出来損ないの守護者
あんま投稿できてなくてすいません!
「〈神殺し〉!!」
長い瞑想の上、血を吐くように叫んだカレジの声が大森林に響き渡る。
直後、大気が軋むような音を立てながら魔術が徐々に構成されていく。
大きくなっていく白い輝きと限界まで高まった魔力は背を向けていても感じ取れるようで、ハイ・オークはこれまでにない程焦っている。
なんとか剣を手放そうとするが、俺の土魔術で完全に固定されているし、俺自身も聖属性魔術を重ねがけしていた。
それでもオークの圧倒的な膂力に何度も吹き飛ばされそうになるが、今ここで俺が手を離したら終わりなのだ。
痛む手の平を気にせず、必死に漆黒の大剣にしがみつく。
痛みの感覚などとうに消えた。手の平からの出血が夥しい量になっているが、使命感とどうにでもなれというやけっぱちの感情が入り交じってなんとか手を離さないまま耐えることができていた。
とはいえ、それが持つのもあと少しだ。
オークに振り回される感覚と出血で段々と意識が朦朧としてきて、目の焦点が合わなくなってくる。
気力と強化された体力だけで必死にこらえていた俺の視界はぼやけ、朧気に映るのは己が手が掴む漆黒の大剣と頭上で輝く神聖な牙。
その牙は、のろのろとしているものの少しずつ少しずつ世界に創造されていき、そしてそれが顕現すれば確実にこのオークを殺せるのだ。
その希望に曖昧な思考が必死にしがみつき、俺の身体を限界直前までフル稼働させる。
オークの焦った声がぼんやりと鼓膜に響き、同時に剣を引きはがそうとする力がより1層強まったのを感じた。
手から垂れてきた血はやがて身体にまで這っていき、虚ろな視界の中でも俺の真下に赤黒い血溜まりができているのを認識できた。
生に固執する俺の中の本能が必死に手を離すよう叫ぶが、それを無理やり捻じ曲げて自分の意地を貫き通す。
カレジを庇った時の超加速によるダメージも未だ癒しきれておらず、直後の負荷により恐らく俺の体は何本か骨が折れている所もあるはずだ。
溢れ出るアドレナリンが痛みを認識させなくても、それは身体に影響が出ないという訳でもない。牙が完成するまであと少しであることは高まる魔力でなんとなく理解出来たが、もはや俺自身の身体は完全に限界を迎えている。
もうとっくに倒れていてもおかしくない状況でなんとか堪え、俺は少しでも時間が稼げるように必死で食らいつく。
あの国から逃げ出して、どこにも居場所がないように感じた俺を匿い、この残酷な異世界で生き抜く術を与えてくれたこの少女を、俺は命を賭してでも救わなければいけない。
そして、徐々に狭くなる視界の端に俺の血以外の赤い物体が見えたような気がした。それは多分カレジが愛用している紅の宝玉で、それが光るのは魔術を完了させた時だけ。
「……あ?」
それがつまりどういうことなのか、上手く働かない思考がその答えに辿り着く前に、世界が轟音をあげてようやくその牙を完全に顕現させる。
オークが悲痛な声で叫び、俺の意識もその全てを照らすような美しい光にほんの少しだけ覚醒した。
それが顕現してからは、その後の事柄はあっという間に過ぎ去っていく。
カレジが額に脂汗を浮かべ、苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながらも上げていた手を勢いよく振り下ろす。そしてそれと連動するように、死の恐怖の前でもがくオークの頭上に形成された聖なる牙がオークの身体を脳天から貫いた。
分厚い脂肪と筋肉の鎧をまるで豆腐を斬るかのように滑らかに穿たれたオークに巨大な穴が開き、宙に消えるかように形を失った牙を称えるかのように開かれた穴から血飛沫が盛大に飛び出していく。
力を失ったオークが崩れ落ち、ずっと掴んでいた大剣を地面に下ろす。
俺の体は返り血と自分の血でぼろぼろで、やっと身の危険が去った安堵に血塗れた大地に寝転がる。
アドレナリンの生成が止まり、全身を貫く激痛に耐えながらも、俺は勝利の余韻に浸っていた。
朧気ながら必死に保っていた意識は少しずつ暗闇に溶け、睡魔に襲われるように閉じていく目がやがて何も映さなくなる。
オークを倒したあの少女の事が気がかりではあったが、もう様子を確かめる程の僅かな体力も残っていなかった。
傍らで崩れ落ちるオークの死体に寄りかかりながら、生暖かい血溜まりの中で意識を失う俺は、残った僅かな思考能力が訴える何かへの警鐘に気付くことも無く、疲れきった子供のように沈んでいく。
「グバァァアアア!!」
亡骸だらけの戦場で取り残されたオークたちと、1匹のドラゴンとの戦いが始まるのは、このすぐ後の話だった。
ハイ・オークが、突如現れた巨大な牙に貫かれたのを、彼はーーー豚人術師はただ呆然と見ていることしかできなかった。
オークたちの後方でその様子を眺める彼は、オークとは信じられぬ程達観した動きで息を吐いた。
