嬉し過ぎるじゃないか。

両肩が、心臓も、ギューッとなって腹の底から熱いものが込み上げてくる。

そんな約束してたことさえ忘れていたよ。

一生懸命堪えようとするのに、ボロボロ涙がこぼれる。むせびながらスプーンを口に運ぶ。ああこれじゃ味が分からないじゃないか……!


と思いきや、味が分からないという事はなかった。


「セージ、嬉しい

 けどゴメン、これなんだ、

 不味いんだけど……」


「えっ、ホント? あれ?

 ホントに?? 

 ……あ、ホントだ! 不味っ! あれっ?? おかしいな、なんでだろ?」


慌てまくるセージ。

可愛いヤツだ。

笑いが込み上げてくる。


「おい、カレー不味いとか! 逆にスゴイぜ!」


「おっかしーなぁ! いつもは失敗しないのにィ!」


2人で顔を見合わせて大爆笑になった。

不味い不味いと言いながら完食。

味は不味かったけど、その気持ちが何よりも嬉しいんだ。


「風呂入ろう。一緒に入ろうぜ」


「入浴剤どれにする?

 草津の湯か?

 ミチルは草津温泉が好きだもんなぁ。

 はい、コレな!」


何もかもあの頃と同じだ。

あたたかい浴槽なんて久しぶりだ。

気持ちいい。

狭い空間で、狭い浴槽に順番に入りながら他愛ないおしゃべりをする。心が芯まであたたまる。

こんな幸せな時間、本当に久しぶりだよ。


そういえば今晩は都内の弟の家に泊まる予定だったんだ。連絡入れないと心配するだろう。今日は友人宅に泊まるって言っておこう。


空港で買った SIM カードが早速役に立つなと思ったが、電話がつながらない。まったく使えないぜ。

仕方ない、メールでいいか。

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