7 勇者ピリポと邪竜ルチカ、トソの村の門番に入れてもらえず!
俺は洞くつの奥にあったドラゴンの卵を拾い、背負った。ルチカには、そのぶん持てなくなった俺の荷物を持ってもらった。
トソの村に戻ってくると、入り口の見張りに立っていた、俺に洞くつ調査の依頼をしてきたあの村人さんが笑いかけてきた。
「やあ、勇者くん。洞くつはどうだった? うん、その子は……?」
村人さんが、不思議そうな顔でルチカを見る。
「あ。えっと……」
俺は、ルチカに聞いた話を、そのまま村人さんに打ち明けた。まずいかな? とも思ったけれど、ヘタな嘘をついても、悪いと思ったからだ。
「なんだって。じゃあ、ファフナーはもういないのか」
「はい」
「ありがとう! だけど……その子がファフナーの娘なのか……」
「……親父がいろいろと、迷惑かけました。オレも、野菜とか鶏を盗んでごめんなさい」
ルチカが頭を下げる。
「いや! ファフナーのやつに比べたら、まったく屁でもないんだが。だけど……さすがにドラゴンを、うちの村に迎えることはできないよ。ファフナーのやつに家族を殺された村人もいるからな」
「……そうですよね」
俺もその言葉にはうなずいてしまう。
「だけど! ルチカはとてもいい子なんです」と、俺はルチカをかばった。
「分かるよ! その態度を見てても、しっかりとしたお母さんに育てられたのは分かる。だが、新しく生まれてくるドラゴンの卵といい、かつての村の大敵の子どもを、受け入れることはできないんだ……悪いが、早々にここを立ち去ってくれ」
村人さんの態度は頑なだった。
「分かりました。まあ、ファフナーがいなくなったことだけは、皆さんに伝えておいてください。俺たちはすぐに立ち去りますので」
「……本当に、すまないね」
村人さんは、心底申し訳なさそうな顔をした。
俺は、予想はしていたが、そのとおりの態度をとられて、すこしガッカリしながらトソの村を離れた。
「な? ドラゴンなんて、嫌われてるだろ」
ルチカが寂しそうに言う。
「だけど! ルチカが野菜や鶏を盗んでいたのは、生きるためだったわけだし。これから生まれてくるドラゴンが、いいか悪いかなんて、今から分かるわけもないじゃないか!」
「うん……ありがとな、ピリポ。でも、人間に嫌われたくなかったら、オレなんかと離れた方がいい」
「その選択肢は無い!」
俺は、強く首を振った。
「よし! ルチカ。俺と結婚しよう!」
「いいぜ。って……ピリポ、い、いきなり何だよ」
ルチカが顔を真っ赤にして聞いてくる。……うん、可愛い。
「今から俺の村に帰ろうと思うんだけどさ。ルチカがドラゴンだからって嫌われるなら、とりあえずはそれを隠しとけばいいんだ。今回みたいに正直に話したら村に入れてもらえないなら、そうするしかないだろ。で……旅先で見つけた俺の嫁、ってことにすれば、ひとまず俺の村に帰れるよ」
「そうか……いいのか、ピリポ。オレのために……親や友だちに嘘をつくことになるんだぜ?」
「ルチカに、ひとりで苦労させるわけにはいかないよ! 俺はへっぽこの新米だけど、これでも勇者だからな!」
「ありがと……ありがとな、ピリポ! 一生ついてくぜ!」
ルチカが俺を抱きしめて、ぽきぽきぽきっ、と毎度おなじみとなりつつある、俺の骨がまた砕けた。
ははは……うん、ルチカは、本当は気が良い子だし……可愛いし。ひとまずつく嘘とは言え、俺の嫁にはもったいないくらいかもしれない!