やがて悲劇を産み出さん (妹視点)
後回しにしていた妹回です。
少し短めなのは許して下さい。
窓越しに振る雪は、街を、世界を白く染めていく。
都心部では絶対にお目にかかれないその絶景に、だがしかしその景色を目の当たりにした少女の顔は晴れない。
火傷を負った右腕に包帯を巻き、ベッドで寝転びながら景色をぼんやり眺める少女の名は、近藤舞香。
とある県のとある病院に入院して3週間が経つ。入院した当初の記憶は曖昧で、ベッドで横になる少女を見て泣き崩れる両親の姿を、なんとなく覚えているだけだった。
ただ、最近やっと意識がはっきりしてきた少女は、ここ数日眠れない日々が続いていた。
たまに見舞いに来てくれる両親や友人の言葉にもあまり反応出来ず、頭の中をしめるのはあの日のことだけ。
大量の雪が振ったその日、彼女の家を襲った火事は、人間が人間たる何かを彼女から奪っていった。
見舞いの人や看護師がいなくなり、部屋で1人きりになると、いつもあの時の事を鮮明に思い出してしまう。
フラッシュバックするそれはいつも同じ光景で。
轟音をあげて崩落する天井から彼女を守った兄の姿が見えなくなり、その後近所の住人の通報で出動した消防官に呆然とする自分が保護される時まで。
その地獄のような光景を、彼女は何度も、何度も思い出して一人きりで泣くのがここ数日の流れとなっている。
火事の原因は未だ分からず、警察は「放火」の方向でも事件を捜査していると、数日前に見舞いに来た母がつけたテレビでナレーターが無機質に語っているのが見えた。
明らかに動揺した母が慌てて番組を変えたが、しかしその情報は彼女にとって忘れられるものではない。
父は仕事が忙しいらしく、母より見舞いにくる頻度はさらに低い。
両親の顔はともに窶れ、事件のショックから立ち直れていないのは明らかだった。
それほど、兄の死は家族にとって重いものだったのだ。
死んだように生きる彼女とその家族は、傍から見ても痛々しいものだったのだろう。
全治1ヶ月程の火傷は段々と軽くなり、既にリハビリの段階に入っているが、彼女の友人が見舞いにくることはもう殆どなかった。
それは、つい3週間前まで明るかった友達の瞳に狂気が宿っているのを、本能的に感じ取ってしまったからかもしれない。
とにかく、今学校に復帰したからといって、もう前のような生活を送ることは不可能だった。
雪は、その全てを平等に白く染める。
ここ数週間で、以前とは比べ物にならない程成熟してしまった精神は、幸か不幸か、〈召喚魔術〉は彼女を今度こそ逃さなかった。
「ーーー?」
呆然と景色を眺める彼女に、微かな揺れが体に響くのが分かった。
その揺れは、やがて気の所為では誤魔化せない程大きな揺れとなりーーー
「きゃ、ああぁぁぁああ!?」
やがて、誰もがそれを大地震だと理解する程の揺れへと昇華した。
悲鳴をあげる少女は、だがまさかあんなことが起こるなんて想定すらしていなかったに違いない。
この病院はまだ経ってから5年ほど。
最新鋭とは行かないまでも、かなり充実した設備を持つそれなりに立派な場所である。
劣化は特に見られず、耐震工事もしっかりと施していた。
「え、あ?」
揺れでベッドから投げ出され、火傷を負った右腕の痛みに絶叫する直前。轟音と、病室の外から響く悲鳴に、彼女はふと上を見る。
未だ揺れの収まらない病院の天井からは、ぱらぱらと塗装が禿げてきていて。
それに危機感を抱いたのと、病院が崩落したのはほぼ同時だった。
叫び声すら上げられず、少女は数多の屍と共に瓦礫の中に消えて。
彼女の病室である3階より下は、生存者がいた4階、5階とは比べ物にならない有様だったという。
そのニュースを聞いた母が、数日後に首を吊って見つかるのはまた別の話だ。
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わたしの名前は、近藤舞香。
とある事情で病院に入院していたのだが、突如起きた大地震に崩落した病院にぺしゃんこにされてしまった。
そこから先の記憶はないので、おそらく意識を失っていたのだろう。
いや、普通は死んでいる。
だが私は何故かこんな風に思考ができているし、目の前には普通の光景ーーー否、少しだけ「普段」とは違う光景ではあったが。
とにかく、私は生きているし、何故か知らないが怪我も無くなっている。
もっと奇妙なのは、私がこうやって能天気に考えていることだ。
自分でも意味が分からないが、私はついさっきまで再起不能な程落ち込んでいた筈で。
少なくとも、以前のように能天気な思考は出来なかったはずなんだけど……。
と、1度に色んなことが起こりすぎてあまりの混乱に状況がよく呑み込めなかったけど、目の前に広がる光景も相当謎。
何せ、私は石造りの巨大な部屋で突っ立っていて、私を崇めるように赤ローブのおじさん達が騒いでいる。
「この覇気……これは、確かに勇者だ!」
「今すぐコアの移植を開始しろ!」
何やら訳の分からないことを、おじさんたちが叫んでいる。
怖くて話しかけられないけれど、私がすごいことはなんとなく理解出来た。
とりあえずドヤ顔をしてふんぞり返ると、赤ローブの男たちからわっと歓声があがる。
その反応に私は少し良い気になってしまって、様々なポーズを決めていたのだが。
しばらくすると、おじさんたちの1人が私の前に現れる。
その手には、部屋全体を照らすように光る橙色の宝玉。
それは、私の前に現れるとより一層強く光り、まるで喜ぶように脈打った。あまりに幻想的な光景に私は今の状況を忘れて息を呑み、おじさんが掲げるその宝玉に思わず手を伸ばす。
それをおじさんは拒まず、私が触れるのを待ち望むように微動だにしない。
先程まであれだけ煩かった周囲のおじさん達も黙り込み、まるで神聖な儀式を行うような雰囲気になっている。
よくわかんないけど、とりあえず触ってみよう。
そして、私の手が宝玉に触れた瞬間ーーー
「え?」
息が抜けるように、私は意識を失い。
なんとなく自分が光に包まれているのを感じながら、私の意識は起き上がってくることもなく消えていった。
〈残虐の勇者〉 コンドー・マイカが誕生したのは、この時であった。
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ていうか、PVが伸びなくなってきた……
やばいです。。。




