8 勇者ピリポ、ルチカを連れて故郷の村ワッセへと戻る!
トソの村に入ることが出来なかった俺とルチカは、数日かけて森を抜け、俺が生まれてから16年暮らしてきた、ワッセの村に帰ってきた。
門番には、おとなりのヨームさんとこの息子のキセー……俺と子どものころからつるんできた友だちが立っていた。
「うわあ! お帰りピリポ! 無事だったんだな」
「おう、キセー! 何とか帰ってこれたよ」
「……その子は?」
「俺の……嫁のルチカ」
「嫁ぇ!?」
「……こんにちは」
ルチカがぺこっと頭を下げる。
「うわっと! 何? めちゃくちゃ可愛いじゃん。ともかく村長に知らせてくるよ! 待っててくれな!」
キセーはあわてて村長の家に飛んで行った。たちまちのうちに、村に俺が邪竜ファフナーの巣から戻ってきたことが知れ渡り、村長は俺たちのところへ飛んで来た。
「ピリポ! ……して、どうだったのじゃ、ファフナーの奴めは?」
「結論から言うと、東の山には、もぬけの殻の洞くつだけがありました」
チクリ、と俺の良心が痛む。バカ正直に生きてきた俺が、ルチカを守るためにつく初めての嘘だ。だけど、ここを正直に言ったら、ルチカは追い出されるか、父親のファフナーに対する恨みつらみをその身に引き受けてボコボコにされるか……何にしても、そんな目に絶対に遭わせるわけにないかない。
「なんと……」
「逃げていったのか、気分が変わって去っていったのかは分かりませんけど、とにかく、もうここいらの域は、あの洞くつのファフナーを恐れる必要は無くなったんです」
「それはめでたいことじゃのう!」
村長が、白髪と白ヒゲを揺らして笑った。
「して、そのお嬢さんは……?」
「えっと……あの、俺の嫁になったルチカです」
「嫁!?」
「は、はい」
「なんと、そんな大切な相手をさっそく見つけてくるとはのう!」
かっかっか、と村長が笑い声をあげる。
「良い良い。これでファフナーめの様子は分かった。勇者ピリポよ、お袋さんと親父さんに報告に行くが良い」
ファフナーの恐怖から解放された村長の笑顔を後に、俺はルチカを連れて我が家へと向かった。