クリスマスプレゼント
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ここではない何処か、北東西に別れた三大陸の西側、西大陸。
人間が席巻するこの大陸で、南半分ほどを治める最大国家、セーニョ大帝国。その【帝都】ルバドルの、聳え立つ巨大な城の中で、城下を見渡す一人の男が立っていた。
その日の【帝都】は、大陸南部にしては珍しく気温が氷点下を下回り、薄灰に雲がかった空からは息を呑むほど美しい雪がひらひらと舞い降りていた。
雄大に聳える石造りの城を囲うように広がっていく街並みを純白の雪が染め上げ、やがて帝都は白銀の輝きに呑み込まれていく。
魔力灯の薄い光に雪が鮮やかに照らされ、雪の穏やかな白色の乱反射が、暴力的なまでに美しい景色を作り出す。
「……やっとここまで来たよ、美弦。」
ふと、そんな幻想的な光景を城上から眺めて、男が長い息を吐くようにぽつりと呟いた。
―――呆れるほどに、美しい男だった。
20歳ほどだろうか、優麗で形のいい切れ長の瞳。まつ毛は恐ろしいほど長く、女性的な顔立ちと吸い込まれるような黒髪黒瞳が彼を美青年たらしめる。
彼の人間離れした美貌の前には、その身に纏う装飾過多な服ですら彼を引き立てる道具に過ぎなかった。
圧倒的な美の到達点である彼に見つめる街の美しさまで加えれば、それは最早ひとつの名画に他ならない。
「感傷に耽るのは後回しにしてください。…魔力装填は完了し、術式の準備も整いました。いつでも行えます。」
そうして物思いにふける男をものともせず、平坦な口調でそう告げるのは10代後半程度の紫髪の少女だ。
白一色で統一されたローブを身につけた飾り気のない格好でありながら、しかし少女もまた男に負けず劣らずの美貌で世界を美しく染め上げていた。
「相変わらず手厳しいな、ティロス。」
そんな少女の無遠慮さに苦笑しながら、男は静かに歩き出した。
居座る城の絢爛豪華な装飾には目もくれず、彼は数多の装飾品の中でも一段と豪華な椅子へと腰掛けた。
彼いわく、野球が出来る程広いこの部屋には今、輝く様な紅蓮のローブを身にまとった人々が大量に集まっている。
皆、この部屋の石床に書き込まれた幾何学模様の魔術陣を囲むように立っていた。
老若男女、規則性のない赤ローブの人々の顔に浮かぶのはそれぞれ恐怖であったり、緊張であったり、期待であったりと多種多様だったが、今この瞬間は総じて全員が椅子に座った青年に目を向けていた。
椅子―――否、「玉座」に腰掛けた青年がゆっくりと手を上げ、叫ぶ。
「最終動作、魔術陣の起動を開始しろ!」
「「「御意!」」」
澄んだ声が広大な部屋に響き、そしてその途端に紅蓮のローブを羽織った人々が床に手をつき、瞑想を開始する。
高まる集中、その両手から溢れるのは莫大な魔力だ。
「異世界間意識接続、完了!因果調整、問題ありません!」
「因果の発生を確認、世界間通路を構成します!」
「魂の固定を完了、肉体時間の巻き戻し―――成功!」
ローブを羽織った一人の男がそう叫んだ途端、魔術陣から、青白い光が迸る。張り詰める空気を肌に感じて、青年はその顔を盛大に歪め―――笑う。
「さあ、クリスマスプレゼントだ。歓迎するよ、我が勇者!」
―――溢れ出す光は留まることを知らず、広大な部屋を埋めつくした。
【2020年12月25日2時34分49秒、世界間移動召喚魔術ユグドラシル・展開】
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耳元でふと、何かがチリチリと焼ける音がした。
