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ボロい鉄の剣が最強になりました〜偽物勇者、異世界を往く〜  作者: 瞬殺のコバルト
1章・フィラル大森林
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出会いの日

評価やブクマ、どうぞよろしくお願いします。

犬人(コボルト)とは、一般にある程度のスキルを持った人間であれば単独で倒せるとされるE級に分類される魔物の一種だ。

世界各国に幅広く分布し、中には調教され普通に人間のペットになっている者もいるらしい。


「主な攻撃手段は簡素な枝などの武器や噛みつき、また魔境などで育った個体は追い込まれると土魔術を発動することが多い―――だったか。」


教えて貰ったこの魔物の情報を羅列する。

生きる為、フィラル大森林に出てくる大体の魔物の攻撃手段や性質等は5時間でしっかり覚え切った。

とはいえ、犬人(コボルト)に関してはこの旅の中でもう5回は遭遇しているから、流石にこの情報はもう脳に染み付いている。


初めて遭遇した時、その思わぬ愛らしさに見とれて首をかき斬られそうになった嫌な経験がある俺としては、大人しく大蜥蜴に踏み潰してもらうのが得策だろう。

普通に俺より動きが速いので、火属性魔術が使えないこの状況で正面切って戦うとかなり厄介だったりするのだ。


敵は未だ威嚇したまま動いていない。大蜥蜴にビビっているらしいが、容赦なく仕留めさせてもらう事にした。


「行け、大蜥蜴!」


思い切り、脇腹を2回叩く。突進の合図だ。

刹那、大蜥蜴の爆発的なエネルギーが一気に標的へと加速し、巨大な質量の暴力と化して小さな魔物を蹂躙しようとする。

体感では50キロは出ているだろうその猛スピードに揺られながら、俺はゆっくりと腰の剣を抜いた。


「ガウ!」


あまりに絶望的なそれを見て、恐れ知らずとされる犬人もさすがに焦ったらしい、吠えながら、慌てて避けようとするが―――遅い。


大蜥蜴の圧倒的な質量に、魔物の影は踏み潰されて血煙となる―――



ハズだった。


「グガァ!?」


足元に響く衝撃、大蜥蜴の巨体が大きく揺れ、戸惑うような嘶きとともに猛スピードで巨体が横転して砂埃が舞う。

大蜥蜴が、突然現れた何かにつまづいたのだ。


先程、コボルトが吠えたのは単純に大蜥蜴にビビったからではない。あれは、言霊を核にして魔術に形を与える、いわば魔物なりの『詠唱』。


そう、死の間際で犬人(コボルト)が作り出した小さな土の障壁に、大蜥蜴は躓いたのだ。


「だけど、俺はそんな事知ってるんだよ……!」


俺の大蜥蜴は、どうやらあまり頭が良くない。

この6日間でかなりこの魔物とも出会ったが、こうしてコボルトの土魔術に躓いて吹き飛んだのも初めてではないのだ。


だからこそ、こうなることを予測して剣を抜いた。躓いた後、一番油断している所に不意打ちをして確実に仕留めるために。

コボルトは、土煙に巻かれて周囲が見えていない。大蜥蜴が吹き飛んだ衝撃で空中へと投げ出された俺は、そんなコボルトの姿がよく見える。


〈剣術〉のスキルを使う。身体が、不安定な中空で勝手に形を決めてくれる。コボルトが俺に気付き、悲鳴のような声で吠える。遅い。


「おらぁぁぁぁぁっ!」