その様子は確実に敗者のもので、事切れたハイ・オークの仇をとるなど魔物の愚かな思考は一切見られない。
指揮を任せているはずの豚将軍は全員死んだのだろうか、一般のオークは怒りの咆哮をあげ続々と飛び込んでいく。
それはまさしく飛んで火に入る夏の虫で、その全てをドラゴンの鋭い爪が撃ち漏らすことなく切り裂いていった。
「一般のオーク兵では話にならない。おそらく上位種はもう私と王だけだろうな。」
そう、豚人術師は人間の言葉を使って独り言を口にする。それに周囲の護衛オークたちが怪訝な顔をするが、彼はそれを気にすることなく群れへと進み出す。
それはとてもゆっくりとした歩みで、こうしている間にも仲間が死んでいるのを忘れているかのような行動。
しかし彼の背には何故か哀愁が漂っていて、まるでこの群れを終わらせるのを惜しんでいるように思えた。
彼にとって、この群れが出来てからの1年はこれまでの生の中で最高の期間だったことに間違いはないだろう。
大暴走で人間たちに捕まり、命からがら逃げ出して故郷に帰ってきた彼に手を差し伸べてくれた豚人ノ王。
その群れは小規模ではあったが、上位個体の多さや一般のオーク兵の強さは最高レベルだった。
1度群れからはぐれたオークを受け入れてくれる所など少なく、そしてその戦力の豊富さから打算的な理由で群れに仲間入りした彼は、群れの制度改革に勤しんだ。
豚戦士が一般オーク兵たちに戦闘のいろはを教え、彼自身はスタンピードの時に学んだ戦略を豚将軍に叩き込んでいく。
豚斥候らと狩りに出かけ、時に王と群れについて話し合う。
少しずつではあるが、彼が抱いていた打算的な感情は 徐々に暖かいものへと変わっていき、そして気付けば今こうして群れを守るため強敵の矢面に立っている。
どこで、間違ってしまったのだろうか。
未だ闘おうとするオークたちを手で制し、同胞の血が染み付いたこの大地を踏みしめながらぼんやりと考える。
彼に魔術を教わっていた豚人術師と共に磨き上げてきた水魔術は、確実にあのエルフの首を折っていた筈。
何らかの手段によって復活したのだろうが、それにしても致命傷を防ぐなど規格外すぎる。
かつての、大暴走を起こした群れの王が言っていた言葉を思い出す。
人間の言葉を習い、今の魔術を教えて貰った恩師。そんなかつての王が、拠点の岩山で彼に警告するように口にした言葉。
「人間や、その仲間たちっていうのは、隠し事をするのがうめぇんだ。絶対に、油断しちゃいけねぇぞ。」
その警告をもっと深刻に受け入れていればと、今となっては過去の自分を殴りたいだろう失態。
彼の愚かな判断1つで、この地に多くの同胞が散っていった。
王は大怪我を負い今は拠点で療養中、魔術を教え、多くの時を共に過ごした弟子はドラゴンに殺され、よく狩りに出掛ける仲だった豚斥候や豚戦士、指揮を1から教えた豚将軍たち。
どこからか、怨嗟の声が聞こえたような気がして、彼は唇を噛み締める。
それは、群れで1番年長でありながらこの群れを守りきれなかった彼への呪い。
群れを纏めるものの一角として、完全に失格。
何も守れなかった彼は、せめて王と交わした約束だけは守ろうと口を開く。
目の前には、攻撃が止まったことに怪訝な表情をする人間とドラゴンたち。
「我々は、これ以上犠牲を出したくない。こちらの負けを認め、あなた方に下ることをお約束します。どうか、どうか慈悲を……!」
これが、王の命令だった。
負けそうになったら、群れを守るために敵へと下れと。
だから、彼は責任感のままにそう大声で叫び、意地もなく地へと頭を擦り付ける。
憎かった。弟子を殺したドラゴンが。仲間たちを殺した人間が。
今すぐにでも飛びかかりたい衝動を必死にこらえ、彼は頭を下げ続ける。
耐え難い屈辱を抑え、群れを守れなかったオークは憐れな姿で必死に頼み込む。
仲間を殺した彼らの慈悲に縋り付くように。
ーーかつての王がこれを見たら、きっと怒り狂うだろうな。
そう、遠い記憶の中にあるあの王の姿を思い出し、心の中だけで苦笑する。
オークと人間との交渉が成功するのは、その数分後の事だった。
豚人術師 B+級 Lv81
筋力 12
防御 157
素早さ 60
体力 214
神紋性能S+
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通常スキル
水魔術Lv:10 魔力操作Lv:8 詠唱短縮Lv:2 直感Lv:4
集団戦法Lv:9 教育Lv:3
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称号スキル
〈群れの守護者〉 〈狂術師〉 〈熟練魔術師〉 〈王に仕える者〉
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