些細な違和感だった。普段なら、俺だって気にも止めずにそのまま睡眠を続行していたはずだ。
だが、無性に寝るなと訴えてくる本能と、酷く鼻を刺激する煙の匂い、それに、耳元に響く不快な音で、俺こと近藤奏多は、暗闇に沈んでいた意識を引っ張りあげて目を覚ました。
意識が浮上すると、これまで気になっていなかった周囲の音が一斉に俺の鼓膜を震わせ、突き付けられる圧倒的な情報量に再び眠りにつきたい気持ちに駆られる。
体感ではまだ深夜だ。
そういえば今日はクリスマスだが、うちは今週、両親とも出張だからクリスマスプレゼントはない。
まあ、中二にもなって今更プレゼントどうこう騒ぐ気は無いが、小五の妹が少し哀れだった。
どちらにしろ、俺の中では睡魔が勝っている。周囲の音も目に入る光も、何もかもが曇りガラス一枚隔てたかのように曖昧だ。
少しズレた布団を元の位置に戻すため、一度身体を起こそうとして―――
「……あ?」
―――体が、熱に包まれていることに気付いた。
ストーブでも付けっぱなしにしていたのだろうかと、まだ未覚醒の頭がぼんやりそんなことを考える。
ただ、肌を舐るようなその熱に、何処か言い知れぬ不快感を覚えて、俺は静かに、今度はしっかりと瞼を開いた。
遅れて開かれた視界に映るのは、轟々と周囲を照らしながら揺らめく赤い何かだった。
それに本能的な危機感を抱くと同時、自分が今、ストーブなんかでは有り得ないほどの熱波に包まれていることを遅まきながら自覚する。
そして、浮上した意識が決定的な情報を捉えた。
「火事です、火事です。火災が発生しました。」
何処か恐ろしい警報と共に、アナウンスが爆音で家中に響き渡っていた。何だ。夢でも見ているのか?そんなことが思考の片隅によぎるが、脳に響いてるくるその音は圧倒的な現実感を伴っていた。
何が起こっているのか、靄がかかった思考が咄嗟に解答を求める。
こんな音、俺の母がスパゲッティを作ろうとして爆発した時にしか聞いたことがなかったのだ。
あの料理オンチ、また禁忌に手を出したのか。明に任せておけばいいのに。
そうやって、益体のない思考で誤魔化す。
いや、違う。本当は、分かっていた。
焦点の定まらなかった視界が、ようやく本来の機能を取り戻して、俺に現実を突きつけてくる。
それはまるで、逃がさないとでも言っているようだった。
広がっていく「赤」の中で、俺は呆然と、呟くしか無かった。
「なぁ、嘘だろ……?」
俺の視界に写ったもの。それは―――
炎に包まれた、自分の部屋だった。
一瞬で、思考が根こそぎ刈り取られる。
真っ白になった頭は、ただ目の前に広がる非現実的な光景を、呆然と見つめる事しか許してくれない。
俺が小学生の頃から使っていた勉強机が、上に載せられた数々のプリントと共に灰に還る。
壁に飾られたトロフィーや賞状は、幼稚園からやっているバドミントンの大会で得たものだったが、それも既に炎に呑まれていた。
必死に勉強して、中一の頃に取った英検準1級の証書も、ゲーム機も、高校入学の際に校門前で父と撮った写真も、友達と買ったキーホルダーも。
燃え盛る炎は何もかもを平等に燃やして、俺の宝物を奪っていく。
あまりに唐突に押し付けられた非現実的な理不尽に脳が理解を拒み、体は頑なに動かなかった。
その間、炎に呑まれることがなかっただけでも奇跡のようなものだろう。
これは火事で、俺は逃げなければ死ぬ。脳内では、今もうるさいほどに危険信号が流れていた。
だが、いくら現状を理解できても、体が金縛りにあったかのように動かない。あまりにも見ている光景に現実感が無さすぎて、夢を見ているかのようだった。
