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ボロい鉄の剣が最強になりました〜偽物勇者、異世界を往く〜  作者: 瞬殺のコバルト
1章・フィラル大森林
8/26

怠惰の誘惑

評価やブクマよろしくお願いします。


木影から現れたのは、俺の腰の高さ程度の大きさのトカゲだった。

目に焼き付くような、この緑に囲まれた大森林の中では珍しい鮮やかなピンク色の鱗を持った謎のトカゲだが、それより目につくのが背中についている羽のようなものだ。


「体長と羽の小ささからして、飛べるようには見えないが……」


羽はまだ未発達と言った感じで、到底飛べるようには見えないがそれでも羽は羽だ。大蜥蜴とは違う種類の魔物であることは明らかだが、こんな魔物は帝国にいた時に教えて貰った記憶はない。


というか、だ。


鋭い鉤爪に硬そうな鱗、小さいとはいえ羽の生えた蜥蜴―――


「これ、(ドラゴン)の幼体じゃないのか……?」


目の前の謎トカゲを観察する。

敵意はないようで、ギャウギャウ鳴きながらそこら辺を無防備に転がったりして遊んでいた。可愛い。


まぁ恐らく、この世界に竜というものが存在するならこれはその幼体なのだろう。というか、ここまでファンタジーに忠実なこの世界に竜がいないとすれば逆に違和感があるくらいだ。

ただ、もしこれが俺の予想通り子供の竜なら、当然親もいる訳で。


「流石に、蜘蛛5匹で死にかけてるような俺たちが親竜に襲われたら即死だろうしな。無視するしかないか……」


親ドラゴンの脅威がある以上、敵対していないなら無視して進むのが得策だろう。夢のドラゴンだ、少し観察してみたいに気持ちに駆られるが背に腹は変えられない。

大蜥蜴の傷だって癒えていないのだ、一刻も早く、村に到着する必要がある。


「ギュル!!!」


欠片も警戒していないピンクの子竜を無視して、俺が隣を進もうとすると、何故か大蜥蜴が抵抗した。

これまで、俺の言うことに従わなかったことは1度も無かったのだが、蜥蜴仲間として無視できない、ということなのだろうか。


まぁ確かに、こんな魔物が出る森でここまで無警戒に寝転がっていては、いつか普通に殺されていても不思議ではない。


「それはちょっと、後味が悪いけど……」


だがまぁ、ドラゴンだから大丈夫だろう。だってドラゴンだ。きっと強いんだろうし。

そもそも何食べるのかとかも分からないのに、無理に決まってる。


俺たちは、他の魔物の面倒を見れるほど強くない。


「よし行くぞ、大蜥蜴!」


最後まで嫌そうに抵抗した大蜥蜴を無理やり引っ張り、俺たちはドラゴンの脇を通って先に進んだ。

後ろを振り向くと、ドラゴンが不思議そうにこちらを見ていたから、俺は痛む左腕を抑えながら、何となく早歩きでその場を去っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


7日目。

大蜥蜴の傷は癒えない。

昨日はドラゴンに遭遇した後大蜥蜴がいよいよ歩くのが辛そうになっていたので、早めに眠ることにした。

この世界だと、夜がとてつもなく長く感じて途中で必ず目覚めてしまう。その度に、魔物が襲ってくるのではないかと警戒していたせいでロクに眠れなかった。


昼頃、魔物に襲われた。

奥に入るにつれて、魔物の数が多くなっている気がする。

犬人(コボルト)3匹を、大蜥蜴を庇いながら必死で戦った。〈剣術〉スキルがレベルアップしたのか、以前より進化した足さばきと剣技のおかげでギリギリ勝てたが、レベルアップは来なかった。


俺が巨大蜘蛛に受けた左腕の傷も以前より悪化して、膿がジュルジュルと滲み出た状態になっている。自分の傷のために水を使うのは勿体ない。

せめて、川に辿りつければ。


まだ、村の姿はない。




8日目。

大蜥蜴が動けなくなった。

辛そうに嘶きを上げている。草だけではなく俺の食糧も削って分け与えたが、回復してくれない。いくら魔物とはいえ、再生には限度があることが分かった。所詮、魔物も生き物なのだ。