少々間抜けな裂帛の気合いをあげながら、俺が落下とともに全力で振り下ろした剣が、コボルトの脳天へと突き刺さり―――


―――白い毛並みを自身の血で紅く染めたコボルトが、脳漿を垂れ流しながらゆっくりと地面に倒れ伏せた。


「ぐべっ」


落下した衝撃を抑えきれず地面に追突し変な悲鳴をあげた俺の身体にも、コボルトの返り血と血の匂いが染み込んでくる。

両手にどっしりと残る頭蓋骨を砕いた感覚が、命を潰したという実感に重みを与えているような気がして、俺は魔物の死体から顔を逸らした。


戦闘の雰囲気にはこの6日間で半ば慣れてしまったような気もするが、この瞬間だけはきっと、何年経ってもなれることは無いだろう。


「まぁ、やっとレベルが上がったから良しとするか。」


―――痛みや不快感とは別に、身体に湧き上がってくる熱いエネルギーの奔流。

自身の身体が書き換えられ、強化される、不安の中に不思議な安心感のあるその現象こそが、「レベルアップ」というものだ。

ステータスを確認できないことには断言は出来ないが、この感覚の後から確実に自分の身体能力が上昇しているのを感じる。


「5日目はたくさん魔物倒したのに一つもレベル上がらなかったのも考えると、レベルが上がるにつれて必要な経験値も高くなってくるみたいなよくあるシステムっぽいな。」


地面に突っ込んで悲鳴(?)を上げている大蜥蜴を救出してから、俺は『レベルアップ』という不思議現象を考察する。正直、情報が少なすぎて推測するしかないのが現状だが、割といい線行ってるのでは無いだろうか。


俺が数えている限りでは、今回のものを含めて6日間で5回レベルが上がったから今の俺はレベル6ということになる。

正直、レベル6というまだまだ始まりの段階でここまでの身体能力になってしまうこの世界が怖い。


恐らく今回のレベルアップでまた素早さが上がったから、いよいよ100m9秒台にも到達できる気がしてきた。

いつか安住の地を手に入れたら、試しにタイムを測ってみるのもいいかもしれない。


「とりあえず、犬人は倒したから進む、か……?」


益体のないことを考えながら、再び大蜥蜴に跨って走り出そうとした瞬間、微かに前方の木の影が揺れる。一瞬見間違えたかと思ったが、違う。

何か、飛び出してくる。


「え、は……?」


俺の目の前に現れたのは、体長1m程の巨大蜘蛛。

それだけなら、大蜥蜴に合図して轢き殺してしまえば済む話なのだが。


「ジジ…」「ジ」「ガ…」「…ギジ」「グジ!」


―――目の前で、五体もの巨大蜘蛛が耳障りな声を上げていた。


脅威度は一般冒険者が複数人で倒す程度のD級上位。

レベルの低い魔境に多く存在し、『初心者殺し』とも言われている魔物だ。

つまり現状、俺が会ってきた中で一番戦いたくない魔物。


耐久力は低く、大蜥蜴が突進すれば反撃の間もなく殺されるのがセオリーだったが、流石に群れだとマズい。


「ここが勝負どころだぞ、俺……!」


大蜥蜴から降りて、剣を抜く。

敵の視線をひしひしと感じながら、俺は剣を構えた。


「行けっ!」


「ギャウッ!」


大蜥蜴に合図を出し、巨体が一匹の蜘蛛へと突進する。想像以上のスピードに狼狽して動きが止まった蜘蛛たちに、俺が背後から接近、〈剣術〉スキルの補佐により強化された一撃が、蜘蛛の体をかっ捌いた。