離人症というやつか、なんてやけに冷静に自分の状況を判断していると、ふと右足に猛烈な違和感を覚えた。
「ぐ、ぁぁあっ!?」
違和感は加速度的に増していき、やがて信号が脳に伝達、一瞬遅れて爆発的な痛みが右足を襲った。
まるで熱したフライパンを押し付けられたような痛みに、動けなかった身体が反射的に作動する。
痛みから逃れるように、布団を除けて立ち上がる。
右足の肌は赤黒く変色し、皮膚がただれたような醜い熱傷。恐らく、二度と完全には消えないような火傷だった。
通常の生活を送っていればまず味わうことの無い焼き付くような痛みに、脳がかつてないほどの危険信号をあげる。痛覚神経の大絶叫が脳内に響きわたり、思考が痛みに塗りつぶされる。
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁあッ!!!!、はっ、はっ、クソ……めっちゃ、痛ぇ…!」
よく見ると、布団の一部が燃えていた。あのまま呆然としていたら、俺はきっと火だるまになっていただろう。冷や汗をかきながらも必死に、歯を食いしばって痛みを堪える。
混濁していく思考を強引に正し、冷静に状況を把握していく。
「寝転んでたから、煙は吸ってないがーーー」
どちらにしろこのままでは、火だるまになるのも時間の問題だ。
右足からは猛烈な痛みに襲われている。このままドアから逃げたとして家全体がこの状態ならどちらにしろ怪我をした俺に逃げ場はない。
呆然としている間、部屋を侵食するように進んで行った炎は、俺の行く先をかなり絞っていた。
「ああもう、消防は何してんだよっ……!?」
恐らく、この規模の火事なら外からでも見えるはずだが、未だ救急車や消防車のサイレンは聞こえない。
火の手が上がったのがついさっきなのか、深夜であるせいで人が通っていないのか。どちらにせよ、救助を待っている時間はない。
消防車の到着は通報から平均約8分、到着から救助までには最短でも数時間はかかるだろう。
そんなもの、待っている間に確実に焼き焦げる。
「考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ――――!」
頭をフルで回転させる。
俺がすることは簡単だ。なんとか部屋から脱出して1階へと降り、キッチンにある裏口を使い家から脱出すればいい。
一酸化炭素中毒にだけはならないよう、姿勢を低くするだけでいい。大丈夫、絶対に助かる。
昔から、頭の回転は早かった。
バドミントンでは全国大会まで行ったし、中学の時のテストだって常に10位以内をキープしていた。高校は、地元でもトップの公立高校だ。近藤家の神童だと、昔から持て囃されて育った。
高校に入学して一年が経とうとしている今でも、文武両道は維持しているつもりだ。
身体能力も頭の回転も、俺は平均を凌駕している自負はある。寝起きが悪いのは、そのちょっとした反動と考えればいい。どちらにしろ、俺の能力なら問題なく切り抜けられるはずだ。
それでもあいつに比べたら、俺なんて凡人なのかも知れないが。
「……ぁ」
あいつ。
小学五年生の、大嫌いな俺の妹、近藤舞香。
舞香は今、家にいる。
「俺、は……」
あいつが、逃げているという保証はない。
俺より寝起きが悪いくらいだ、避難が遅れている可能性だってあるだろう。何より今、あいつは自分の部屋で独りだ。11歳の少女が、一人で避難できるのだろうか。
まだ、家の中にいるとしたら。
――――やめておけと、生きる為の本能が訴える。
俺が逃げたら、あいつを見捨てることになるのか?
