優しさは刃となりて
面白かったら評価やブクマ、感想をよろしくお願いします。
というのを、前書きで書く僕。
オークからの襲撃が起こったその日。
ぼろぼろになった庭と、家を修復するためカレジは一日中働いていた。
土属性魔術の適正を持つ俺も手伝おうとしたのだが、こんな所で無駄に魔力を使うなとかなり強めに怒られてしまい、今は家の中でも幸い破損が少なかった自分の部屋でふて寝している。
ちなみに今日カレジに課されたノルマは、「身体を休めること」だ。
確かに、俺は度重なる戦闘で身体の節々が痛み、自動回復でも誤魔化せないレベルの痛みはある。
それでも、オークに遅れをとる程ではない。
無理を通せば〈超加速〉も使えるし、身体能力が40パーセント落ちてもこの3週間で鍛えた剣技は変わらない。
故に俺は、明日の出発にやはり納得はできなかった。
それでも、もしオークリーダーやオーク・マジシャン等の上位種と当たってしまえば、勝ち目がないことは俺も分かっている。
明日にならないと切り札である自我交換も使えないし、カレジの言い分に筋が通っていることも事実なのだ。
「でも、それじゃ大蜥蜴が……」
そう、俺の1番の不安と、カレジのやり方に反抗的な態度をとってしまう理由がそれだ。
このままでは、大怪我を負った大蜥蜴が死んでしまう可能性もあるのだ。
いくら自己再生力が高いからと言って、早いに越したことはないし、生き残れていても、オーク共の食料になってしまう危険も拭えない。
不安だらけの状況で、ベッドにくるまって様々なことを考えていると、あっという間に夜が明けた。
寝れたのは4時間程度。
全く休息になっていないが、ステータスの低下は治った。
節々の痛みは自動回復で気にならなくなったし、カレジも庭の整備が終わったあとしっかりと寝て魔力を回復させたらしい。
カレジを手伝っていたヒルクは治癒魔術で既に傷1つなく、万全の状態。大蜥蜴が攫われたことは理解しているらしく、雄叫びをあげて張り切っていた。
時刻は早朝、俺の体感だと大体午前6時くらい。
昨日、オークの襲撃が起こった時間とほぼ同じ時間に、俺たちは立場を逆にして襲撃しようとしていた。
オークを追う手掛かりは、森を突っ切った痕。あれだけの大人数が森を移動したら、当然土は踏み固まり枝も折れる。
案の定周囲を探索したら発見した獣道は1本しかなく、行きも帰りも同じルートを通っていったことが分かる。
つまり、これを進めばオークの本拠地に辿り着ける。
俺たちは少人数だが、家を襲撃したあの人数なら簡単に殲滅できるだろう。
不安要素は、オークたちが本拠地に残した予備戦力。
そこに残った上位種の数にもよるが、その数がかなり多ければ厳しい闘いになることは間違いなかった。
だが、ここで豚人ノ王を倒しきらなければ、後々大きな災厄となって襲ってくるはずだ。弱った今の内に叩かなければ、後悔することになる。
それは、オークの生態をカレジから聞いた俺の推測。
オークは1週間程度で成人するらしいので、簡単に戦力が補充できる。王が治療を終えてしまえば、さらに厄介なことになるはずだ。
そう考えると、俺たちを襲ったオークは比較的少人数であったように思える。
それでもかなり手強かったが、やはり巣に大多数が残っていることは確かだろう。
なにより、大蜥蜴を助け出さなければならない。
正直言えば、今生きているかさえ怪しい所。そんな賭けに命を使う俺はやはり馬鹿なのだと、自嘲してしまう。
ふと、妹によく言われた言葉が蘇る。
それは、まだ数ヶ月しか経っていないのにとても懐かしい記憶で、今も思い出せば痛みが走るあの世界での出来事。
その日は何故か妹が不機嫌で、俺をやけに拒絶してきた。
これが反抗期かと感極まりながら、それでもめげずに妹に擦り寄っていた時。
久しぶりに帰ってきた母と、俺たち兄妹でデパートに行った。
デパートは地域最大規模で人混みが凄かったが、俺は妹の機嫌を直そうと必死だった。
呆れる母が店の中に入り、俺たちは通路で待っていた。
当然その時も、俺は必死に妹に話しかけていたが、やはり妹は話してくれない。
それでもしつこく話していると、いい加減妹の堪忍袋の緒が切れた。
「お兄ちゃんしつこい!もう大っ嫌いっ!」
その大声はしかしデパートの騒音に紛れて消えていったが、だが俺の耳にはしっかりと届いた。
流石にそれは普通に傷つき、どこかへ行ってしまった妹を追いかける気力もなく、先程まで座っていたソファに力なくへたりこんでいた。
周囲の視線を感じながら、それでもショックから立ち直れない俺の目の端に、妹を見つけたのは完全に偶然だった。
妹は何故か黒スーツを纏い、いかにもヤクザといった親父に絡まれていて、周囲の人が避けるように歩いていたのも要因の一つだっただろう。
俺は慌てて妹へ駆け寄り、目が潤んでいた妹に声をかける。
「どうした、何があったんだ?」
ヤクザから守るように妹の前に立つが、妹は何も言わず震えるだけ。
すると、ヤクザが口を開いた。
「そこのガキがおれにぶつかってきたんだよ。どう落とし前つけてくれんだ?」
うわあ、マジモンのヤクザだ。
俺はそう思ったが、どうするか考えるより先に身体が動いた。
土下座だ。