俺の左腕の傷は、思ったより深かった。

蜘蛛の体に何らかの細菌が付着していたのかもしれない。

朝起きた時から、吐き気と共に倦怠感が止まらない。体温計が無いので分からないが、かなり高熱を出しているような気がする。


犬人(コボルト)がまた、徒党を組んで現れた。

使うのを躊躇っていた〈初級火魔術〉を初めて使った。森が燃えたが消化することも出来ず、俺たちは必死に逃げた。

レベルアップしたおかげで、痛みが多少マシになった。


水も食糧も限界が近い。俺も大蜥蜴も、傷が悪化してろくに動けない。


村はまだ、影も形もなかった。





そして、9日目―――


「また、お前かよ……」


痛みと熱でろくに動けない俺たちの前に現れたのは、6日目で見たあのピンク色の子竜だった。

以前会った時のように、無邪気に鳴き声を上げて遊んでいる。


もう、以前のような余裕はない。

この世界を舐め腐って、ゲームのように考えていた俺の考え方が甘かったのは、既に痛いほど理解していた。

俺は物語の主人公ではなかったのだ。ただのモブで、何も分からないことだらけのまま終わっていくのだろう。


このまま大蜥蜴と共に死を待つのかと、大木の陰によりかかっていた時に、そのドラゴンは再び現れたのだ。


熱で思考が霞む。頭が上手く回らないし、身体は自分のモノではないかのようにコントロールが効かない。

そんな満身創痍の状態で、だがこの無警戒に寝転ぶ竜を見て、ふと思う。


―――この竜を倒してレベルが上がれば、この状況も多少はマシになるのではないか、と。


我ながら、悪魔のような発想だ。

でも、俺にはもうこうするしかなかった。


何で?何で俺は、こんな世界に来てしまったんだろう。

俺はこの世界で、何をしたかったんだろう。何を成したかったんだろう。

もう、目的も意思も全てが曖昧で、怠惰な霧に全てが霞んでいく。


俺が会いたかったのは、俺が謝りたかったのは、俺が、償いたかったのは―――


もう何も、分からない。

ただ、脳に染み付いた『生き残る』という目的に従って、俺は無警戒に寝転がる子竜に対して剣を振り上げ―――


そして、子竜が発した謎の光に包まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


思考が、一瞬暗転する。


竜に対して剣を振ろうとして、竜が突然、目が焼けるような眩い光を上げた。それに包まれている。俺は今、竜の光に包まれている。


不思議と、身体を包む光は心地よい。

眠気を誘うような、まるで元の世界の、あの柔らかい布団に包まれている時のような―――


ずっとここで、溺れていたい。

異世界のことなんて知ったことか。他人の為に頑張るなんて、下らない。

辛ければ辞めていい。俺はずっと、頑張ってきたんだ。


―――は、俺が傷付いてまで闘うことを望まないはずだ。


―――って、誰だ?


分からない。覚えていない。

だからずっと、この『怠惰』に沈んで―――


【スキル:〈怠惰〉を獲得しました。】


一瞬、そんな何かの声が聞こえた気がした。


「……ぁ」


場面が切り替わるように、俺を包んでいた光が唐突に途切れた。

溢れ出る喪失感と引き替えに、クリアになった視界がフィラル大森林の大木を映し出す。ここは、フィラル大森林。俺は近藤奏多。


朧気な思考が徐々に、「自分」を取り戻していく。

思考が澄んでいき、あれだけ辛かった熱に浮かされる感覚もない。


俺はドラゴンに、何をされたんだ?