同時、大蜥蜴の突進が一匹を完膚なきまでに踏み潰し、蜘蛛の総数は一気に三匹に減る。


このまま一気に畳み掛けるため、大蜥蜴に加勢しようとした瞬間。


「ぐ、かはっ……」


剣を振り切って動きの止まった俺に、鋭く光る斬撃が真横からぶち込まれる。

とっさに利き腕はガードしたが、焼け付くような痛みとともに左腕からダラダラと、熱く血が流れるのを感じた。


別の蜘蛛に、鋭い爪で引き裂かれたのだ。


致命的な隙。ここで痛みに負け、完全に動きが止まればこちらの優勢は傾き、確実に負ける。ふざけるな。

こんな、雑魚魔物にやられてたまるか。

なら今、俺に必要なのは―――


「根性、だろうがぁ!」


叫ぶ。同時、無事な利き腕で蜘蛛の連撃を防ぎ、そのまま蜘蛛の二つの脚を根元から完全に斬り捨てる。


「ギギィ!」


攻撃に使っていた脚を無くして悲鳴のような声をあげた蜘蛛を後目に、大蜥蜴が二匹目の蜘蛛を引きちぎる。

これで残り2体。あとは俺が、この満身創痍の蜘蛛を倒せば―――


違う。思い出せ、先程のコボルトとの戦いを。あの時、コボルトの叫びは『詠唱』として世界を改変し、土魔術を顕現させた。

ならば今の、あの蜘蛛の、叫びは―――


「〈衝撃波〉ァ!」


咄嗟に、剣先を蜘蛛へと向けてスキルを発動する。

体内で渦をまく魔力が一点に集中し、純粋な暴力として俺の身体から放出、波動が走る。

同時、蜘蛛の叫びに呼応して生み出されたバレーボール大の火球が俺へと射出され、衝撃波と火球、二つの暴力が衝突した。


純粋な衝撃と火球が互いのエネルギーにより相殺され、炎が分散して自然に消滅する。


「あっぶねぇ……!」


巨大蜘蛛は、危機に陥ると初級火魔術を使うことは知っていたが、これまで毎回瞬殺してきた事もあって油断していた。

咄嗟に衝撃波で相殺していなければ、本当に危なかったかもしれない。


だが。


「これで終わり、だ!」


再び魔術の準備に入ろうとする隙だらけの蜘蛛を、正面からの一撃で断末魔すらあげさせず二等分する。剣先が弧を描き、青い血が飛び散った。

これで、残り一匹。


「ギガ!」


刹那、残り一匹の蜘蛛の叫び声が響く。

違う。これは『詠唱』―――マズい。


―――蜘蛛が生成した先程より大きな火の玉が、大蜥蜴に直撃していた。



明らかに、火魔術のスキルレベルが先の蜘蛛より高い。堅牢な固い鱗で覆われているとはいえ、ゼロ距離から火球をぶつけられたらノーダメージとは行かない。


大蜥蜴が痛みに嘶き、肉の焼ける音が辺りに充満する。


「〈衝撃波〉!」


慌てて発動したスキルで蜘蛛を吹き飛ばし、大蜥蜴に駆け寄って怪我を確認する。

魔術が当たったのは胴体右部分の全域で、直撃した箇所に関しては完全に鱗が焼き切れ肉が僅かに見えていた。


決して軽傷とは言えない大蜥蜴の傷に歯噛みし、とりあえず吹き飛ばされた最後の蜘蛛にトドメを刺す。


「レベルアップ、か。今はそれどころじゃねぇんだけど……」


最後の蜘蛛を倒した瞬間に訪れる充足感、レベルアップが来たらしいが、正直今は大蜥蜴の怪我の対処が優先だ。


とりあえずの応急処置として怪我した箇所に水を流し、支給された包帯でグルグル巻きにする。


「この世界にも破傷風やらが存在してるんだったら、せめて消毒くらいしておきたい所だが……」


残念ながら、そんなものは無い。

貴重な水と包帯を消費しても、出来ることはこの程度。自分たちのあまりの状況の悪さに、俺は拳を握りしめるしかなかった。


「この状態じゃあ、大蜥蜴に乗ることは出来ない。なんとか徒歩で村まで行くしない……か。」


置いていくという選択肢はない。

いくら傷があるからと言ってここに置いていけば、手負いの大蜥蜴は確実に殺される。


多少痛くても、無理をしてもらう他ないだろう。


「ああクソ、状況が良くならねぇ……!」


どん詰まりの状況に悪態をついている俺に、ふと、大蜥蜴が嘶いた。

痛みを伝えたいのかとも思ったが、大蜥蜴は視線を前方に向けたまま動かない。何かいると警戒を呼びかけているのだと、本能的に伝わった。


また魔物が出たのかと思い、再び剣を引き抜いた俺がゆっくりと振り返ると―――




「ギャア?」


ピンク色の、羽が生えたトカゲと、目が合った。

『魔法』と『魔術』は違います。

基本的に火球とか作り出すやつは全般『魔術』です。

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