「ほんっとうに、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁあ!!」
さらに追い打ちをかけるように叫ぶ。
そのカオスな状況は、いくら混沌が渦巻くデパートでも流石に目立つ。周囲の目線が一斉にこちらに集中し、行動の早いものは写真をとったり近くの警備員を呼んできたりしている。
注目がこちらに集まったのを悟ったのだろう、流石にヤクザもびびったのか、慌てて逃げる。
「なんだこのガキ、頭おかしいのか……?」
そう捨て台詞を吐かれたが俺は妹を助けることが出来たことができた。
それは、ネット界隈で話題になるくらい有名になったのだが、その知名度などはどうでもいい。
その時、妹は消え入りそうな声で言ったのだ。
「お兄ちゃんは、優しすぎるよ……」
それは、悪口ではない。
だがどこか、詰るような響きのあったそれを、俺は忘れられなかった。
崩落した天井から自分を助けた兄を、あの子はどう思うのだろうか。
「辞めよう、今は、目の前に集中しないと。」
それを考えるのはあまりに残酷な気がして、俺は思考を途切れさせた。
大蜥蜴を救いオークも滅ぼし、さっさと元の世界に戻らなければ。
そう、改めて決意を固めた俺に、カレジが声をかけた。
「カナタ、そろそろ行くよ。上位種と遭遇しない限り、〈超加速〉の使用は避けて。あくまで今回は奇襲、全滅は狙っちゃダメよ。」
そう、普段は飄々としているカレジがこれ以上無いほど真剣に俺に語りかけてくる。両手に持つ紅蓮の宝玉が嵌め込まれた大杖がより一層輝き、血を求めるように蠢いていた。
「分かりました。行きましょう。」
俺はそう答え、引き抜いた剣がきらりと煌めく。
その俺の言葉に頷いたカレジが、ヒルクに合図すると獣道を進み出す。
足場はかなり悪いが、旅路で進んできた道ほどではない。
それでもきつく感じるのは、やはり大蜥蜴がいないからだ。
俺は異世界に来てから、あいつに頼りきりだったな。
改めてそれを実感し、それでも取り戻すため必死に進む。
歩き始めて4時間ほど。かなりきつくなり、休憩する場所を探していた時だ。ふと乱雑な獣道が消え、目の前に木が生えていない小さなスペースが広がる。
よく見ると端には木を切ったあとがあり、それは人工的に作られたものであることが理解出来る。
だがそれより俺の目を引いたのは、そのスペースの中央に倒れ込んだ影。
漆黒の鱗は赤黒く汚れていて、所々に傷がある。ボロボロで意識もなく、しかし浅い呼吸を繰り返しているのはその巨体で辛うじて分かった。
「大蜥蜴!?」
生きていたことの安堵と、突然の事態への困惑が入り交じった叫び。「何故」があまりにも多かったが、すぐに治療をしなければというのを真っ白の頭で考え、血溜まりに沈む大蜥蜴に駆け寄る。
「カナタ、罠だ!!」
後ろから焦ったような声が聞こえ、どういうことだと振り向こうとした瞬間ーーー
「グボォオオオオオ!!」
木陰に隠れていたオークたちが開けたスペースを一気に囲い、俺はものの数秒で包囲されていた。
突然の状況の進行に脳が追いつかず困惑するが、直後に背後から聞こえたヒルクの声に身体が勝手に反応する。
そこには、同じく数十体に囲まれるヒルクとカレジ。
しかもーーー
「なんで、豚将軍が4匹もいるんだよ……?」
カレジたちの戦場に、他より巨大なオークが三匹。豚将軍と呼ばれるそれは俺の前にも1匹立ち塞がっていて、これから先の絶望的な闘いを想起させる。
だが、それは同時に違和感も感じさせた。
あそこから、オーク・リーダーが4体も逃げ出せる筈がないのだ。
もう既に、本拠地のオーク達と合流している可能性もある。
「くっそ、こんな簡単な罠に引っかかるなんて……」
せめて、ヒルクがこっち側にいれば、大蜥蜴を回復させることもできただろうに。
オークが、大蜥蜴を厭わない闘い方をしてしまえば、今の大蜥蜴は簡単に死んでしまう。
治癒魔術の適性がない自分に歯噛みし、俺を囲むオークに気付かれないように自己再生力を底上げする聖属性魔術を大蜥蜴にかける。
当然、治癒魔術程の効き目はないし、あくまでもその場しのぎだが、それでもかけないよりマシだ。
(まずいぞ、カナタ。〈超加速〉の使用も躊躇うな……!)
そう、脳内に響く剣の精の焦ったような声。
剣を構え、全方向に対応できるように神経を集中させる。
「ぐ、ゴオオオオオ!」
オーク・リーダーが地を震わせる咆哮を放つ。それと同時に向けられる殺気が爆発的に増えたのが肌で感じられ、雄叫びを上げながらオークたちが飛びかかってくる。
「〈超加速〉!!!」
それに立ち向かうように詠唱し、急激に放たれる魔術の奔流が俺を吹き飛ばす。
一瞬視界が途切れ、直後目の前に現れたオークの首を叩き切る。
骨が軋む音を無視して、俺は向かってくるオークを撃退し続ける。返り血を浴び、魔術の反作用でぼろぼろになりながら、それでも背に庇う大蜥蜴の為に戦う。
「お兄ちゃんは、優しすぎるよ……」
ふと、懐かしいそんな声が聞こえた気がした。
物語のペースが遅くてすみません。
なんか小説を書いていると色々書きたい描写が増えてきて、勝手にペースが遅くなってきてしまいます。
本当に申し訳ございません。
面白かったら評価やブクマ、感想よろしくお願いします。
……忘れた頃に言う僕