ふと、足元で俺に向かって前足を翳す子ドラゴンを見つける。

コイツが、俺に先程の光を放った張本人で間違いないだろう。


あれが攻撃だったとは思えない。現に俺の身体は完全に回復しているし、熱も下がっているように感じる。


「これ、魔術……なのか?」


今放った光が魔術なら、これは治癒効果がある魔術。

つまり、このドラゴンは俺に回復魔術を使ったのだ。自分を、殺そうとした相手に。

それを理解した途端、涙が溢れて止まらなかった。


「済まなかった……本当に。」


俺は、目の前に居るこの小さい竜に頭を下げる。

言葉を理解しているかは分からないが、それでも。


俺が頭を下げると、子竜は不思議そうに首を傾げた。

その様子が可笑しくて、俺は泣きながら笑った。このクソみたいな異世界で、初めて、笑った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


治癒魔術を使う竜に助けられ、全回復した俺は今現在、大蜥蜴を治療していた。


何と、あの竜の使う治癒魔術は、俺の〈天才〉のエクストラスキルでコピー出来たのだ。

どうして出来たのかは分からないが、恐らく魔術系は魔物が使うものでも使用できるということだろう。まぁ、取得したばかりなのでLv1だから、正直大蜥蜴が治る速度はかなり遅い。


俺の右手から放出される白い光が、大蜥蜴の火傷を包み込んでいる。

少しずつ傷が塞がっているところを見ると、恐らく細胞分裂の速度を活性化させて治療しているのだろう。


「ただ、細胞分裂を活性化させる方だと寿命が縮むから、あまり乱発は出来ないな……」


そんな注意を踏まえながら大蜥蜴を治療していくと、ふと身体に力が入らなくなった。意識はクリアなのに、身体のコントロールが一切効かなくなる。


「これ、魔力切れってヤツか……!!」


魔術を使うメカニズムは単純だ。例えば火魔術を使う時を例にすると、


自身の体内にある魔力を『神紋』と呼ばれる器官を通して火属性にする→詠唱によって火属性の魔力に形を与える→再び『神紋』を使って体外に放出する。


という3ステップで実行される。

神紋とは、魔力を体内に取り込んだり、体内に取り込んだ魔力に属性を与える器官のことで、それの性能のことを神紋性能というらしい。

この神紋と呼ばれているものは、魔物を除く全ての生物に共通して存在していて、それはこの世界を作った【神】達が住む世界へと繋がっているのだという。


そして、そんな重要な役割を果たす神紋性能はE-。有体に言うとめちゃくちゃポンコツである。


当然、魔力を取り込む器官がポンコツであれば、治癒魔術で沢山の魔力を消費するとすぐに魔力が枯渇する。

魔力とは、いわばこの世界の空気。身体に欠片も魔力が残ってなければ、体を動かす力が枯渇して一切動けなくなるというのが魔力切れのメカニズムだそうだ。


「すまん、大蜥蜴……中途半端な所で終わっちまった……」


大蜥蜴の身体の火傷はほとんど塞がっていたが、それでもまだ全回復とは言えないまま魔力が尽きてしまった。芋虫のように這って木の根元へと隠れながら、俺は自分のあまりの弱さに歯噛みする。


変な格好で倒れ込んだせいでダサさとキモさが融合したこの世の終わりのようなポーズをしながら魔力が回復するのを待っていると、ふと近くでずっと遊んでいた子竜が大蜥蜴に近付いてきた。


そして


「ギャウー♪」


子竜は楽しそうに声を上げながら、一瞬で大蜥蜴の傷を癒した。

決して浅い傷ではなかったはずなのに、一瞬だけ光に包まれたと思ったらもう全て回復している。


大蜥蜴も、自分の身に何が起こったのかわからず混乱するように周囲を見渡していた。

一体どれだけのスキルレベルなのか考えるだけでも恐ろしくなるが、そんなことはどうでもいい。


―――俺は思い切り息を吸って、言った。


「俺が魔力切れしたの、マジで無駄じゃない!?」


「ギャウー?」


俺の渾身の叫びは、しかし呑気な子竜の鳴き声にかき消される。

それでも、俺はこうして、この竜のおかげでやっと手に入れた安寧の時間に、少しだけ頬を緩めていたのだった。





―――ちなみにその後、俺の魔力が回復するのに3時間ほどかかった。

〈天才〉のスキルで獲得したものは特にナレーションみたいなのはありませんが、普通に自分の力でスキルを獲得した場合は天の声(?)のようなものから通知が届きます。

奏多くんが光に包まれた時に得たアレのことです。


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