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ボロい鉄の剣が最強になりました〜偽物勇者、異世界を往く〜  作者: 瞬殺のコバルト
1章・フィラル大森林
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オーク・レンジャー

「グボォオオオオオ!」


オークが、くぐもった悲鳴をあげて崩れ落ちる。首を切り裂かれ、血を噴出したそのオークに他のオーク達も僅かにたじろぎ、動きが止まっている所を更に迸る俺の剣閃が貫いた。


続々と殺されていくオークに、この包囲網の指揮をとっているオークリーダーにも焦りが見えてきている。

少し勝ちの目が見えてきたことに安堵して、俺は体を翻して別のオークへと距離を詰めーーー


(カナタ、避けろ!)


焦ったように聞こえる叫び声に反応できたのは、まさに奇跡と言っても過言ではない。


オークから無理な挙動で距離をとり、そして目の端に映る剣撃に戦慄する。

今のは、剣の精が教えてくれなかったら脳天を割かれていた。


危機一髪の回避に安心する暇もなく、真後ろから攻撃を放ってきたオークへ体を向ける。

後ろにもオークがいるので、同時に警戒するのはかなり難しいが、それでも今の攻撃を放ってきた手練のオークに背を向けることの方が危険だと判断しての行動。


そうして身体を移動させた直後、視界に敵の姿が映るより前に再び迸る剣閃になんとか身を捩り回避する。

身体能力任せの動きに身体が悲鳴をあげるが、〈超加速〉程の負担ではない。


ここ数週間で慣れてしまった痛みを完全に無視して、ようやっと敵の姿を視認する。


「なんだこれ、オークか?」


それは、150cm程の魔物。肌の色や、吊り上がった鼻は完全にオークのものだが、身長は俺より低く、身体も細い。

子供かと思ったが、あの剣撃は完全に通常のオークとは違う、種の限界を超越した動きだ。


つまり、上位種。


新たな強敵の出現に息を呑み、その手に持っている武器が短剣であることにまた驚く。

剣撃があまりに早かった故分からなかったが、それは青い刺繍が施されたいかにも上等な短剣。


小柄な体型といい、明らかに普通のオークが使うゴリ押しではない戦法を使ってくるだろう。

豚人ノ王(オーク・キング)ではないだけマシだが、それでも厳しい状況であることに違いはない。


最悪、自我交換で剣の精(エンディル)に全て任せてしまうこともあるかもしれない。

だが、そこまでせずに勝ちたいというのが、俺の正直な想いだ。


自我交換というのは、あくまで強い他者に全てを押し付けるだけ。そんなもので、そんな借り物の力で俺は大蜥蜴を救いたくないし、何もかも剣の精(エンディル)に頼っていたら、いつか後悔する時がくる。


そんな確信が俺には何故かあった。

だから、せめてこの敵は俺が倒す。


「はぁあああああ!」


そう決意を固めた俺は裂帛の気合をあげて地を蹴り、土煙が上がると同時に一瞬でオークとの距離を詰める。

それは、超加速(ブースト)には及ばない迄も人外の速度。


周囲の景色が流れるように動き、そして目の前に現れた小柄なオークに剣を叩きつけようとしてーーー


地面からせりあがってきた硬質な岩の壁に阻まれていた。


かなりの勢いで衝突した剣と壁は、金属がぶつかり合うような甲高い音をあげる。その衝突で勝つのは当然岩壁で、俺は無防備な姿を晒してしまう。

それは、いくら魔剣であっても貫けないかなり熟練した土魔術。


突進の勢いのままに弾かれ、倒れ込むまではいかないまでも相当な隙を晒していた。

そして当然、それを見逃すオークであるはずがなかった。


一瞬で融けるように消えた岩壁があった場所を通り抜け、そのオークは電光石火の速度で迫ってくる。

残像すら追えない規格外のスピードは、俺の超加速・2連の型(ブースト・セカンド)にも迫る勢いだろう。


オーク・キングでも、速さという1点では負けているだろうと確信できるその種族を超越した動きに、俺は当然対応できる筈もなかった。


だがこの世界には、例え目で追えなくても呟くだけで発動する防御手段もあるのだ。故に俺は鍛え上げてきたそれを使い、自分の手の届かない相手にもなんとか牙を届かせる。


即座に魔力を練り、身体の中心ーーー〈神紋〉を通じて魔力を形作るその感覚は、もはや慣れてしまったもので。

当初、魔力を練るだけでも数十秒はかかったというのに、今ではぎりぎりで小柄なオークの一撃にも間に合わせる程の熟練度へと達していた。


恐らくだが、あのオークはその速さで移動しても周囲が見えているだろう。俺のように魔術で無理やり動かすのではなく、それが生態上の身体能力ならば、それでも感覚を失わない程の動体視力を兼ね備えていてもおかしくない。