――――馬鹿馬鹿しい、なんで俺が舞香の為に。
脳裏に浮かぶのは、物心ついた頃から全てをハイレベルでこなす舞香の姿。
そうだ。俺はいつの間にか、あの完璧な妹の「ちょっと不出来なお兄ちゃん」になっていた。
だから俺は、あいつのことが好きじゃない。
むしろ、嫌いだった。
小さな街で持て囃されて、調子に乗っていただけの俺のちゃちなプライドは、あいつにズタズタに引き裂かれて、才能の差っていう物がどれだけ救いようのない残酷なものなのかを、小学生にしていきなり叩きつけられた。
俺は、自分の努力を何もかも才能でぶちのめして、涼し気な顔をしている舞香の顔が、堪らなく憎かったのだ。
だから冷たく当たったし、受験期で精神が不安定になっていた時は、手さえ上げてしまったことだってあった。
お陰で兄妹仲は最悪だ。最近はほとんど話すこともなかった。
ただ、ただそれでも、産まれた時から見ているのだから、分かっていた。
「………あいつは天才で愛想も悪いけど、でも、まだ11歳なんだよ。」
あいつがどれだけ天才だろうと、才能があろうと、今はまだ小五の少女でしかない。
だとすれば、俺は。俺はーーー
『助けるのは、お兄ちゃんの役目だろう?』
いつかの父、近藤明の言葉が脳内を迸って、気付けば俺の身体は動いていた。
火に巻かれる直前のドアを無理やりにこじ開け、廊下に出る。
既に、廊下は一面炎に包まれていた。
「待ってろよ、舞香……!」
妹の名を呼び、燃え盛る家の中を探し回る。
妹の部屋は1階だから、探しに行くついでに退路を確保すればいい。ドアを開けておけば開かなくなることも無い。
火災現場においては些細な油断も命取りだ。
二階建ての我が家では崩落も注意する必要があるし、バックドラフトも想定して開けるドアは必要最低限に抑えた。
階段を、死にそうになりながら下る。
炎に舐られて肌が焼き焦げる音が、やけに明瞭に耳朶に響いて。
「なんで、居ねぇんだ……!?」
死にそうになりながら辿り着いた妹の部屋には、既に誰もいなかった。いや、寝ていた痕跡すら残っていない。玄関のドアは鍵も閉まっていたし、外に出た訳ではないはずだ。
裏口が開くことだけ確認し、外に出たい欲求を必死に堪えて家の中を捜索する。消防が来てからでは、おそらく間に合わない。この勢いでは全焼する方が早いだろう。
考える、他に妹がいる可能性のある場所は――――
果たして、何分ほど家を彷徨っていたのだろうか。
痛む足を引きづりながら炎に包まれた家の中を進んでいく俺に限界が訪れるのは、そう遠くないことだった。
「う、ぶ……」
煙が喉を侵食し、段々と呼吸が苦しくなっていく。喉から、無意識に首を絞められたかのような音が出る。
一酸化炭素中毒で頭がふらつき、思考がおぼつかなくなってくる。有体に言えば酸欠だ。
視界が歪み、夢と現実の区別がつかなくなる。身体の内側から焼かれているような不愉快な痛みと苦しみに、少しずつ意識が遠ざかっていくのを感じた。
駄目だ。ここで倒れれば、俺だけじゃなく、きっと舞香だって死ぬ。
「舞、香……」
もう逃げてる、なんて甘い希望は抱くな。
まだ家の中にいると、俺の勘が告げていた。
いくら炎を避けてもその熱波はやはり肌を焦がし、既にあらゆる箇所に火傷が出来ていたが、悲鳴をあげる身体を無視して、妹を探し進んでいく。
右足は既に死んでいる。ほとんど動かない所か、痛みすらも何処か曖昧だ。
だからこそ、まだ動ける。痛みに飲み込まれなくて済む。
足を引きづるようにして、一つ一つ扉を開けていく。
だが舞香は見つからず、足の痛みと煙で意識を手放しかけたその時。
俺の耳に、微かだが声が聞こえた。
「助……て!」
舞香の声だった。聞こえたのは2階から。
迷わず進み、1階を探索していた俺はかなり遅いペースながらも何とか再び2階へと上がり、声のする部屋へと飛び込んだ。
そこは、両親の寝室だ。共働きでどちらも多忙の為にここにいる時間は少なく、たいして使われていないその部屋は小綺麗に保たれている。