無論見えていない可能性もあるが、万が一のことを考えて全方位を囲むように形を作る。

咄嗟であるため多少防御力は落ちるが、スピード型であるこのオークに魔術を貫ける程の攻撃力はない。……と、信じたい。


なんだか、想像に頼ってばかりだなと自嘲しつつ、俺は目前に迫ったオークが短剣を振り上げる直前に魔術を詠唱する。


護りし者(ガーディアン)!」


それは到底俺が対応できないスピードで振るわれていたが、直前で目の前に展開される青白い障壁に弾かれる。


大気を切り裂く速度で振るわれた短剣が、幾何学模様の短剣と衝突した瞬間、金属と金属がぶつかるような硬質な音が大気に響きく。

受け止められたことに小柄なオークの表情が驚愕に歪むのが至近距離で見えたが、それでも百戦錬磨のオークは止まらない。


それは恐らく、豚人術師(オーク・マジシャン)の魔術を見ていたことによる動揺の少なさもあるだろう。

どっちにしろ小柄なオークはその動きをとめず、俺を囲うように展開される障壁に360度から攻撃を開始する。


その激しさに周囲のオークも割り込めず、ただ呆然と見守るばかり。物凄いスピードで振るわれる剣閃に、障壁に守られる俺も反撃のタイミングが見計らえない。

だが、たとえ反撃ができなくても動きを読み取ることはできる。


この障壁は、俺が今出せる中でも最高レベルの硬度を誇る魔術。

土を使う攻撃より、「護る」という事に焦点を置いている土魔術は、いくら手練のオークでもそう簡単に壊れはしない。


だから、俺は壁の中で精神を集中させる。

それはこの3週間で作り上げてきた技術。それに、レベルが上がったことによる身体能力の向上が生み出した極限の力。


異世界に来てからの血のにじむような努力や、何度も死ぬような思いをしてようやく辿り着いた境地。

それはまだ端を覗いただけではあるものの、3週間の中で数々の死闘を繰り広げてきた俺の実力。


「〈剣掴み〉!!」


2週間、空いた時間で訓練をし続けた俺の手は既にぼろぼろで、ついこの間まで普通の少年であったことが信じられないだろう。

その努力で、とうとうスキル認定されるまでに至ったそれは、いくらスピード特化のオークでも逃れるまでには行かなかった。


外からは絶対に攻撃を通さない護りし者(ガーディアン)だが、障壁展開者が任意で内側からなら攻撃を通すことが出来る。

俺のスキルは正確にいえば攻撃ではないが、敵意のあるものを通す、というのが正式な条件であるらしいので、一応内側から通る。


だから、オークの剣撃が一切通用しなかった障壁を軽々とすり抜ける俺の手が、風を纏い振るわれるオークの短剣を掴んだ。

鋭い刃先を掴む俺の手は、だがスキルの補正でダメージが通らない。


剣を掴まれたことに動揺したオークが必死に短剣を取り戻そうとするが、これもスキルを発動したことによる筋力の大幅強化で上位種たるオークの力をねじ伏せる。


取り出したもう片方の手を未だ踏ん張っているオークの胴体に回すとがっちりと掴み、土魔術を応用して俺とオークを固い土で固定する。


これで、このオークは俺から逃げられない。


「せめて、大人しく短剣を諦めてたらまだ勝ち目があったかもな」


それは、ほんの少しの小さなミス。だが、それだけで呆気なく命を落としてしまう残酷なこの世界では、それすら許してくれない。


俺は障壁を展開したまま、土魔術で固定している左手で練った魔力を一気に放出する。


石乱射(ストーン・バレット)!!」


ゼロ距離から放たれたそれは容赦なく小柄なオークの華奢な肉体を貫通し、あまりの痛みに叫び声をあげる敵はやがて崩れ落ちた。


それを、周囲で呆然としているオークが認識したのはその数秒後。小柄なオークを倒したことにより身体にみなぎる活力を俺が自覚するのと、ほぼ同程度の時間だった。


だが、それも致し方ないことではあったのだ。

恐らくこの包囲網の中で最高戦力であるオークの死に、手下や豚将軍(オーク・リーダー)でさえも絶望が隠せない。


実際、オーク達からしてみれば豚戦士(オーク・ソルジャー)と並ぶ最高位の個体であった豚斥候(オーク・レンジャー)が死に絶えたのだ。それは酷く絶望的な状況で、もはや勝ち目はないに等しい。


それでも成人したばかりの血気盛んな若オークが先走り、雄叫びを上げながら俺に迫ってくるのを皮切りに、流されるのように他のオーク達もなだれこんでくる。





ーーーオークの包囲網を壊滅させた俺が、同じく包囲網を突破していたカレジからその小柄なオークの名が〈豚斥候(オーク・レンジャー)〉であることを聞いたのは、それから数十分後のことだ。


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