ここは妹のお気に入りの場所で、幼い頃はここでおままごとに付き合わされていたことは、今でも覚えていた。
舞香は、確かに成績優秀でなんでも出来る神童ではあった。ただそれでも、精神面に関しては未だ小五の子供でしかない。
ただ生まれつき類稀な才能があっただけで、精神は、周りの同級生と何一つ変わらないのだから。
ーーーそして既に、そんな微笑ましい思い出が残る部屋の面影は無かった。
ここが出火元なのか、原型を留めていないほど激しく燃え盛る部屋の中央で、舞香はへたりこんでいた。
「お兄……!!」
絶望に潤んでいた妹の顔が、ほんの僅かに緩んだのが分かる。日本人離れした高い鼻に完璧な顔のパーツ。吸い込まれるような黒瞳と黒髪が、憎らしいほど美しかった。
やはり、俺は舞香に全てにおいて負ける運命だったのではないか。
この天才を、兄として支えさせる為だけに、神に作られた人間なんじゃないだろうか。
そうやって、運命を呪った記憶が蘇る。
だからきっと、これも運命なんだろう。
天井の『それ』に気付いてしまえば、俺は、もう。
「ーーー」
俺は、舞香に声をかけることも無く全速力で走った。間に合わないと、本能的に理解したからだ。
右足の痛みなんて、一切気にならなかった。
「な、何…!?」
ただ、少しだけ怖いと思う気持ちを押し殺して、俺はこの身体を突き動かす意味不明な衝動に身を任せる。
全力で舞香へと駆け寄ると、俺はそのまま舞香の両手を取る。そして、走ってきた勢いそのままに舞香を、残った渾身の力を込めてドアの方へ投げ飛ばした。
突然の行動に理解が及ばないのだろう、投げ飛ばされ、強かに壁に背中を打ち付けた妹が、唖然とした顔でこちらを見る。
だがそれも、俺の頭上に視線が行くと納得したようだった。
「ーーーぁ」
頭上から、有り得ないほどの熱を感じる。まるで、太陽が迫ってきているかのようで、振り向いてはいけないという本能に従って、必死で現実から逃避する。見ようとしてはならない。恐怖に、押し潰されてはならない。生きようとする本能が、うるさいくらいに頭の中で鳴り響いていた。
安心させようと、微かに微笑む暇もなかった。
かけれるのは一言だけ。せめて、最期にーーー
「生きろ、舞香。」
ーーーああ、死ぬのって、こんなに怖いんだな。
舞香が俺の頭上に迫るそれを認識し、絶望に染まる顔が目に焼き付く。その瞳は、どうしてと、そう問いかけているようだった。
俺だって、分からない。
どうして俺が、こんな事を嫌いだった妹にしなければならないんだと。兄妹仲は最悪で、家族の情なんて感じたことすらない。心の底から嫌いで、死を望んだことだってあったのだ。
そのはずなのに、胸に滾る熱を、想いを、無視できなかったから。
今、ようやく理解した。
「俺はただ、お前に憧れてただけなのかもな」
口の中で、そう静かに呟いた刹那。
火事の影響で崩落した天井が、完膚なきまでに俺の身体を押し潰した。
肉の焼ける音と酷い匂いが、五感を圧倒的に蹂躙する。痛いなんて感覚は超越した、絶望的なまでの死の『痛み』。
激痛の中で諦観だけが残って、俺の意識はゆっくりと虚空へ消えていく。
ただ最後に、消えそうな心の中で、無くなりそうな思考を必死に纏めて、この思いが世界に通じるように強く、強く。
『妹に謝りたい』と。そう、願って。
――やがてその場に残ったのは、目の前で兄に先立たれた、哀れな少女だけだった。
俺はクリスマスの日、妹を庇って死んだ。
【2020年12月25日2時34分49秒、世界間移動召喚魔術ユグドラシル・起動】
【対象が未死亡の為、付近の魂で代替】
【世界間移動に伴う肉体修復を開始】
【代替対象名:コンドウ カナタ】
【プログラムに従い、ユニークスキル『勇者』を移植】
【『勇者』の移植に失敗。エクストラスキル『天才』を入手。】
【END:召喚完了を確認、ユグドラシルを停止します】
面白そうだったら評価してくれると助かります。
至らぬ点はあると思いますが良ければ暖かい目で追ってくれると嬉しいです!